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冴えない私の黎明編

第8話 オシャレカフェでの会合伝説

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 そこは……オシャレなカフェだった……。

「本当に……本当にここなのか……? 牛丼チェーン店でひとり飯は余裕な私だけど、ここは無理ぃ……」

 入り口には観葉植物と、明らかに英語ではない店名が書かれたひさし。
 窓から覗ける店内では、オシャレな女子たちやカップルが会話を楽しんでいた。

 うわーっ。
 む、無理だー。
 ここは陽キャの巣窟! 陰キャたる私に入ることはできぬ……。

 そう思っていたら、LUINEでカンナちゃんからトークが取んできた。

『窓から見えるよー! 入ってきて!』

「ひい、見つかった!」

 もう逃げられない!
 私は手のひらを汗でびっしょりにしつつ、扉を開いた。
 ハンカチで慌てて手のひらとドアノブを拭く。

 この、レバーみたいなお洒落なドアノブ!
 入店すると、チリンチリンとか鳴るし!

 私が挙動不審にキョロキョロしていたら、オシャレなエプロンを身に着けた店員さんが気付いたようだった。

「いらっしゃいませー! お一人様ですか?」

「あ、いや、あの、あの、あの、とも、とも、友達が」

 友達!!
 我ながら口にした単語に衝撃を受ける。

 私に友達!!

「友達と待ち合わせてるんで……」

 友達という言葉のパワーに背中を押されてそれだけ言い、フヒヒと愛想笑いした。
 店員さんは少しもキモがらず、にっこり微笑む。

「かしこまりました! ごゆっくりどうぞー!」

「いい人だなあ……いい店じゃん」

 私はチョロいので、ああやって優しくされるとすぐ好きになる。
 ポワポワした気分で、カンナちゃんがいる席を探した。

「おーい、こっちこっち!」

「あ、カンナちゃ」

「しーっ!」

 真顔で黙るよう伝えられて、私は口を閉ざして直立不動になった。

「いや、動きまで止まらなくていいから! はい、こっちにどうぞー」

 カンナちゃんに手を引っ張られて、その席についた。
 店の一番奥まったところ。
 目立たない席だ。

 横には壁があって、ちょっとくらいの話なら外に漏れなさそう。
 なるほど、顔を知られたくない冒険配信者は、こういうおしゃれカフェの隠れ家みたいな席で相談するのね……。

 一つ、業界に詳しくなってしまった気分だ。

「はづきちゃん、来てくれてありがとうね。めっちゃ緊張したでしょ」

「き、緊張した……。こんなオシャレな建物入ったことない……」

「えー、そうなんだ? じゃあ普段はどういうところ行ってるの?」

「牛丼屋さんに一人で入って」

「あたしはそっちの方が凄いと思うなあ!」

 牛丼屋さんでは誰も私のことを見てないので、安心できるのだ。

「じゃあ、早速会議始めちゃおうか。この間のはづきちゃんとリスナーさんたちの会議面白かったー。ほんと仲良しだよねえ」

「あいつらは調子に乗るんです! この間も、私が後転した動画が切り抜かれてまたプチバズって」

「見た! すごかったー。斜め方向にぐねぐねっと動くんだもん! あれはゴブリンも追いかけられないわー。あれからまた登録者増えたよね」

「は、はい。何故かチャンネル登録が500人を突破しました……」

「凄い凄い! あたしなんかまだアカデミー生だから、アカデミー公式チャンネルでしか配信できないもの! 自分のチャンネル持ってるはづきちゃんが羨ましいよー。とうことでね、今回のは、アカデミーからの正式なコラボ依頼になるわけです」

「正式な依頼!? ひ、ひえーっ!!」

 私は震え上がった。
 カンナちゃんと二人きりのコラボだと思ってたら、想像以上に規模が大きい!
 ちょっとランクアップし過ぎじゃありませんかね……。

 よく見たら壁の近くの席に、カンナちゃんと目配せしあってるスーツの女の人が座ってるし。
 スタッフさん!?

「実のところ、あたしも含めてもう少しでデビューするんだけど」

「ええっ、デビューっ!?」

「しーっ!! 機密なの! 世間にバラしたらあたしが強制卒業になるから!」

「あっ、は、はい!」

 ヤバいヤバい。

「な、何人かくるんですか? あたし、三人以上人がいる空間だと過呼吸になるんですけど」

「マジで!? それなのになんで配信者やってるの……?」

「チャット欄だけだと人目を感じないので……」

「独特な人だねえ……。あ、でもうちのアカデミーも変わり者が多いから、案外気が合うかも……」

「しょ、初対面の人は勘弁して下さいぃ」

「あはははは、分かってる分かってる! だから、最初はあたしとはづきちゃんの二人。あの小さいダンジョンを踏破しちゃおう! そういうコラボ企画でオーケー?」

「は、はい! オーケーです!」

 そこまで話をしてから、カンナちゃんは私をジーッと見た。
 な、なんでしょうか!

「配信してるはづきちゃんはさ、もっと自信がある感じで、すっごい窮地なのにリスナーとおしゃべりしながら軽々乗り越えていっちゃう感じじゃない? 現実だとこんなに大人しくて、不思議だなーって」

「おとなしいというか」

 陰キャなんです!
 あと、リスナーはいらんこと言いまくるので突っ込まないといけないのだ!

「それとはづきちゃん、そろそろリスナーの名前を考えておいたほうがいいかも」

「名前ですか?」

「そう。うちのプロチーム、なうファンタジーのトップは、“風紀委員長”風神雷火かぜかみ-らいかでしょ?」

「あ、はい! 凄く有名な人。自ら風紀を乱す風紀委員長」

「あはは、そうそう! 風紀委員長のリスナーは、生徒諸君、でしょ。これは彼女のチャンネルが一つの学校みたいなコンセプトだからなの。はづきちゃんのコンセプトは何?」

「コンセプト……?」

 何も考えてなかった。
 とりあえず配信してみよう、でダンジョンに飛び込んだんだった。
 そうだ、コンセプトが無いんじゃん!
 なんだ……?
 何がある……?

 私にあるもの。
 私らしい特徴……。
 ……陰キャ……?

「わ、私は陰キャなので、リスナーは同類ってことで、お前ら……とか」

「ぶふっ」

 飲み物を口に含んでいたカンナちゃんが吹き出した。
 むせている。

「で、私は陰キャを卒業して、陽キャになることを目指す……とか。立派なきら星な陽キャに……」

「えほっ、げっほげほげほげほ! あはははははははは! いい! 凄くいい! いいんじゃない!? それでいこう!」

 おお、人に笑ってもらえたのは初めてかもしれない……!
 これは嬉しいぞ。

「お待たせしました! ヴォン・ヴィエルジュ特製パフェお二つ、お持ちしました!」

「あ、え、ええ!?」

 突然、店員さんが物凄く大きなパフェを持ってきた。
 私が驚いて挙動不審になっていると、笑い過ぎで涙目なカンナちゃんがウインクした。

「乾杯がわり! これは経費で落ちるから、たっくさん食べて!」

「あっ、は、はい! めちゃめちゃ食べます! って、ええっ!? アカデミー入るとパフェが経費で食べられるんですか!?」

「あくまでミーティング代! パフェ代で落ちないからね! ……今、一瞬アカデミー入ろうって思った?」

「は、ちょっとだけ……」

「すっごい競争率なんだよ? あたしも四百倍の倍率を勝ち抜いて入ったけど……。はづきちゃんは普通に入ってきそうだなあ……」

 ハハハ、持ち上げ過ぎです……!

 
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