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冴えない私の黎明編

第9話 コラボ配信でボス攻略伝説 前編

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「みなさーん! こんにちきら星ー! 新人冒険配信者のきら星はづきですー!」

※『こんにちきら星ー!』『こんにちはー』『こんきらー』

「はい、こんにちは! えーと、皆さんに発表することがあります。まずですね、私、今までコンセプトがブレブレで……」

たこやき『はづきっち後ろ後ろー!』

 おっと、最古参リスナーのたこやきさんが教えてくれた。

『ゴブゴブー!!』

 すぐ後ろまでゴブリンが迫ってきていた!
 これを、画面外に控えていたカンナちゃんが出てきて、鞘に入ったままの剣で殴り飛ばす。

『ウグワーッ!?』

 ゴブリンが消滅した。
 うわーっ、凄い威力。

※『カンナちゃんだ!』『コラボだ!』

「そ、そうなのでーす! 今日はカンナちゃんとコラボ配信をすることになりました! コラボで、このダンジョンのボスモンスターを退治します!」

 どよめくチャット欄。
 ふっふっふ、驚け驚け……!
 配信四回目にして、超大型コラボなのだ。

「えっ、はづきさん、まだ説明の途中じゃないの? いいの? えっ、声ミュートになってない? ……おーっほっほっほっほっほ!」

※『素だ』『素で喋ってた』『ポンだ』『かわいい』

 私も笑顔になっちゃうな。

「何を笑ってますのーっ! コホン! おほほほほ! 皆様、ごきげんよう! NAA三期生、冒険配信者候補のカンナ・アーデルハイドですわー!」

※『うおーっ!』

 沸き上がるコメント欄。
 よしよし、いい感じいい感じ。

 ニヤニヤしていたら、カンナちゃんに脇腹をこづかれた。

「あひゃっ」

※『可愛い声出た』『かわいい』

 な、な、なんという声を出させるんだーっ。
 また切り抜かれてしまう!

「ちょっとはづきさん! コンセプト、コンセプト! ほら、またゴブリンが来てますわよ! わたくしが相手をしておきますから、はづきさんはちゃんと伝えるべきことを伝えて下さいな!」

「あっはい」

 そうだった……!

「あのその、コンセプトが決まって! 私、陰キャなので、陰キャ系配信者としてやっていくことになりました!」

※『陰キャ系!?』『潔くて草』『草』

 発言は気になるけど、概ね好評だ……!

「つきましては、皆さんリスナーの呼び名なんですけど、“お前ら”で行こうかなーって」

※『草』『草』『いいよー』

 ご快諾いただけた!
 ありがたいありがたい……。

「お前ら、ありがとー!」

 私は微笑みながら、画面の向こうに手を振った。

「伝えることは終わりまして!? だったら手伝ってー!!」

 カンナちゃんの悲鳴が聞こえた。
 あっ、ゴブリンが三体もいる!

 カンナちゃんも、アカデミー側のチャンネルで配信はしているみたいだけれど、むこうの同接数じゃ押し切るほどのパワーが得られないみたいだ。
 こちらの同接数をチェックする。
 450人!!
 いける!

「行くぞお前らー!」

※『うおー!』『いっけー!』『今日もあの後転を見せてくれー!』

 前に向かってるんだからいきなり後転はしないって!
 私はオモチャのレーザーソードを振り回しながら、ブォンブォン音を立てて参戦した。

 光り輝くうるさいレーザーソードが、ゴブリンの頭を殴打する!

『ウグワーッ!!』

 ゴブリンが光になった。
 光に!?
 昏倒するだけじゃない!

 カンナちゃんが頷いた。

「そうですわ! わたくしの同接数と、あなたの同接数。二つのチャンネルの力が合わさって、二倍の力を発揮するようになってますの! わたくしの同接が555人ですから……」

「私が450人で、うおおーっ! 同接1005人パワーっ!」

『ウグワワーッ!?』

 残るゴブリンたちが、殴り飛ばされて光になった。
 凄い……!

「あれだけ恐ろしかったゴブリンが、まるでゴミのようだーっ」

※『こわぁw』『調子に乗るタイプ』『人が変わった』

「あーっ、引かないで引かないで……!! えへへへへ、私はこの通り、何も変わらない陰キャでございます……」

※『おもろ』『速攻で戻ってて草』

 いけないいけない。調子に乗ると人心が離れていってしまう……。
 なんだか今日は私のテンションが高い。
 ふふふ、まるでコミュ強みたい。

※おこのみ『コミュ障あるあるだけど、テンション上がるといらんこと喋りまくるよね』

「なん……だと……?」

※『あっ』『あっ、ごめんね』

 謝るなーっ!!
 この光景を見て、アカデミー側では大いに盛り上がっているようだった。
 くっ、また切り抜かれるぅ……!

「ということで、ですわね。今日はこのようにコラボで盛り上がって行こうと思うのですわ。もちろん、目標はダンジョンの攻略! ここがこのダンジョンの中枢になっていますの。先程からゴブリンが次々やって来ますわよね」

 流石カンナちゃん、分かりやすいなあ。
 それに、お嬢様系のロールプレイをするスタイルで、ダンジョン探索をしながらもキャラを崩さない。
 これは本当に凄い。

 私なんか素が出まくりだ。
 そもそも、自分の配信者としてのキャラすら確立していない……!

 ここは今度、兄に相談しよう……。

 カンナちゃんの言う通り、ダンジョンの中枢となっている大家さんの家はゴブリンの巣窟だった。
 どんどん出てくるゴブリン。
 これを、軽妙な会話をしながら片付けていくカンナちゃん。
 そして、レーザーブレードの重さでだんだん腕がだるくなっていく私。

 き、筋トレしなくちゃあ……!!

「アーカイブでチェックしましたけれど、やはりはづきさんにはその武器は重すぎるようですわ」

 カンナちゃんがそう言いながら、リュックから何かを取り出した。
 紙に包まれたそれは……。

「アカデミーからあなたへのプレゼントですわ! もちろん……経費で落ちましたわー!!」

「ありがとうー!!」

※『プレゼントいいなー!』『なんだろう?』

 移動しながら、バリバリ音を立てて包み紙を開く。
 そこにあったのは……。

 黒くて軽くて細い……。

「ご、ゴボウ……!!」

※『勝利確定演出』『約束された武器』『ゴボウ姫の帰還』

「やめろお前らーっ!?」

 ここでタイミングよく、立ちふさがるゴブリンの群れ。

「いきますわよはづきさん! はああーっ!!」

「こ……こなくそーっ!!」

 ゴボウで叩かれたゴブリンが、『ウグワーッ!?』と光になる!
 さすがはゴボウ、軽いしなんともないわーっ!

 返すゴボウが、ゴブリンを粉砕する。
 
「はづきさん、速い……!!」

「ゴボウ、軽いですから……!! アチョーっ!!」

『ウグワーッ!?』

 最後のゴブリンが光になった。
 後に残るのは、ダンジョンコアの欠片。
 バラバラになったきらめく破片が、床に飛び散っていた。

「これで残るは……ボスモンスター。怨霊の攻略だけですわね!」

 カンナちゃんが向いている方向に、扉があった。
 それがゆっくり開いていく。

 這い出してくる、真っ黒な影。

 ダンジョンの攻略のためには、これを倒さなくてはなのだ……!
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