【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

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10 Alice Side ②

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という言葉が耳に残る。

「え……な、何言って。あ、あなたは普通じゃないわっ!だって、」
「普通です。毎日決まった時間に起きて、食事を取って、仕事をして、社交界に出て……何一つ他の貴族とは変わりません」
「そ、そんなの……」
「国から何か援助を頂いていた訳でもありませんし特別な権利も持っていない。私の肩書きはプロティオス伯爵令嬢、この一つのみです」

淡々と告げる彼女から目を離せられない。

話を聞いているだけなのに格の違いというものを嫌でも見せつけられる。
何でこんな人をホリックは酷く言っていたの。

「ところでアリスさん、ホリック様を国に置いてどちらに行こうとしたのですか?」
「!!!」

スッと目が細められる。
まるで心の奥底を覗かれているみたい……怖い。

「わ、私は……」
「ダメですわ。愛する人と離れるなんて、早くお戻りになって」
「っ、冗談じゃないわ!嫌よ!何で私が……」
「貴女が聖女として現れたからです」

聖女。
ゴクリと唾を飲み込み、私は小さく震えながらニーナさんを見上げる。

「そ、そんなの……ホリックが勘違いしただけで私は何も言ってない……」
「いいえ、貴女はその勘違いを見逃した。黙認した。もう答えは出ています」

そうでしょ?とニーナさんは私の頬を撫でる。
美しすぎる顔が近付きそっと耳元で囁いた。

「随分と好き勝手なされたようで」

その瞬間、背筋がゾクッとしてしまった。


『シルフィ。この治療が終わった人たち、みんな私が治したことにしてくれない?ホリックに褒められたいのよ』
『モランっ!怪我人ばかり連れて帰って来ないで?回復魔法って疲れちゃうんだから』
『エイ……あのね、ホリックと喧嘩したの。だから優しく慰めてくれる?』

思い出されるのはこの2年半の記憶。
どれもエイたちとの何気ない会話だ、それをどうしてこのタイミングで……


「楽しかったですか?ちやほやされるのは」
「ちがっ!」
「国民はいつ襲ってくるか分からない魔王に怯えいたと言うのに」

ハァと深くため息をつかれ私はカッとなる。

「良いじゃないっ!私はちゃんと騎士たちを治療したわ!ちょっとくらいの文句やご褒美があったって!」
「そんなもの、ニーナ様には何一つ与えられませんでしたよ」

そう言ったのは、彼女の後ろに控えていたエイだった。
彼は冷たい目で睨みつけてきた。

「誰にも評価されず、驕らず、この人は守ってきたんです。それを台無しにしていい訳がない」
「そ、んなの……私は知らな、」
「魔王を討伐出来なかったのはアリス、貴女のせいでもあるのよ」

シルフィは言った。

「なにそれ、」
「魔王討伐の前夜、随分とお盛んだったよなァお前たち」
「っ!!へ、変態っ!!」
「その影響で団長が心臓を仕留め損なったとすりゃあ……な?」

エイやシルフィは軽蔑の眼差しで私を見る。
な、なによ……何でそんなこと、あるわけ無いじゃない。

「アリスさん、あの聖なる大剣には私の魔力が込められていました。純度でいえば100%、洗練されたそれは他の人間の魔力が触れれば力が半減します」
「………だから…なによ」
「討伐前夜、あの剣にしましたか?」

あの夜?剣に何かしたって………

「!!!」
「そのご様子だと思い出したようですね」

そうだ。
あの夜、私はあの剣に初めて触れたんだ。

『アリス、祈ってくれ。君の想いが込められたこの剣なら俺は誰よりも強くなれる』
『いいの?この剣ってホリック以外は触れちゃダメなんでしょ?私なんかが触っちゃダメだよ……』
『少しくらい良いだろう』

ほんの少しだけ触れてホリックの無事を祈った。あとはちょっとだけ私の魔力を流し込んで、それで…!!

「あ、あれはっおまじないみたいなものでっ!そんな大した量の魔力じゃないしっ!」
「それでも剣は汚された。そしていつもと同じ効力を失った剣は不本意にホリック様の腕を鈍らせたのです」
「わ、私じゃなくてホリックの魔力かも知れないわ!誰にだって多少なりとも魔力が通って……」
「ホリック様には魔力はありません」

追い詰めるような冷たい声に本能が叫んでる。
逃げろ!早くこの場を離れろって!

「あの方はとても珍しい、魔力を一切持たない人間。だからあの剣の持ち主になれたのです」
「そ、そんな……」
「……ホリック様には魔力のことは告げませんでした。プライドの高いあの人が、私の力で討伐すると知ったら何をするか分かりませんから」

そう言ってニーナさんは私の目の前でパチンと指を鳴らす。

「……正直、あの人にそこまで愛されている貴女に嫉妬しました。まぁ砂粒ほどもありませんが」



次に私が目を覚ますと、そこは逃げ出したはずの貴賓室のベッドの上だった。
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