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第3章 白輝の勇者エデン・ノーティス

cys:52 勇者就任式と新たな始まり

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───勇者就任式、本当に間に合うのかな……

 半ば諦めかけたノーティスは、両手を後頭部に組んで車のシートにもたれ掛かり少し不安げな表情を浮かべた。

 もうすぐ正午になるが、まだゴールドエリアの真ん中辺り。
 到着すべきスマート・ミレニアム城は、ゴールドエリアを超えたプラチナゴールドエリアにあるからだ。
 ルミは秘策みたいな物があるとは言うが、普通に考えたらこの距離では間に合わない。

───レイ、メッチャ怒るんだろうな……まあ、俺のワガママのせいだから仕方ないんだけどさ。

 ノーティスはレイの怒った顔を想像し、ハァッと軽く溜息をつきルミをチラッと見た。
 すると、ルミはまだ全然諦めた表情ではない。
 むしろ、少し楽しんでるような顔ですらある。
 それが気になったノーティス。

「ルミ、秘策ってどんな感じ?」
「はい♪ ノーティス様。今ちょうどそれの準備中です」
「準備中? いや、乗せてもらってる分際で申し訳ないんだけど、もう準備も何も後30分しかないよ」

 ノーティスが少し不思議そうな顔をすると、ルミは車のスピードをゆっくりと落としてから停車した。

「えっ、ルミ。どうした? まさか、ここから走っていった方がいいからとか? それはさすがに厳しいかな~」
「違いますよノーティス様。さっき言われたんです。ギリギリまでお城に近い場所まで来てくれって♪」
「ん? どーゆー事だ?」

 ルミはそれには答えず、マジックポータルを開く。

「レイ様、ルミです。今、ゴールドエリアの中央北1984番地で到着しました」
「分かった。今伝えるわ。じゃ、また後でね♪」
「はい♪ ありがとうございますレイ様。失礼致します」

 ルミはそう言ってマジックポータルを閉じると、ノーティスに嬉しそうな顔を向けた。

「ノーティス様、これで何とか間に合いました♪」
「えっ、どういう事だ?」

 ノーティスがそうボヤいた時、車全体が鮮やかなピンク色の光に包まれていく。

───あっ、もしかして!

 ノーティスがそう思った瞬間、2人は車ごと城の前に移動していた。

「そういう事か!」
「はい♪ レイ様を通じて、アンリ様に頼んでおきました」
「ルミ、天才っ!」

 ノーティスがニカッと笑うと、ルミは胸を張り得意げな顔をノーティスに向ける。

「私はノーティス様の執事です。ノーティス様に、初日から恥をかかせる訳にはいきません♪」

 ルミがそう言った時、ノーティスは感激のあまりルミにガバッと抱きついた。

「ルミっ! ありがとう!」
「ノ、ノーティス様っ?! あ、あの……」

 突然抱きつかれルミが顔を真っ赤に火照らす中、ノーティスはそのまま笑顔で囁くように告げる。

「ルミがいてくれてよかった。今度、お礼するよ」
「あっ……あの、いえ、私はノーティス様の執事として、当然の事をしたまでで……」

 ルミが胸をドキドキさせながらそう答えた時、ハッとしたノーティスはスッと体を離しルミの両肩に手を置いて見つめた。 

「ルミ……」
「は、はい、ノーティス様」

───えっ? ま、まさかノーティス様、このまま私に……!

 キスをされるのかと思い、より顔を真っ赤にして緊張したルミ。
 けれど、その予想は全然違った。

「ルミ、でもこれならワザワザ途中まで走らなくてもよかったんじゃ……」
「へっ?」

 ルミが壮大な肩透かしを喰らった時、車の窓の外にフッとアンリが現れた。

「なるべく近い方が、魔力が少なくて済むからのーーー♪」
「ア、アンリ!」

 ノーティスがそう声を上げると、ルミはドアをガチャッと開けアンリの前に行き深々と頭を下げた。

「アンリ様、わざわざここまでありがとうございます」

 深々と頭を下げているルミに、アンリはケタケタと笑って答える。

「気にしなくて良いニャ♪ それに……」

 アンリはニヤッとした笑みを浮かべ、ルミに小声で囁く。

(キスする瞬間に来て、すまんかったの♪)
(ア、アンリ様、違うんです!)
(またまた~~~)
(私もそう思ったんですけど、全然違って。私そんなに魅力無いんですかね……)

 ちょっとシュンとしたルミに、アンリはニパッと笑った。

(そんなワケなかろーーー。私が召喚した時の事、忘れた訳ではあるまい)
(あっ、まあ……確かにそう、ですね)
(あ奴が一番想っとるのはルミ、お主じゃ♪)

 アンリがそこまで話した時、ノーティスがドアをガチャっと開け2人の方へ来た。

「アンリ、本当にありがとう」
「んにゃ♪ 気にせんでよい。それに、この考えを思いついたのはルミじゃ。ちゃんとお礼せんと」
「ああ、もちろんさ」
「よし、それじゃ時間も無いし、このまま行くとするかの♪」

