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第二部:神都ラグナスの冒険 5
第76話 アルマース帝国の魔手 その4
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「あちゃー、俺がいない間にそんなことが!? 面目ねえっす!」
後から駆けつけてきたカイルが、頭を下げた。
「いやいや、気にしなくていいよ。急なことだったし。それに、これは俺に因縁のある話だ」
真面目な顔をする俺の肩で、ローズが俺の耳たぶを両手でもみもみしている。
大変くすぐったい。
カーバンクル、行動を見てると頭の良さはハムスターとか言う、ペット用ネズミに近いくらいかもしれない。
「枢機卿にも伝えておこうか」
「そこはお任せですわ! ラグナ新教には、信者同士で意思疎通を行える神聖魔法がありますの! 基本的に、司祭未満の信者は受信するだけですけれど。あー、テステス。ラグナの神にお祈りします。こちらアリサ。ビアジーニの教会のアリサですわ。お師様、フランチェスコ枢機卿への接続をお願いしますわ、どうぞ」
すると、アリサの頭上に光が差した。
「あ、お、お師様! は、はい! はい! 大丈夫です! ちゃ、ちゃんとやってます! はい! あの、ご報告が……。え? ザクサーンの波動が観測された? はい、まさにそうですわ! オースさんがザクサーン教の司祭と交戦して……。はい!」
どうやら話が早そうだ。
思ったよりもすぐに、アリサと枢機卿の会話は終わった。
アリサが疲れ切った顔をこちらに向ける。
「な、なんとか話がつきましたわ……。これはアルマース帝国側からの侵略行為とみなして、帝国に抗議をするそうですわ。明確な証拠が掴めたから、そこはオースさんのお手柄だと誉めていましたわよ」
「どういたしまして。じゃあ、この事件はイリアノス法国としては終わりということ? 相手はザクサーン教の忘却派と名乗っていた。どうも、主流派ではないような話だったから、国と国とのやり取りとは直接関係しないんじゃないかな」
「ええ。ザクサーンの忘却派というのは、過去に埋もれた真実の歴史を探し出し、真のザクサーンの教えを復古させるという主張の宗派ですわ。つまり、原理主義ですわね。今の協調派は、異なる教えを持つ者達とも上手くやっていこうという穏健派ですわ」
「なるほど……。忘却派が力を持ってしまったらまずいことになるね、それ」
「ええ。戦争になりますわね。ここ五百年あまりは戦争が起きてませんから……とんでもない大戦争になると思います」
「それは防がなくちゃなあ。じゃあ、忘却派を追うのは俺が自分の意思でやる」
俺が宣言すると、カイルが目を剥いた。
「マジっすか!? でもオースさんがこんな危険で面倒なことに関わる必要は……」
「カイルだって、人を救うために危険の中に飛び込んだだろ」
アドポリスでの決戦の時。
誰よりもまっさきに、アンデッドが溢れる街に飛び込んでいった彼の事ははっきり覚えている。
「俺はもうちょっと情けない理由だよ。ほら、俺を追放したSランクパーティがいただろ? あれが、忘却派の息が掛かってたんだ。つまり、これは俺の因縁でもあるわけだ」
「オースさんの因縁……!! そりゃあ、けじめつけねえとダメっすね……。不肖カイル、オースさんの舎弟として全力で手伝うっす!」
舎弟はやめてくれえ。
ここで、ファルクスがご機嫌で、ぽろんとリュートを鳴らす。
「英雄の宿敵! 五百年の時を超えた戦乱を引き起こさんとする、ザクサーンからの刺客! おお、それは英雄の誕生を紡いできた運命の糸が引き寄せた因縁……! わたくしめ、もりもりと創作意欲が湧いて来ましたぞお! このファルクスも手を貸しましょうぞ!」
『ピョイー』
ファルクスに合わせて、小鳥のロッキーが翼を振り上げてみせた。
なんとも頼もしい。
『ちゅちゅーい』
ロッキーの仕草を真似するローズ。
短い前足でバンザイをする。
「あー」
アリサが、小動物たちの可愛さにくらくらした。
『結局どうするにゃ。後を追っかけるにゃ? この辺のやつら、みんな頭の中に暗示を仕込まれてるにゃ』
「暗示?」
見れば、ドレが倒れている人々を触手で突いている。
彼は人の心が読めるのだが、それに対して働きかける何らかの力も察知できるようだ。
『お前ら風に言うなら魔法にゃ。さっき、ブランを妨害してたやつらがいたにゃ。人間を暗示で動かして、ああいう生きる人形みたいにする魔法にゃ。これの強力なのがかかれば、きっと死んでも動き続けるにゃ』
「なるほど、それがザクサーンの神聖魔法の一つか。ラグナ新教のそれと比べて、随分邪悪っぽいというかなんというか」
俺から逃げるために飛んでいったしな。
「ドレ、それは解けるのかい?」
『己なら簡単にゃ。精神系の魔法は己との相性バッチリにゃ。全部解除できるにゃ』
これは頼もしい。
だけど、常にドレがいるとは限らない。
「ドレ、君がいない時に彼らと接したら、どう解除すればいいかな?」
『ビリビリにゃ。暗示は脳幹から脊椎に、電気パルスとして送り込まれているにゃ。ビリビリをそこに流し込めば、パルスが乱れて霧散し、暗示が失われるにゃ』
「つまり……雷系の魔法か! よし、心得た! ありがとう!」
雷晶石という、極小規模の雷を発するマジックアイテムがある。
それを購入しておけば良さそうだな。
「よし、備えよう。そして準備しながら、ザクサーン教の奴を追うぞ。俺は本気なんだ」
