全部、抱きしめる

まめ太郎

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 俺は泣きだしそうな気持で、幼馴染を見上げた。
「真。俺こそごめん。でもここでお前を抱いたら、俺は蔵元と同じ最低野郎になっちまう」
 樹のジーンズの前ははっきりと形を変えていた。
 そんな自分を厭うように樹は頭を振ると、電話をかけた。

「あっ、和希さん。うん。真見つけたよ。ただヒートになってて。俺だとちょっとやばいから迎えに来てくれないかな。場所、地図送るよ。うん、お願い」
 樹は電話を切ると、俺に微笑んだ。

「真。もう何も心配しなくていいからな。大丈夫だ」
 俺はその笑顔を見たら体はヒートで辛いのに、気持ちは落ち着いてきて、ようやく笑みを浮かべることができた。
 
 それから父さんがやって来て病院に連れて行ってもらった。
 処方されたアフターピルをすぐに飲んだが、行為からだいぶ時間が経っているせいで、効き目が完全ではなく、妊娠している可能性もあると医者に言われた。

 早朝に俺は帰宅した。
 病院で処方された抑制剤は良く効いて、発情期の症状が嘘みたいに消えていた。
「とりあえず、休みな」
 リビングで父さんにそう言われ、俺は自室に戻るため階段を上がった。

 目を閉じるとリビングの机の上に置いてあった俺の大好物のオレンジチョコレートケーキが浮かんでくる。
 父さんの疲れた顔とケーキのことを思うと、胸が痛かった。
 
 眠いはずなのに、よくない考えがいくつも頭をよぎり眠りに落ちることができない。
「妊娠の可能性が……」
「性病の検査も……」
 病院で医師から言われた様々な言葉を思い出す。
 ぎゅっと目を閉じ、樹の顔を思い浮かべる。
「真。もう何も心配しなくていいからな。大丈夫だ」
 樹の声が耳元で聞こえた気がした。そうして俺はようやく肩の力を抜くと、とろとろと浅い眠りについた。

 目覚めるともう夕方だった。
 腹が減って、階下に降りるとスーツ姿の唯パパがリビングに立っていて驚いた。

「唯パパ。どうしたの?仕事は?」
 唯パパが休日でもないのに、こんな時間に家にいるのは珍しいというかほとんどなかった。
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