 アンリがそう言って魔導の杖を掲げた魔法陣を光らすと、3人とも次の瞬間には王の広場の入り口にいた。
 荘厳な扉の向こうから、人が大勢集まって気配がしてくる。

 その扉の前で、ノーティスはアンリに再び頭を下げた。

「アンリ、ありがとう。本当に貴女は凄いな」
「これでも一応、Sランク王宮魔導士だからニャ♪ でも、フェクターと戦ってきたにしては、随分綺麗な格好だの」

 アンリにキョロっと見られたノーティスは、少し照れながら片手で頭を掻く。

「さっき、ルミがヒールで治療してくれたし、カサロの魔法で一瞬で綺麗にしてくれたから」
「ほう、それは凄いの♪ さすがノーティスの彼女だニャ♪」

 アンリがそう言ってニヤッと笑みを浮かべると、ルミは顔を火照らせた。

「ア、アンリ様! 私はノーティス様の執事です!」
「にゃはは♪ そーゆ―事にしておくかの」

 アンリは笑いながらそう答え、ノーティスに凛とした瞳を向ける。

「ノーティス、ここまでよく頑張ってきたニャ♪ ただ、これからが真の戦いの始まりだからの」
「アンリ……」
「まあでも、これからは同時に真の仲間になるから楽しみだニャ♪」

 また、ルミもこれまでの事を思い出し、目頭を熱くしながらノーティスを見つめている。

「ノーティス様。私はこれからも……」

 ルミがそこまで言いかけた時、ノーティスはそれを遮り優しい眼差しで想いを伝える。

「ルミ。これからも、ずっと俺の側にいてくれ」

 その瞬間、ルミは両手で自分の口を押さえたままブワッと涙を浮かべ、嬉しさに震えながら声を絞り出す。

「……はい。ノーティス様!」
「ありがとう、ルミ」

 ノーティスはルミにそう告げると、ゆっくりと扉を開けた。
 が、その瞬間、圧倒されてしまった。
 その場の荘厳な雰囲気に。

 途轍とてつもなく高い天井の広場の中央には、スマート・ミレニアムの紋章が刻まれた大きな赤い絨毯が敷かれ、その両脇には大勢の兵士達がズラッと立ち並んでいる。
 またその奥には、レイやロウ達Sランク王宮魔導士がザッと立ち並びノーティスを見つめているのだ。
 
 何より、その一番奥の中央にいる教皇からは、威厳のある荘厳なオーラがヒシヒシと伝わってくる。

───これは遅刻しなくて正解だったな……ありがとうルミ、アンリ。

 ノーティスは2人に感謝し、そのプレッシャーの中、ゆっくりと赤い絨毯を踏みしめ教皇の側まで行った。
 そしてルミに教わった事を思い出しながら、王の前にひざまづき瞳を軽く伏せる。

「エデン・ノーティスでございます」
「そなたがエデン・ノーティスか。おもてを上げい」
「はっ……!」

 サッと顏を上げたノーティスに、教皇は思わず目をカッと見開いた。
 教皇の中で、ノーティスが剣聖アルカナートの姿と重なったからだ。

───なっ?! この男、まるで、あの男のような瞳をしている……!

 そう感じた教皇は、興味深そうに笑みを零す。

「ノーティス、1つだけ問う。そなたはこれからこの国の勇者となるが、そなたにとって勇者とは何だ?」

 そう問われたノーティスは瞳をスッと閉じ、これまでの事を思い返した。
 ノーティスの脳裏に、これまでの様々な出来事が走馬灯のように駆け巡る。

 そしてそっと目を開くと、澄み切った瞳を王に向けた。

「教皇様。自分は無色の魔力クリスタルとして蔑まれ、友人だけでなく、親や兄弟からも見捨てられて迫害されて生きてきました」

 ノーティスはそこで一旦言葉を区切ると、精悍な顔で話を続ける。

「けれどそんな時、1人の名も知らぬ少女に命の温かさを教えてもらい、師匠に揺るぎない強さを。そこにいる王宮魔道士の方々からは強さと美しさと矜持を。そして、執事のルミからの愛のある献身……」

 皆がノーティスの話に聞き入っている中、ノーティスは教皇にハッキリと告げる。

「そのどれ1つが欠けても、今の自分はいません。だからその俺が勇者であるならば、勇者とは『愛と感謝の光で絶望を超えていく者』です!」

 その言葉がノーティスの想いと共に教皇の間に響き渡ると、皆が心にグッとしたモノを感じ声を漏らす。

「満点以上の解答だ」
「魔法のような言葉だニャ♪」
「全く。美し過ぎよ」
「相変わらずイカしたヤローだぜ」

 そして、両手を口に当てたままボロボロ涙を流すルミ。

「うぅっ……ノーティス様……愛しています」

 皆が感激して言葉を零す中、教皇は跪くノーティスにゆっくりと近寄り、慈愛に満ちた瞳でノーティスを見下ろす。

「エデン・ノーティス。誓いの光を」
「はっ!」

 ノーティスはその瞬間、今までの全てへの感謝とこれからへの誓いと共に、自らの額の魔力クリスタルを白輝に輝かせた。

 その煌めきを受けた教皇は、その場で片手を前にバッと向け大きく宣言する。

「今この瞬間、エデン・ノーティスを我がスマート・ミレニアムのSランク王宮魔導勇者として認める!!」



 ただ、人の世とは皮肉なモノだ。

 ノーティスが教皇から正式に勇者として認められ、皆から割れるような喝采と祝福を受け『合格』とされていた時、とある女の子は、自分の所属するパーティから『失格』の烙印を受け追放されていたのだから……
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