「おおーっ、センセエが燃えてるです!! じゃあクルミも本気ですよーっ!」
真横でガッツポーズをとるクルミなのだった。
後から駆けつけてきたカイルが、頭を下げた。
「いやいや、気にしなくていいよ。急なことだったし。それに、これは俺に因縁のある話だ」
真面目な顔をする俺の肩で、ローズが俺の耳たぶを両手でもみもみしている。
大変くすぐったい。
カーバンクル、行動を見てると頭の良さはハムスターとか言う、ペット用ネズミに近いくらいかもしれない。
「枢機卿にも伝えておこうか」
「そこはお任せですわ! ラグナ新教には、信者同士で意思疎通を行える神聖魔法がありますの! 基本的に、司祭未満の信者は受信するだけですけれど。あー、テステス。ラグナの神にお祈りします。こちらアリサ。ビアジーニの教会のアリサですわ。お師様、フランチェスコ枢機卿への接続をお願いしますわ、どうぞ」
すると、アリサの頭上に光が差した。
「あ、お、お師様! は、はい! はい! 大丈夫です! ちゃ、ちゃんとやってます! はい! あの、ご報告が……。え? ザクサーンの波動が観測された? はい、まさにそうですわ! オースさんがザクサーン教の司祭と交戦して……。はい!」
どうやら話が早そうだ。
思ったよりもすぐに、アリサと枢機卿の会話は終わった。
アリサが疲れ切った顔をこちらに向ける。
「な、なんとか話がつきましたわ……。これはアルマース帝国側からの侵略行為とみなして、帝国に抗議をするそうですわ。明確な証拠が掴めたから、そこはオースさんのお手柄だと誉めていましたわよ」
「どういたしまして。じゃあ、この事件はイリアノス法国としては終わりということ? 相手はザクサーン教の忘却派と名乗っていた。どうも、主流派ではないような話だったから、国と国とのやり取りとは直接関係しないんじゃないかな」
「ええ。ザクサーンの忘却派というのは、過去に埋もれた真実の歴史を探し出し、真のザクサーンの教えを復古させるという主張の宗派ですわ。つまり、原理主義ですわね。今の協調派は、異なる教えを持つ者達とも上手くやっていこうという穏健派ですわ」
「なるほど……。忘却派が力を持ってしまったらまずいことになるね、それ」
「ええ。戦争になりますわね。ここ五百年あまりは戦争が起きてませんから……とんでもない大戦争になると思います」
「それは防がなくちゃなあ。じゃあ、忘却派を追うのは俺が自分の意思でやる」
俺が宣言すると、カイルが目を剥いた。
「マジっすか!? でもオースさんがこんな危険で面倒なことに関わる必要は……」
「カイルだって、人を救うために危険の中に飛び込んだだろ」
アドポリスでの決戦の時。
誰よりもまっさきに、アンデッドが溢れる街に飛び込んでいった彼の事ははっきり覚えている。
「俺はもうちょっと情けない理由だよ。ほら、俺を追放したSランクパーティがいただろ? あれが、忘却派の息が掛かってたんだ。つまり、これは俺の因縁でもあるわけだ」
「オースさんの因縁……!! そりゃあ、けじめつけねえとダメっすね……。不肖カイル、オースさんの舎弟として全力で手伝うっす!」
舎弟はやめてくれえ。
ここで、ファルクスがご機嫌で、ぽろんとリュートを鳴らす。
「英雄の宿敵! 五百年の時を超えた戦乱を引き起こさんとする、ザクサーンからの刺客! おお、それは英雄の誕生を紡いできた運命の糸が引き寄せた因縁……! わたくしめ、もりもりと創作意欲が湧いて来ましたぞお! このファルクスも手を貸しましょうぞ!」
『ピョイー』
ファルクスに合わせて、小鳥のロッキーが翼を振り上げてみせた。
なんとも頼もしい。
『ちゅちゅーい』
ロッキーの仕草を真似するローズ。
短い前足でバンザイをする。
「あー」
アリサが、小動物たちの可愛さにくらくらした。
『結局どうするにゃ。後を追っかけるにゃ? この辺のやつら、みんな頭の中に暗示を仕込まれてるにゃ』
「暗示?」
見れば、ドレが倒れている人々を触手で突いている。
彼は人の心が読めるのだが、それに対して働きかける何らかの力も察知できるようだ。
『お前ら風に言うなら魔法にゃ。さっき、ブランを妨害してたやつらがいたにゃ。人間を暗示で動かして、ああいう生きる人形みたいにする魔法にゃ。これの強力なのがかかれば、きっと死んでも動き続けるにゃ』
「なるほど、それがザクサーンの神聖魔法の一つか。ラグナ新教のそれと比べて、随分邪悪っぽいというかなんというか」
俺から逃げるために飛んでいったしな。
「ドレ、それは解けるのかい?」
『己なら簡単にゃ。精神系の魔法は己との相性バッチリにゃ。全部解除できるにゃ』
これは頼もしい。
だけど、常にドレがいるとは限らない。
「ドレ、君がいない時に彼らと接したら、どう解除すればいいかな?」
『ビリビリにゃ。暗示は脳幹から脊椎に、電気パルスとして送り込まれているにゃ。ビリビリをそこに流し込めば、パルスが乱れて霧散し、暗示が失われるにゃ』
「つまり……雷系の魔法か! よし、心得た! ありがとう!」
雷晶石という、極小規模の雷を発するマジックアイテムがある。
それを購入しておけば良さそうだな。
「よし、備えよう。そして準備しながら、ザクサーン教の奴を追うぞ。俺は本気なんだ」
「おおーっ、センセエが燃えてるです!! じゃあクルミも本気ですよーっ!」
真横でガッツポーズをとるクルミなのだった。
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