楽園の在処

まめ太郎

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 三枝は俺に金が欲しいなら、一ケ月は外出するなと言い渡した。
 一ケ月後には、硝は仕事で海外に行ってしまうらしい。
 それから半年間はヨーロッパを周り、あちらのファッション業界に顔をうるそうだ。

「まあ、俺には関係ないけどな」
 独り言が増えた自覚はあった。
 ため息をついて、寝転がっていたソファから体を起こす。
 金はあるのに、外出禁止のせいで使う事ができない。
 スマホまで取り上げられているせいで、テレビを見るくらいしかやることがなかった。
 食べて寝て、食べて寝て、こんな生活を続けていたら、あっという間に。
「太るよなあ」
 また一人呟くと、玄関から扉の開く音がした。
 三枝かと身構えたが、リビングに入ってきたのは見覚えのないスーツの男だった。
 無言で俺にスマホを押し付ける。

「話せ」
 男はそれだけ言った。

 俺がスマホを耳に当てると、聞きなれた声が鼓膜を震わせた。
「久しぶりだな」
 藤崎の声に俺の眉間の皺が深くなる。
 こいつにどうやって俺がここにいることを知ったんだ?なんて聞くのは、愚問だろう。

「硝のこと捨てちまったんだって?」
 そう言う藤崎の声はどこか楽し気で、俺のいらだちは更に増した。
「三日前か。マンションの前で、硝が立っててな。撮影ですかー?なんて若い女から声かけられてたぜ」
 知りたくもない情報なのに、体が凍りついたように固まり、通話を切ることすらできない。俺はただ藤崎の声に耳を澄ませた。
「俺を見つけると、あいつ殺しそうな目で睨んできやがって。いきなり胸倉掴んで「海はどこだ」とほざくから、一発殴ってやった。あっ、ちゃんと配慮して顔は殴らないでやったからな」
「聞いてねえし」
 ぼそりと返すと、「くくっ」と笑い声が漏れた。
「まあ、お前の方は言い返す元気があるようで、良かったよ。硝のツラ、死人みたいな色だったぜ。がりがりにやつれちまってなあ」
 そう言われて俺はぐっと言葉を詰まらせた。
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