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 俺は絶望にくしゃりと顔を歪めた。
 何とか耐えようとしたが、体の熱は限界まできている。
 もう単位なんてどうでもいいと、俺は席を立とうとした。
 しかし足に力が入らず、少し腰を浮かせただけで、また座りこんでしまう。

 言うことを聞かない自分の体が不甲斐なくて、自分から発せられているリンゴの匂いが不快で、俺は静かに一筋の涙を零した。

 その時、教室前方の扉が開いた。
 スーツ姿の唯人だった。
 俺を見て唯人は表情を険しくした。

「どなたですか?部外者の方が勝手に授業中に入られては困る」
 唯人は話かけてくるミッチをオーラと目線だけで黙らせた。
 周りも唯人のアルファとしてのオーラに圧倒されて、一言も発しない。
 普段あまり感じないが、やはり唯人はアルファの王なのだ。

 唯人が俺の前でしゃがみこみ目線を合わせる。
「辛かっただろ?もう大丈夫だからな」
 俺は安堵の息を吐くと、唯人の首に両腕で縋りついた。
「うん。分かってる。早く帰ろう」
 唯人が俺を抱きあげ、悠然とした足取りで出口に向かう。

「ちょっと、何を勝手なことを」
 ミッチが喚いた。
 唯人がくるりとミッチの方をむく。

「生徒のオメガがヒートになっているにも関わらず、ちゃんとした対応もとらず授業を継続した。これは完全なるパワハラだ。学校の方にはあとでちゃんと報告させてもらいます」
 俺が熱い体を持て余す様に震わせると、唯人があやすように額にキスをする。

「それから私の番を傷つけたことについても、あなた個人から後日謝罪していただきます」
「若造が偉そうに。俺を誰だと思っているんだ」
 ミッチが赤い顔で怒鳴る。
 唯人が大きなため息をついた。

「あんたは俺よりも自分が上の人間だと信じているから、そういう態度なんだろうな。それもいいだろう。徹底的にやろうじゃないか。言っておくが、俺は負ける喧嘩はしない主義でね」
 威圧するオーラをまき散らす唯人にミッチが怯む。

「別に私は」
 何か言おうとするミッチを唯人が氷のような視線で黙らせる。
 唯人は俺を抱えなおすと、そのまま教室を後にした。
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