誰も愛さない

まめ太郎

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 店内の個室に入り適当に注文を終えると、祖父がやって来た。
「遅れて悪かったね」
 祖父と父はビール、俺は梅酒で乾杯する。

「それでネクタイを贈る相手ってどんな奴なんだ」 
 ほろ酔い状態で、ミディアムレアに焼けたステーキを口に運んでいると唐突に父から尋ねられた。

「えっ、だから同い年の営業の男性で」
「アルファか?オメガか?ベータか?」
「アルファだけど……なんだよ。父さん急に」
 父親の質問責めに俺は困惑した。
「だってその相手って唯希の恋人じゃないのか?」
 俺は父の言葉を聞いて、顔が真っ赤に染まった。

「そんなわけないだろ。ただの同僚だよ。一体なんでそう思ったの?」
「いや、だってなあ。なんだか今日の唯希、明るいし。ネクタイを選んでいる時も妙に真剣だったし」
「そりゃ、お世話になった人へのプレゼントだし。それに俺、いっつもそんなに仏頂面だった?」
「そういう意味じゃないよ」
 父が慌てて首を振る。

「ただ最近の唯希は顔色があまり良くなかったようだから、体調がすぐれないのかと心配していたんだ。でも今日は元気そうでなによりだ」
「そっか、心配かけてたんだね。ごめん」
「いや、唯希が元気ならそれでいいんだ」
 父さんの言葉に俺は微笑んで頷いた。

「でも唯希はそのネクタイをあげる相手を憎からず思っているんだろ?」
 祖父の言葉に俺は口に含んでいた椎茸を吹きだした。

「そうなのか、唯希」
 カッと目を見開いた父が問う。
「優しいし、本当にできた男だとは思ってるけど」
 俺はズボンのポケットに触れた。
 そこには大賀に「勝つ」と書いてもらった抑制剤が入っていた。
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