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1章 急変地球~リアルブレイク~

第12話

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「もう一週間かぁ」
 あれから初日と二日目大騒ぎが嘘みたいに平和に数日が過ぎてしまった。俺は自室のベッドでダラダラと過ごしていた。
「考えれば考えるほど、境界線がわからなくなる……」
 一人になるとふと考えてしまうことがある。少し前まではただのゲーマー一般人、今は一応ゲーム内と一緒の傭兵らしい。だが正直何が変わったのかわからなくなることがある、やってることが何も変わらないのだ。数日前俺は人を殺した、だがやるかやられるか。命を懸けているのはお互い様と罪悪感どころか恐怖、嫌悪すら感じなかった。人を斬る感触すらゲームと全く同じで正直感覚がバグった気がする、あのクオリティまで行くとリアルとゲームの差がわからない。ログインするかしないかの差だけだ……
「全く何も感じない、はずないんだけどなぁ……」
 頭のネジが外れてしまったのだろうか? 一般常識を持っていたはずの日本人の自分、傭兵として愛機と共に命のやり取りを繰り返してきたゲーム内の自分。どちらが本物なのか、常識とはなんだったのか。たった数日でわからなくなってしまった。
「命ってこんなに軽いはずないのにな」
 自問自答、こんなことを呟いて考えて、自分で納得させていた。
「もしも~し、悪いんだけど会議室に集まってもらってもいい?」
 そんなことをしているとレイカさんから突然の呼び出しがかかった。恐らく作戦が決まったのだろう。自問自答を辞め俺は部屋を出て行った。
「皆、お待たせ。作戦が決まったから説明するわね」
 会議室には俺達の他にティアやエミリア、そしてノールの姿もあった。他にも軍属であろう人達もたくさん居る。正直息苦しい……
「敵の基地はここ、密林地帯の奥に区画を切り取って作られていたの。作戦は夜襲、ここを一気に一晩で破壊、拉致されている異世界人の救出をおこないます」
 電撃作戦というやつだろうか? 強襲して一気にケリをつけたいらしい。
「確認できている敵はベルデウスが十機。戦車や装甲車、戦闘機も複数あるので連携をされる前に蹂躙します」
 確かに連携される前に夜襲で一気にケリをつけるのが一番負担が少ない作戦だろう気はした。
「目標の保護対象は中央の研究施設及び収容施設に監禁されていると予想。この二か所にウォンバットで乗り付けてまとめて救助します」
 そう言い切るとレイカさんはこっちを見る。
「先陣はバラット君達にやってもらいます。強襲してベルデウスを無力化、ウォンバットと突入救助部隊の道を作ってください。機体も現状最高の物を用意します」
「データを貰っても?」
「もちろん、でも詳細はアオイさんから実機を見ながら確認してください。続けます」
 そう言うとタブレットにデータが送られてきた。
「先陣部隊が道を切り開き次第ウォンバット三台で突入、搭載した滝田小隊がそのまま護衛を開始し救助部隊の任務完了次第ウォンバット、滝田小隊、傭兵部隊と撤退。完了次第ザラタンからの弾道ミサイル掃射で基地を無に返します。質問のある方は居ますか?」
「救助が失敗、もしくは先陣部隊が敗退した場合などのサブプランは?」
「ありません、今回は時間との戦いであり。失敗はそのまま全滅を意味しますし、最悪ミサイル掃射によりすべてをなかったことにすることになるでしょう」
 なんというかプレッシャーを感じる、成功か全滅か。良くも悪くもゲームっぽい、違うのはリトライが無いということくらいだろう。
「これでもバラット君達の協力で成功率は大幅に上がっているの、大丈夫。皆さんならできると確信しています、作戦の決行は本日の夜! それでは各員準備に取り掛かってください、解散!」
 そして短い会議は終わった。
「バラット君達には迷惑かけちゃうけど許してね?」
 レイカさんが手を合わせながらウィンクして話しかけてきた。
「報酬は期待していいんですよね?」
「もちろん、奮発しちゃうから任せて!」
「レイカさんってそういうのまで決めれるってそうとう偉い人だったんですね」
「まぁね~、主任してたけど実際はこのザラタンの副艦長だったり?」
「エリートだ……」
「いろいろあるのよ! じゃあアオイさんも待ってるだろうし、皆頑張ってね!」
「了解!」
 そして俺達は格納庫へと向かって行った。
「敵ってベルデウスなんだね」
「まだネームドレベルの機体は製造されてないんじゃないかな?」
 流石にゲームにあったすべての機体を現実で作ることは不可能だろう、特殊な機体だって複数種存在しているし。
「製造ラインの確立されている量産機からというかんじですな」
「もしかしたら試作機の特別な機体があるかもしれないんでそこだけ注意で」
 アニメでもあるが量産機を作る前には性能検証用のハイスペックモデルが製造されている可能性もある、油断はしない方がいいだろう。
「ベルデウスは乗ったこともありますがなかなか優秀な機体でしたからね、油断は禁物ですぞ」
 ベルデウス、ガスマスクのようなフェイスが特徴的なレクティス同様の量産機である。レクティスが扱いやすいバランス型ならベルデウスは防御力を上げて生存率を上げた機体で、機動力は劣るが重装備も扱える優秀な機体であった。
「あ、皆さん! こっちです!」
 話をしていると格納庫に到着した。すぐに俺達に気づいたアオイさんが手を振って合図している。
