全部、抱きしめる

まめ太郎

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「お前、何やってんだよ」
 隣の部屋から壁をつたって来たのだろうが、窓同士かなり距離があるし、二階とはいえ、落ちたら骨折では済まない高さがあった。

「真が素直に部屋に入れてくれりゃ、俺だってこんな真似しなかった」
「お前なあ」
 樹はベッド上で俺の隣に胡坐をかいて座った。

「で、お前どうすんの?」
 全ての事情を知っているような樹の口調に俺は目線を落とした。
「そんなの分かんねえよ」
 吐き捨てるように言う。

 みんなが俺に決断を迫る。
 俺も自分自身に問いかけている。
 でも答えなんて最初から決まっているのだ。
 俺には子供を育てる自信なんてない。
 だったら。

 俺はそっと自分の下腹部に手をやった。
 そんな俺を樹はじっと黙って見つめている。
「どうするのが一番いい答えなのかは俺だって分からない。でも多分そうしなきゃいけないんだろうっていうのは分かっているから」 
 涙が押しあがってくる感覚があり、俺は唇を噛んで耐えた。

「できれば、ヒートが起きる前に時間を巻き戻したい。でもそんなことはできないのは分かってる。だから俺は決めなきゃいけないんだ。この子を……」
 俺は腹に触れていた己を手をぎゅっと握った。
 樹がその俺の拳にそっと触れ、自分に引き寄せる。
 突然のことで俺はそのまま、樹の胸の中に倒れこんでしまった。

「産めよ。真」
「えっ」 
 俺はまぬけな声を上げた後、樹を睨みつけた。

「他人事だからって簡単に言うんだな」
「簡単に言ってるように見えるか?俺、自分の発言に責任はもつつもりだけど」
「どういう意味だよ」
 俺は樹に抱えられた状態で、間近にある樹の真っ黒な瞳と見つめ合った。
 樹がふっと笑う。

「真はさあ。もう自分の中に命が育っているって知っちまったんだよな。それでお前はその命を簡単に奪えるような奴じゃない」
 そう言うと、樹が優しく俺の腹を撫でた。

「俺は最終的にお前が何を選んでも、もちろん真の味方だけどさ。多分ここで子供を堕ろすって選択をしたら、真は一生自分を責め続けるような気がするんだよね」

 樹の言う通りだった。
 病院で妊娠の事実を聞かされた時から、頭では堕胎しなくちゃいけないと分かっていても、心は叫びだしそうなほど苦しかった。
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