恨み辛みを吐き出していたら、神様に求婚されました

王族の暴走

　庭園の東屋でお茶をしていたパールは、家からグリティスが歩いてくるのが見えて、ミルキーにお茶の追加を頼んだ。グリティスがパールの横に座ると同時に、テーブルにティーカップが置かれる。

「ふむ。これは花の香りがするな」
「ええ。薔薇の紅茶よ」

　グリティスが自主的にパールの傍から離れるのは珍しく、無言でグリティスに何事かと問う視線を向けると、グリティスはあまり気がのらない表情を浮かべた。

「……パールとの時間でつまらないことは言いたくないのだがな」
「何かあったの？」

　胸騒ぎがしてグリティスの腕に手を添え顔を覗き込む。グリティスが腕を伸ばしてパールの肩を抱き寄せた。

「神殿長から連絡があったのだ」

　グリティスは大神殿長にレアトリア家のことを頼んだ際、グリティスに連絡をとれる伝書箱というのを渡していた。それで連絡が来たようだ。

「パールが結婚したのは神ではなく、悪魔である。その力で王太子に呪いをかけたのだ」
「は？」
「と、王族が言ってきたらしい」
「……なによ、それ」
「加えてパールの悪魔祓いをするようにと。レアトリア家が王に反逆の意思を持って為したことだから、レアトリア家を反逆者として捕まえると主張してきたようだ」
「え？！お父様たちは大丈夫なの？！」

　胸がドクドクと鼓動を打ち、顔から血の気が引く。この国において反逆者はどのような理由があろうとも処刑されると法にある。レアトリア伯爵たちが捕まったら、まず間違いなく裁判も行われずに処刑されるだろう。

「大丈夫だ。王城の騎士達が神の妻の家族を拘束することに二の足を踏んでいる間に、大神殿に保護されている。一応悪魔憑きを調べるためという名目だが、丁寧に歓待されているぞ」
「……よかった」

　家族が無事と聞いて一安心するも、何も問題は解決していない。なぜ王族はグリティスが神であることを疑うのか。大神殿がグリティスの存在を保証しているはずなのに。

「悪魔とか呪いとか言ったのは、あれだろう。王太子のちんまいやつ」
「……あ！あれ、結構前だったから、すっかり忘れていたわ」

　確かにあれは呪いのように思うかもしれない。だが、教義に照らし合わせた正当な罰なのだが。

「……不貞を犯したという自覚がなかったのね」
「さて、自分は大丈夫だとでも思っていたのではないか」
「なぜ？」
「この国の守護神グリティスは王と契約しその一族を守る」
「それは聞いたことあるわ。でも、グリティス、王太子に天罰を与えたわよね」
「ああ。古の契約ではそうなっていたのだが、契約というのは双方が条件を守らねば成立しない」
「……つまり、どちらかの条件未達成？」
「そうだ。長いときの中で、王族は契約の内容を忘れたらしい。まあ、俺が一方的に突きつけた条件だから、達成出来なくなったのか。にも関わらず、契約が成されたままだと誤解しているようだな」
「一体どういう条件なの？」

　パールは王族と守護神グリティスの間に契約が結ばれ、それにより王族が守られ、この地が安定しているのだとは聞いていたが、その内容を知らなかった。仮にも王妃教育を受けていたのに。

「王族は月に１度神への感謝の祈りを捧げる」
「当然のことね。もっと頻度があっても良さそう」
「うむ。王族は収穫の時期は豊穣祭を行い、収穫物を捧げる民に酒を振る舞う」
「……そんなのあったかしら」
「王族は一夫一妻を貫く。不貞、離婚は許されない」
「え？王族は基本的に側妃や妾妃がいるわよ」
「だから、我と王族との契約はとっくの昔に切れているのだ」
「え？じゃあなぜあなたはあの国にいるの？」

　あまりにも意外な事実を聞かされ、パールは驚く。

「そもそも、今あの国がある土地は、我が創世神より管理するよう任せられた土地なのだ。だから王族との契約がなくとも、あの地が安定するよう力を尽くす。王族との契約は、賃貸料のようなものだ。我の土地を代理で治めるための条件だな」
「でも、今の彼らはその条件を満たしていない」
「うむ。我にとっては不法占拠されているようなものだ」
「え、それでいいの」
「対処するのも面倒だから、今まで放っておいたのだ。だが、そろそろ罰を与えるか。神の物を掠め取った者達に」