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天罰〈中〉
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王城は喧騒に包まれていた。至るところで、人が逃げ惑う足音や怒声が聞こえてくる。
「どういうことだ……」
真っ先に騎士達に守られて逃げ出した王太子クレイは、土埃がたつ王城を茫然と見ていた。周りには同じように逃げてきた者達が集まって来ていた。皆王城を見て不安そうにしている。
この日の未明、城は突如大きな震動で揺さぶられた。熟睡していたクレイは震動でベッドから叩き落とされ、隣で寝ていたアリシアも落ちてきて押し潰されることになった。
何事かとアリシアを退けて身を起こし辺りを見回すと、ノックもなく近衛騎士達が飛び込んできた。騎士達は、婚前にも関わらず女性と同衾していたクレイに一瞬冷たい目を向けた後、逃げるように告げた。どうやら城の一部が崩れ落ちたらしく、王太子の居室も危ないようだ。クレイはアリシアと共に急いで城から脱出した。
そして、クレイは王城の無惨な姿を見ることになったのである。
「なぜ、城が壊れている。我が国は守護神グリティスに守られた国だろう」
クレイは現状を信じられなくて呟くが、事情を知っている騎士達にとっては疑問に思う必要もないくらい分かりきったことだった。
昨日、クレイは王達の認可を受けた上で、レアトリア家を反逆者として捕らえるよう命令を下した。当然騎士団長は耳を疑い、クレイに反逆の証拠を問うた。クレイはなぜか口ごもりながら、パールが悪魔憑きであることと王太子に呪いをかけたことを話した。そしてレアトリア家はパールの悪魔憑きを利用して王位を簒奪しようとしたのだと語った。王太子との婚約がなくなったことで、血縁を王にする可能性がなくなったためだろうと。
しかし、騎士団長からすると、クレイは呪いをかけられたようには全く見えなかったし、何の呪いか問うてもクレイは返答を拒絶するばかりで、嘘をついているとしか思えなかった。また、パールが守護神グリティスと結婚したことは大神殿長が宣言しており、民も皆その結婚を喜び祝福している。それを悪魔憑きと批判するのは、神に反抗するようなものだ。あまりに恐ろしすぎる。
敬虔な信者でもあった騎士団長は一計を案じた。王太子の命令がある限り、それがどれほど疑わしいものであっても従わないわけにはいかない。だから密かに大神殿に使者を送り、レアトリア家の者を保護するよう願ったのだ。そして、騎士の派遣を出来るだけ引き延ばした。
果たして大神殿はすぐさまレアトリア家の者を保護し、王太子には悪魔憑きについて専門家が調べると明言し、王太子の手出しを阻んだ。恐らく元々彼らを保護する準備は出来ていたのだろう。そして、この騒動を守護神グリティスに伝えていないわけがない。
騎士達は覚っていた。王城が崩れたのは、神の怒りによるものだと。神は妻を悪魔憑き呼ばわり、つまり神を悪魔と呼んだことに怒り、妻の家族を害そうとしたことを許さなかったのだと。
騎士達が知っている事情は、城の使用人達にも噂として広がっていた。だから、この天罰としか思えない事態に直面し、誰もが跪き神へ頭を垂れた。自分達が戴いている王族の行為の謝罪とできる限りの許しを願って。1人でも犠牲者が少なくなればいいと祈り続けた。
土埃が収まった頃、人々は驚愕した。王城は一部が崩れていたが、それは王族の生活の場にとどまり、その他の行政機関には一切崩落が見えなかった。そして、この度の天罰により亡くなった者もいなかった。避難中に怪我をしたものはいたが、それもすぐ治るものばかりだ。これは神の慈悲に違いないと、誰もが神に祈りを捧げた。彼らを除いては。
「どうしてだ。俺たちは神に守られているはずだろう!」
「クレイ落ち着くのだ!」
「ああ……ドレスもない。宝石もない。私今化粧もしていないのよ。誰か早く私の身支度を整えなさい!」
王族達は着の身着のまま飛び出すことになったので寝間着のままだった。使用人達は各自安全を確かめて自室に帰り身支度を整えていたので、彼らだけが異様だった。彼らはとりあえずのものとして使用人が差し出した服を貧相だと貶し拒絶し、服飾職人を呼ぶよう指示したのだ。職人だってすぐに服を用立てられるわけじゃないのに、それまでずっと寝間着でいるつもりかと、使用人達は密かに嘲笑った。
