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第4章 夢の実現へ
誕生日のサプライズ⑥
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【SIDE フレデリック】
馬車の中、抱き寄せたアリーチェは、怖い思いをしたというのに、けろっとした表情で、私の顔を覗き込んで笑っている。
私は、先ほどからずっと、得体の知れない恐怖を感じている。
「あんな無茶をさせて悪かった。泣いているとは気づかず、入るのが遅かった」
「無茶はしてないけど。泣けてきたのは、リックの近くに恐ろしい人がいるのに、追い出せないって思ったから。だって、わたしの言葉だけだと信用して貰えないだろうし。リックが来てくれて良かった、ふふっ、サプライズって最高ね~」
サプライズ最高って……、どうして、そんな阿保な話になるんだ……。
この感じ……、婚約を陛下に報告へ行った時と同じだ。
ヤバいこのままでは、アリーチェは碌な事をしない。
「アリーチェの言葉を信用しない訳が無いだろう。それに、アリーチェは自分の事を考えなきゃ駄目だ。こんな危なっかしい妃は、私と一緒でなければ、もう外出は許可しない」
「えーっ、酷い。それだと隠れて何も出来ないじゃない。意地悪言わないで、お願い」
今、隠れてって……、サプライズだろう……。
「アリーチェは、今まで何してたんだ?」
「えーと……、町の中を勉強してたのよ」
「そうだ、演劇を見に行こう。以前アリーチェが観たのは、今日までだろう。それから誕生日のサプライズの買い物だ」
「リックってば、わたしに言ったら、少しもサプライズじゃないでしょう」
「アリーチェに『サプライズじゃない』とは言われたくないな。でも、明日誕生日なのは、アリーチェだけじゃないだろう」
それを聞いた途端、嬉しそうにするアリーチェ。……マックスが羨ましく思える。
今まで、ずっと一緒にいたんだよな。
*
アリーチェの執務室を発つ間際、マックスから引き止められ、姉を観劇に連れて行けと頼まれた。
明日になれば、演目は弟との禁断の恋だったと皮肉を言うのが、あいつらしい。
もちろん私も調べていたから、明日であれば行く気はなかったが。
観劇を終え、私の隣で、スキップ……ではない足取りで、弾むように歩いているアリーチェは嬉しそうにしている。
「観劇は楽しかったか?」
「うん、うん、うん。前に見た時は、ドキドキもキュンキュンもしなかったけど、今日は心臓が壊れるかと思ったわ。なんか、あの2人、わたしとリックみたいだなぁ~って、可笑しくなっちゃった」
そう言って、人目も気にせず私に抱き付いてくる妃が、愛おしくて仕方ない。
「愛してるよ、アリーチェ。あの時、出会えて良かった――」
ごく自然に、言葉にして、そのまましばらく2人で演劇の余韻に慕っていた……。
**
アリーチェの部屋へ戻り、侍女が訪ねて来るまでの時間、いつものように2人で談笑していた。
そこに、アリーチェが隠していたものを出して来た。
「じゃ~ん。マックスの部屋から、1本くすねて来ちゃった。わたしだって誕生日だもん、いいわよね」
「かまわないが、アリーチェは飲めるのか?」
観劇後に私は、マックスの礼と祝いを、「馬車に積めるだけのワイン」と頼んで、ワーグナー公爵家の屋敷へ届けさせていた。
マックスへ手紙を置いて来たアリーチェが、それを見つけて持って来ていたようだ。
私を見つめながら頷いて、肯定を示したアリーチェは、注がれるワインを待っていた。
乾杯してから、一気に飲み干したアリーチェが、おもむろに言い出した。
「1回だけ、飲んだことあるわ。でも、マックスからお酒は飲むなって禁止されてたのよ」
「待てっ、それは何かあるだろう」
手酌で自分のグラスにワインを入れようとしていた、アリーチェを制止し、すかさず水を渡した。
これ以上、アリーチェに飲ませてはいけない、あいつが禁止と言うなら、それなりだろう。
ざわざわと全身に悪寒が走った。……が、私もアリーチェが招く危機回避が板についてきた。
ガッチャーン――と、大きな音が部屋に響く。
水の入ったグラスを机に置いたアリーチェ。透き通るような白い肌が、紅潮している。
様子がおかしい……。
「ねえ、ミカエル殿下は極刑になっちゃうの……。弟が死んだら……、リックは辛くて生きてけないわよ」
「そんなことはない。寧ろ平和だ」
「駄目、間違ってる。わたしは、可愛い甘えん坊のマックスが死ぬと思ったら、無理、そんなの絶対に無理。マックスが死んじゃう。……どうしよう手紙を100通しか置いて来なかった。このままマックスがいなくなるなら、もっと書いてくるべきだった」
泣きながら、マックスが死ぬと言い出し、同じ会話を何度も繰り返している。
全く手に負えなくなった……。
「ミカエルはマックスじゃないって。ミカエルの事は、これから考えるから、取り敢えず落ち着いてくれ」
「弟は可愛いものね……極刑なんて駄目よ。それにしても暑い、熱い、あついわ」
「アリーチェ、どうした⁉ おい、服を脱ぐな!」
アリーチェの白い肌は、真っ赤に変わっているが、……酔ってるのか? まだ1杯しか飲んでないだろう……。
「いいでしょう、リックねぇ」
「待て、クロエがもう少しで来るだろう。ここで下着は脱ぐな。私が怒られるだろう。アリーチェ、落ち着け。頼むから…………」
「まだ、あついわ。外に行って、涼んで来る」
「はぁ~っ、待て! 服を脱いだまま何処へ行く! 待て!」
マックス、あいつ。アリーチェの大事な情報は、先に教えろ!
