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復讐

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「この度は我が国の王族がご迷惑をおかけしてまことに申し訳ありませんでした。」

パーティー会場であった大広間にて招待された貴族たちが全員帰った後、国王ルーセルは残された人たちに頭を下げた。

総帥ことハルは冷たい表情でルーセルを見つめ、シオンはただ心配そうにユリアを見つめ、ユリアは真剣な表情でルーセルを見ていた。

張本人であるサイラスは何がおこっているのかいまだに理解出来ていないようで黙りこんでいる。

側妃はどこか不安げにサイラスを見ていた。

「謝罪の言葉はまた後で聞きます。して、リリア・ミーナ男爵令嬢とやらはいったいどこにいるのですか?」

ハルは冷たく言う。

「今呼んでいます。」

-コンコン

ルーセルが言ってすぐに扉がノックされた。

「リリア・ミーナを連れてきました。」

恭しげに部屋に入ってきた騎士は部屋にリリアを置いて部屋を辞す。

「な、なによここ!」

騒いでいたリリアはサイラスがいることに気づくと嬉しそうに駆け寄った。

「サイラス!」

サイラスの腕に抱きつく。

サイラスが固まるのに気づかずにリリアは言う。

「今日のパーティーに参加するだなんて聞いてないよ。私も連れていってくれてもよかったのに!」

「さわらないでくれ!そもそも君は誰だ?婚約者でもない男にさわるだなんて!」

サイラスはリリアをふりはらい叫ぶ。

「は?ちょっとなに言ってるのよサイラス。サイラスはそこの女じゃやくて私を選んでくれたじゃない!」

リリアは一瞬あっけにとられたがすぐに我にかえりサイラスに詰め寄った。

忘れたとは言わせないわよ!、と言うリリアにサイラスはどこか困ったように言う。

「覚えてないんだ!なにも覚えてないんだよ君のことなんか。」

「サイラス殿下。お聞きしますが今お持ちの最後の記憶はいつのものですか?」

不意にユリアが尋ねた。

「 王立学園の高等部1年の夏の記憶でとまっている。それいこうの記憶は思い出そうとすると霞がかかっているみたいに・・・。あと頭が痛くなってくる。」

サイラスは真剣な表情で言う。

あの日のサイラスとは違う。

まだリリアと会う前のユリアを愛してくれていたときのサイラスだった。

「誰か、私がユリアにしてしまったことを教えてください。」

はじめてサイラスが人に向けて頭を下げた。

「では、私から。」

ユリアは今までにされたこと、サイラスがしていたことを事細かに話す。

「私はそんなことを?ユリアしか本物はいないというのに私はなんていうことをして・・・!」

サイラスは記憶の中の自分がしていたユリアへの仕打ちを知り青ざめた。

「すまなかった、ユリア。記憶のない私からの謝罪などいらないと思うが、聞くだけ聞いてほしい。」

サイラスの真剣な眼差しにユリアは懐かしい記憶を思い出す。

優しかったルーセル。

一緒に遊んだ日々。

サイラスの誕生日パーティーでのサイラスからの告白。

サイラスとの幸せな日々を思い描いていたあの頃を思い出した。

「殿下っ!」

その優しさは国を出る前のユリアはほとんど受けてこなかった優しさだった。

「どうして今さらっ!」

涙を流すユリアにサイラスは慌てる。

「サイラス・・・君の国からの処置だけど、ラピスラズリ大帝国側からの要望にそって鉱山行きとする。」

ユリアにしたひどい仕打ちの記憶を何一つ覚えていないサイラスを鉱山で働かせるのは酷なことかもしれない。

「はい、それで私の罪が償われるのならいくらでも。」

サイラスは頷いた。

「次にリリア嬢だが、サイラスを誑かし、前国王とサイラスを騙したことは大罪に値する。よって貴族位剥奪の上娼館送りとする。」