「早速ですが皆さんの機体を説明しても大丈夫ですか?」
「お願いします」
「はい! まずはレミーアさんの機体からです」
「は、はい!」
「レミーア機ですが、後方支援とのことでしたので電子情報戦特化のユニットで構成してあります」
「サイバースカスタムじゃん、レクティス最高の電子戦装備だ」
 頭部には大きなヘッドギアが追加で装備され背部には巨大なレドームユニット。腰には地下振動を検知するスパイクレーダーも搭載された情報戦に特化した形状だ。
「腕部にはドローンコンテナを搭載してあります。サーチワイズ十機、ギガンチュラ十機を左右に五機ずつ用意しています」
 サーチワイズはコリブリのギガンチュラはタランチュラのハイスペックモデルドローンで情報収集機能がケタ違いに高い高級品である。
「すごいです! これなら皆様を助けられます」
「頼りにしてますぞ!」
「絶対に誰も死なせません! 任せてください!」
 レミィにこんなにも頼りがいがあるとは予想外だった。
「次はゲンジ機になります」
「わたくしのですね?」
「こちらは重装備のヘビーアームズとなっております。ヘッドギアはバルカンユニットを追加、背部はツインランチャーを左腕にはメガガトリング、右腕はパイルバンカーとなっております」
 頭部はゴツイパーツが追加され、背部には大型のロケットランチャーが二門。左腕には面制圧で本領を発揮する大型ガトリング砲、そして右腕には射程は短いが圧倒的破壊力を見せるパイルバンカー。正直癖が強すぎて乗りたくないレベルの重装備だった。
「面制圧と大型兵器が現れた際の保険ですかな?」
「はい、ゲンジさんの戦闘スタイル的にお願いしようということになりました」
「承知しましたぞ」
 ゲンジさんは器用になんでもこなすオールランダーなプレイヤーでありそれだからこその癖の強い装備なのだろう。
「装備が重量級ばかり及びバックパックがランチャーのため腰部と脚部を重装甲、そしてパワードブースターによる緊急時の機動力を確保しています」
 こんなめちゃくちゃなバランス、普通の人じゃ固定砲台になってしまう。ゲンジさんの腕があってこそのカスタムといった感じだ。
「腕が鳴りますなぁ!」
 ゲンジさんもゲーマーということなのだろう。なんだか楽しそうだった。
「次は私?」
「はい、ミコッタさんの機体です!」
「私の得意なカスタム機だ、よくわかったね?」
「実は皆さんのゲーム内での戦闘データは資料として用意されていまして。それに合わせて今回の装備を用意しているのです」
「なるほど」
「改めまして、ミコッタ機はサーチカスタムです。狙撃をメインにしてますが中近距離の射撃戦も対応できる万能型です。新型スナイパーライフル、デューナス。アサルトライフルにベルベットを二丁用意してあります」
「脚部にシャープエッジも装備しておいて、保険」
「了解です」
 武器系すべてに共通しているのだが。デューナスはL96系のスナイパーに似た形状でベルベットはスカー系の形状をしたライフルで基本的に名前は違うが現行の実銃をドロイドサイズに大型化したというイメージの形状が多い。
「機体ですが頭部は精密射撃用バイザーギアに換装、脚部や背部、腰部には瞬間加速可能なステップスラスターを採用、機体自体にも視認性を減らすステルスユニットを採用しています」
 ミコは銃器を使う戦闘を得意としていた。安心して背中を任せられる腕と機体に仕上がっているようだ。
「いい感じ、二番手は任せて」
「最後になりましたが、バラット機になります」
「なんとなく見えてたし察しは付いてるんだけど。ナイトスレイヤーだよね?」
 闇夜の殺し屋、その名を持つカスタムモデル。
「はい、熱処理を最小限に抑え、ミコッタ機同様ステップスラスターを採用した超近接特化しようとなっています」
 濃紺のカラーリングに排熱ダクトを装甲で覆いステルス仕様となっている。
「更にインファイトを想定して機体各所にリアクティブアーマーを装備、ヘッドユニットにもバルカンを採用しています」
 リアクティブアーマー、敵の弾や攻撃が当たる瞬間センサーで自ら爆発しダメージを軽減する増加装甲だ。
「武装の方はですが背部はマルチラック採用で右にはご希望されていました辰薙一式、左にはサブマシンガンプロットバットを装備。両腕部にはストライクカタール、腰にはサイドにシャープエッジ後部にアサルトライフルのマウントラックを用意しています」
 刀装備の辰薙は楽しみでもある、プロットバットはP90系のSMGでストライクカタールは今までも使っていたが腕部装備型のスライド展開式の剣でありシャープエッジはドロイド用のナイフである。
「ARは好きなのを?」
「はい!」
「じゃあ、エースハートで」
「了解しました」
 エースハートはHK416系の形状で人気のあるシリーズで信頼性も高いのだ。
「あとはステルスマントも用意してありますのでこちらもご使用ください」
「了解!」
 ステルスマント、ドロイド用のマントで視認性を下げ、更に機体の音や反応を抑える優秀な追加装備である。ちなみに様々な用途に合わせたマントのバリエーションも存在している。
「これで皆さんの機体説明は完了です。各機の最終調整は皆さんでお願いします」
 俺達は用意された自分たちの愛機へと乗り込み個々の設定を施し最終調整を始めていく。自分の命を預ける相棒なのだ、丁寧に確実に仕上げていくのであった。
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