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第十三章

私のトリセツ

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 馬車が次に目指した先は、貴族御用達。
 それも、内密な内容の話し合いや、公に出来ない関係の相手と会うのに利用する――そんな料亭だった。

 いやまぁ、料亭、と言っても和食レストランではないし、畳の和室でもない。
 普通にテーブルと椅子が置かれた、イタリアン(勿論この世界にイタリアなんて国は無いけど料理はある)レストランだ。

 高級店ではあるので、ぴんと張られたテーブルクロスは真っ白。綺麗に並べられたシルバーのカトラリーは輝き、見るだけで美しい皿は見る者の目を楽しませる。その皿の前にセットされたナフキンは、美しい花の形に折られている。

 私はノアのエスコートで席に着く。

 ……こんな店、前世の私ならあわあわするしか無かっただろうな。今も畏れ多いけど、幸い伯爵令嬢としてこういうマナーはとある影執事に徹底的に叩き込まれている。

 まずは食前酒のアプリコットの果実酒を、ほんの一口。
 そして前菜が出てくる。
 うん、カルパッチョうまうま。

 そこから最後のデザートとお茶が出てくるまでは、今日のデートの話など、他愛のない話に終始した。

 デザートは、ティラミスだった。
 ……順調に定着しているようで何よりである。

 「――それで。他人に聞かれたくない話って何だい?」
 デザートを運んで来た給仕が退室したのを見計らって、ノアが尋ねてきた。

 「……うん。ねぇ、ノアは“前世”って信じる?」

 この世界が日本のゲームだからなのか。
 輪廻転生的な考えもなくはない。勿論根拠のない都市伝説レベルの話ではあるけれど。

 「……どうだろう。僕はこれまでそんな夢物語にすがるより先に、すぐ目の前の現実をどうにかする方が大事だったから。考えた事もなかったよ。まぁ、“前世”は分からないけど、“次世”って言うのかな、それがあるなら今度は普通の人間として生きたいと、思わないでもないけど、前世なんて言われても……なぁ……」

 「ついでに異世界、って、お伽噺の物語の世界が実際にあったら……、その世界に生まれ変わったら……。ねぇ、ノアはそんな話を信じるかしら?」

 「それは……。もし別の誰かから、もっと他のシチュエーションで尋ねられたなら、間違いなく僕は鼻で笑っただろうね。けど、他ならぬレーネが、『他に聞かれたくない』と言って始めた話だ。何か理由があるんだろう?」

 「……そうだね。私自身が、“前世の記憶”を朧気ながら覚えたままレーネとして生を受けた張本人で。この世界は、その前世ではお伽噺……ではなく、もっと対象年齢が上の、むしろ恋愛小説的な物語と呼ぶべき架空の世界とあまりにそっくりだから」

 まずは端的にそれだけ早口にノアに伝え。

 私は審判を待つ罪人の気分で、耳に響く大きすぎる鼓動の音を聞きながら、ノアの答えを待った。

 頭の病気を疑われるのを覚悟の上で。
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