「は?待ってよちょっと!なんで私が娼館送りなわけ!ていうか、そもそもあんた誰なわけ?王子であるサイラスにそんなことを言うだなんて何様なのよ!」

ルーセルの言葉にリリアは怒声を浴びせる。

「名乗り遅れた。私はヴイールヘミア王国の国王だ。」

「は?」

リリアは青ざめた。

その顔にはサイラスが国王になるんじゃなかったの、と書かれていた。

「う、うそ!国王陛下だなんて知らなくて!ごめんなさい!」

リリアは慌てて謝る。

「サイラスとリリアの処分は決定しました。ラピスラズリ大帝国側ではリリアも鉱山にとのことでしたが女性の幸せは夫を得て子供を産むこと。女性の幸せを得ることができないのは娼館の娼婦のみと言われています。」

「ですが、身請けとかもあると聞きますが。」

ルーセルの言葉にシオンが反論する。

「我が国の娼館では身請けは禁止しています。」

ルーセルの言葉にラピスラズリ大帝国の面々は黙り込んだ。

「ご理解していただけましたか?」

そう尋ねたルーセルにユリアが言う。

「私はそれで構いません。」

「ユリアがそれでいいというのなら異論はないわ。」

ユリアに続いてハルも賛成する。

シオンも渋っていたが賛成した。

「陛下!薬の成分がでました!」

突然部屋に駆け込んできた薬師ゼネにルーセルは言う。

「どんな結果だった?」

サイラスが記憶をなくし原因は何らかの薬が原因だと思ったルーセルが、薬を盛られたのが今日ならばまだ薬の成分が残っているかもしれないと言い調べさせたのだ。

「それが・・・禁止薬物は一つも使われていませんでした。しかし記憶消しの薬だとしたら調合比率がおかしいのです。」

「年数指定の記憶消しの薬だとしたらどうだ?」

「ありえるかもしれません!年数指定となると必要比率が変わりますから。ええと、だとしたら・・・。」

自分の世界に入り込んだゼネを横目にルーセルは言った。

「記憶消しの薬・・・聞き覚えはありませんか?」

不意にシオンが手をあげた。

「つい最近、ハルに使われました。皇族が権力を取り戻すために契約の薬の解毒薬を手に入れるために魔女の店を訪れた所、解毒薬と称してこの薬瓶を貰いまして。飲んだら一週間ほどの記憶がきれいさっぱりぬけていました。あとで護衛の騎士に魔女に確かめに行かせたところ笑顔で『ハルに金を積まれてやった』と白状しまして。その時に年数指定の記憶消しの薬があることを知りました。」

さらっと白状するシオンにハルが目を剥く。

「そういう話は国家機密なのでは?」

ルーセルが困ったように言うと、シオンが乾いた笑みを浮かべた。

「いや、早々にハルにばらされてしまいまして。あのクリムゾン大公家のご令嬢を陥れた皇族が権力を取り戻したがっている・・・と。なのでこのことは帝国民なら知っている情報です。」

「は、はあ。」

「なにを勘違いしているか知らないけれど私はやってないわよ。なんで私が第二王子に薬なんか盛らなきゃいけないわけ?シオンって確かユリアのこと・・・。」

「い、言わないでよ!」

ハルがシオンの秘密をばらそうとすると顔を真っ赤にしたシオンが止めに入った。

「とにかく、私が第二王子の記憶を消したところで何も私に得なんてないでしょう?」

ハルは呆れ顔でシオンを見ながら言う。

「誰が犯人なんだ?」

一番疑わしかったハルが全面的に否定したため誰が犯人なのかがわからなくなってしまった。

「それなら魔女に聞けばいいと思うわよ。」

ハルはシオンを見ながらにっこりと笑った。






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今日は昨日よりは早く更新できました。
お気に入り登録増えていてうれしいです。
今日はもう一話更新できるかはわかりませんが更新出来たら更新しようと思っています。
完結まであと少しです。








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