夢見る小猫

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一夜

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夢みる小猫

冷たいシーツに、火照る身体を縫い止めて、息を荒くつく。

汗が身体をべたつかせ、不快感が拭えない。
誰もいない空間に、一人こほこほと咳をついても背中をさすってくれる腕はない。
もう何日も自分と恋人なはずの人物は、この二人の住まいに戻ってはこない。
ずっと彼の帰りを待っていた自分は、風邪でどこにも動けない。

「俊彦…」

ぐゅっとシーツを食い込むように握り締めて、息苦しさを耐える。
名前を呼んでも返事はない。

本当はわかっている。
彼は別の人の元へいってしまった。

半年前から彼の目はあの人しか映していなかった。
ずっと傍にいたのは自分なのに、隣で眺めていただけ。
どれほど、想いをぶつけても、一途に俊彦を見続けても、報われはしなかった。


「…かないで…くれ……」


寒さに震え、孤独感に寂しさを覚えた。
すがれるものはただ無機質なシーツしかなく、ひたすらに耐えるしかなかった。
かじかむ指を息で温める事さえままならぬ現状と心境に、ただただ、涙しかでてこなかった。

嗚咽を堪えながら、ぼやける思考を何とか押さえて、ふらふらと冷蔵庫へと氷を取りに行こうとしたが、くらりとめまいがして床へと倒れてしまう。

冷える外気に、身をちぢめ、そのまま意識が遠くなるのを、どこか頭の片隅で冷静な自分が見つめていた。




ふと、目を開けると暖かいベッドに横になり、額には冷たい布が当てられていた。

「何で……」

「目、覚めたのか」

「俊彦…どうして、ここに?」

俊彦が部屋にいつのまにかきていて、顔を覗いてくる。自分の元へと帰ってきてくれたのかと、ほっと息をついた。
身体が楽になり、夢現つの気分で天井を眺めた。

「俺、また泉のところにいてやんないといけないからいくわ。んじゃな」

嬉しいと思っていた矢先に、すぐに俊彦は部屋をでていってしまった。
一人残され、身を縮めて再び静かになった空間で、ぬくもりを求めたのだった。

愛しそうに、髪を触れる仕草は自分には、されたことのない好意。
いつもは鋭い瞳を和ませて、見つめられたことなんて一度もない。

付き合って、同じ部屋にすんで、身体を繋げても、恋い焦がれても、俊彦の目には映る事なんてない。



どんなに、長い歳月を共にしても。





風邪が治った。

心のなかで渦巻くのはもう耐えきれない気持ち。
寂しさに震えたくない思いで、部屋をでた。
鍵はあとで送り付けることにして、やるせない想いを抱えながら笑った。
ぎこちなかったかも知れなかったけど、これが第一歩。

荷物はボストンバッグ一つでかちゃりとドアを開けた。
どうせ俊彦は自分の事など何も知らないだろう。
自分の好きなもの。
自分の嫌いなもの。
自分がしている仕事の内容。

何だか笑えてきた。




こんなにも長くいたのに。



一途に彼を想っていた自分が、馬鹿だと思えてくる。





震える子猫は、甘い夢を見る。

甘く鳴きながら、愛しい人に擦り寄り、愛を求め、ぬくもりを訴える。



一途に、子猫は、夢をほしがる。





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