誰も愛さない

まめ太郎

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 母はあまり料理が得意なほうではないが、このミートボールスープは絶品だ。

 何で俺牛丼なんか食べたんだろ。
 くじの結果も凶だし。

 今からミートボールスープもここで食べていってしまおうかとも思ったが、最近腹の肉がたぷついてきた自覚のある俺は、ぐっと堪えた。
 リビングを開けると、座っている父親の背中が目に入る。

「おかえり、唯希」
 振り返って父が言う。
「ただいま」
 微笑んでそう返した。

 俺はコートを脱ぐと、父親の隣の椅子に座った。
 父親は40をとっくに超えていたが、目尻に細かな皺ができてきたくらいでとても若々しい。
 今日も働いた後だろうに、父からは少しも疲れた様子が見られなかった。

「仕事の方はどうなんだ?」
「まあ、順調」
 俺の前に紅茶のカップを置いた母親に礼を言いながら父に応える。

「父さん。まさかまだ、俺の会社を買収しようだなんて考えてないよね?」
「唯希が望むなら、いつでもそうするつもりだよ」
 父が微笑んだ。
「そんなの一生望まないから」
 俺はため息をついた。

 父親の樹は心配症というか過保護だ。
 まず俺の入社先が自分の会社ではないことに父は激怒した。
 そんな父をようやく説得し今の会社に入社したはいいが、父は俺の就職先を買収しようと考えていたのだ。
 それを知った俺は慌てて父に思いとどまるように懇願した。

「なんでそんなに嫌がるんだ?お前の会社は小さいながらも優良企業だし、買って損はない。買収した後で、唯希は部長くらいから始めればいい」
「部長とか簡単に言わないでよ。この年齢で課長ってだけでも胃が痛いのに」
「唯希、体調が悪いのか?」
 目の前に座った母に俺は首を振った。

「そんなことないよ。ちょっと課長って役職にプレッシャー感じているだけ」
 そう答えると、ほっと母の顔が和らぐ。
 母も父と同い年の男性型のオメガだが、生みの親ということで便宜上母親と呼んでいる。
 母は垂れた目尻が可愛らしく、こちらもちっとも40代には見えない容姿だ。 
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