この日、神の加護を持つとされていた王家は、神の怒りを受けたと民衆にまで伝わった。
「どういうことだ……」
真っ先に騎士達に守られて逃げ出した王太子クレイは、土埃がたつ王城を茫然と見ていた。周りには同じように逃げてきた者達が集まって来ていた。皆王城を見て不安そうにしている。
この日の未明、城は突如大きな震動で揺さぶられた。熟睡していたクレイは震動でベッドから叩き落とされ、隣で寝ていたアリシアも落ちてきて押し潰されることになった。
何事かとアリシアを退けて身を起こし辺りを見回すと、ノックもなく近衛騎士達が飛び込んできた。騎士達は、婚前にも関わらず女性と同衾していたクレイに一瞬冷たい目を向けた後、逃げるように告げた。どうやら城の一部が崩れ落ちたらしく、王太子の居室も危ないようだ。クレイはアリシアと共に急いで城から脱出した。
そして、クレイは王城の無惨な姿を見ることになったのである。
「なぜ、城が壊れている。我が国は守護神グリティスに守られた国だろう」
クレイは現状を信じられなくて呟くが、事情を知っている騎士達にとっては疑問に思う必要もないくらい分かりきったことだった。
昨日、クレイは王達の認可を受けた上で、レアトリア家を反逆者として捕らえるよう命令を下した。当然騎士団長は耳を疑い、クレイに反逆の証拠を問うた。クレイはなぜか口ごもりながら、パールが悪魔憑きであることと王太子に呪いをかけたことを話した。そしてレアトリア家はパールの悪魔憑きを利用して王位を簒奪しようとしたのだと語った。王太子との婚約がなくなったことで、血縁を王にする可能性がなくなったためだろうと。
しかし、騎士団長からすると、クレイは呪いをかけられたようには全く見えなかったし、何の呪いか問うてもクレイは返答を拒絶するばかりで、嘘をついているとしか思えなかった。また、パールが守護神グリティスと結婚したことは大神殿長が宣言しており、民も皆その結婚を喜び祝福している。それを悪魔憑きと批判するのは、神に反抗するようなものだ。あまりに恐ろしすぎる。
敬虔な信者でもあった騎士団長は一計を案じた。王太子の命令がある限り、それがどれほど疑わしいものであっても従わないわけにはいかない。だから密かに大神殿に使者を送り、レアトリア家の者を保護するよう願ったのだ。そして、騎士の派遣を出来るだけ引き延ばした。
果たして大神殿はすぐさまレアトリア家の者を保護し、王太子には悪魔憑きについて専門家が調べると明言し、王太子の手出しを阻んだ。恐らく元々彼らを保護する準備は出来ていたのだろう。そして、この騒動を守護神グリティスに伝えていないわけがない。
騎士達は覚っていた。王城が崩れたのは、神の怒りによるものだと。神は妻を悪魔憑き呼ばわり、つまり神を悪魔と呼んだことに怒り、妻の家族を害そうとしたことを許さなかったのだと。
騎士達が知っている事情は、城の使用人達にも噂として広がっていた。だから、この天罰としか思えない事態に直面し、誰もが跪き神へ頭を垂れた。自分達が戴いている王族の行為の謝罪とできる限りの許しを願って。1人でも犠牲者が少なくなればいいと祈り続けた。
土埃が収まった頃、人々は驚愕した。王城は一部が崩れていたが、それは王族の生活の場にとどまり、その他の行政機関には一切崩落が見えなかった。そして、この度の天罰により亡くなった者もいなかった。避難中に怪我をしたものはいたが、それもすぐ治るものばかりだ。これは神の慈悲に違いないと、誰もが神に祈りを捧げた。彼らを除いては。
「どうしてだ。俺たちは神に守られているはずだろう!」
「クレイ落ち着くのだ!」
「ああ……ドレスもない。宝石もない。私今化粧もしていないのよ。誰か早く私の身支度を整えなさい!」
王族達は着の身着のまま飛び出すことになったので寝間着のままだった。使用人達は各自安全を確かめて自室に帰り身支度を整えていたので、彼らだけが異様だった。彼らはとりあえずのものとして使用人が差し出した服を貧相だと貶し拒絶し、服飾職人を呼ぶよう指示したのだ。職人だってすぐに服を用立てられるわけじゃないのに、それまでずっと寝間着でいるつもりかと、使用人達は密かに嘲笑った。
この日、神の加護を持つとされていた王家は、神の怒りを受けたと民衆にまで伝わった。
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