馬車の中、抱き寄せたアリーチェは、怖い思いをしたというのに、けろっとした表情で、私の顔を覗き込んで笑っている。
私は、先ほどからずっと、得体の知れない恐怖を感じている。
「あんな無茶をさせて悪かった。泣いているとは気づかず、入るのが遅かった」
「無茶はしてないけど。泣けてきたのは、リックの近くに恐ろしい人がいるのに、追い出せないって思ったから。だって、わたしの言葉だけだと信用して貰えないだろうし。リックが来てくれて良かった、ふふっ、サプライズって最高ね~」
サプライズ最高って……、どうして、そんな阿保な話になるんだ……。
この感じ……、婚約を陛下に報告へ行った時と同じだ。
ヤバいこのままでは、アリーチェは碌な事をしない。
「アリーチェの言葉を信用しない訳が無いだろう。それに、アリーチェは自分の事を考えなきゃ駄目だ。こんな危なっかしい妃は、私と一緒でなければ、もう外出は許可しない」
「えーっ、酷い。それだと隠れて何も出来ないじゃない。意地悪言わないで、お願い」
今、隠れてって……、サプライズだろう……。
「アリーチェは、今まで何してたんだ?」
「えーと……、町の中を勉強してたのよ」
「そうだ、演劇を見に行こう。以前アリーチェが観たのは、今日までだろう。それから誕生日のサプライズの買い物だ」
「リックってば、わたしに言ったら、少しもサプライズじゃないでしょう」
「アリーチェに『サプライズじゃない』とは言われたくないな。でも、明日誕生日なのは、アリーチェだけじゃないだろう」
それを聞いた途端、嬉しそうにするアリーチェ。……マックスが羨ましく思える。
今まで、ずっと一緒にいたんだよな。
*
アリーチェの執務室を発つ間際、マックスから引き止められ、姉を観劇に連れて行けと頼まれた。
明日になれば、演目は弟との禁断の恋だったと皮肉を言うのが、あいつらしい。
もちろん私も調べていたから、明日であれば行く気はなかったが。
観劇を終え、私の隣で、スキップ……ではない足取りで、弾むように歩いているアリーチェは嬉しそうにしている。
「観劇は楽しかったか?」
「うん、うん、うん。前に見た時は、ドキドキもキュンキュンもしなかったけど、今日は心臓が壊れるかと思ったわ。なんか、あの2人、わたしとリックみたいだなぁ~って、可笑しくなっちゃった」
そう言って、人目も気にせず私に抱き付いてくる妃が、愛おしくて仕方ない。
「愛してるよ、アリーチェ。あの時、出会えて良かった――」
ごく自然に、言葉にして、そのまましばらく2人で演劇の余韻に慕っていた……。
**
アリーチェの部屋へ戻り、侍女が訪ねて来るまでの時間、いつものように2人で談笑していた。
そこに、アリーチェが隠していたものを出して来た。
「じゃ~ん。マックスの部屋から、1本くすねて来ちゃった。わたしだって誕生日だもん、いいわよね」
「かまわないが、アリーチェは飲めるのか?」
観劇後に私は、マックスの礼と祝いを、「馬車に積めるだけのワイン」と頼んで、ワーグナー公爵家の屋敷へ届けさせていた。
マックスへ手紙を置いて来たアリーチェが、それを見つけて持って来ていたようだ。
私を見つめながら頷いて、肯定を示したアリーチェは、注がれるワインを待っていた。
乾杯してから、一気に飲み干したアリーチェが、おもむろに言い出した。
「1回だけ、飲んだことあるわ。でも、マックスからお酒は飲むなって禁止されてたのよ」
「待てっ、それは何かあるだろう」
手酌で自分のグラスにワインを入れようとしていた、アリーチェを制止し、すかさず水を渡した。
これ以上、アリーチェに飲ませてはいけない、あいつが禁止と言うなら、それなりだろう。
ざわざわと全身に悪寒が走った。……が、私もアリーチェが招く危機回避が板についてきた。
ガッチャーン――と、大きな音が部屋に響く。
水の入ったグラスを机に置いたアリーチェ。透き通るような白い肌が、紅潮している。
様子がおかしい……。
「ねえ、ミカエル殿下は極刑になっちゃうの……。弟が死んだら……、リックは辛くて生きてけないわよ」
「そんなことはない。寧ろ平和だ」
「駄目、間違ってる。わたしは、可愛い甘えん坊のマックスが死ぬと思ったら、無理、そんなの絶対に無理。マックスが死んじゃう。……どうしよう手紙を100通しか置いて来なかった。このままマックスがいなくなるなら、もっと書いてくるべきだった」
泣きながら、マックスが死ぬと言い出し、同じ会話を何度も繰り返している。
全く手に負えなくなった……。
「ミカエルはマックスじゃないって。ミカエルの事は、これから考えるから、取り敢えず落ち着いてくれ」
「弟は可愛いものね……極刑なんて駄目よ。それにしても暑い、熱い、あついわ」
「アリーチェ、どうした⁉ おい、服を脱ぐな!」
アリーチェの白い肌は、真っ赤に変わっているが、……酔ってるのか? まだ1杯しか飲んでないだろう……。
「いいでしょう、リックねぇ」
「待て、クロエがもう少しで来るだろう。ここで下着は脱ぐな。私が怒られるだろう。アリーチェ、落ち着け。頼むから…………」
「まだ、あついわ。外に行って、涼んで来る」
「はぁ~っ、待て! 服を脱いだまま何処へ行く! 待て!」
マックス、あいつ。アリーチェの大事な情報は、先に教えろ!
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