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第四章 クラウディアを得んと暗躍する者達。

そうなるってわかってた。

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「陛下、この生牡蛎はお祖父様の商会しか取り扱う事の出来ない最高級品ですの。是非ご賞味下さいませ。きっと陛下の高貴な舌にもご満足頂ける筈ですわ。」

「……………」

「さぁ、陛下、一番美味しそうな牡蛎を選びましたわ。」
 孫娘さんは椅子から立ち上がり牡蛎が盛られたお皿を受け取ると、そのままシュヴァリエの目の前へと――――





 商会の建物の裏手が広い庭になっていて、そこにガーデンテーブルとベンチが用意してあった。
 シュヴァリエだけが何故か豪華な椅子であったのは、丁重に扱っておりますとアピールしているのかもしれない。
 まず、その事でひと悶着があった。

 その豪華な椅子に自分が座る事なくクラウディアをエスコートして座らせる。
 慌てた商会長が「その椅子は陛下……」と口にした時、シュヴァリエから魔力の威圧が噴出した。
「あ、あーー! お兄様、クラウディア喉が渇いちゃった!」とシュヴァリエの袖を引いて甘え作戦で気を散らす事をしていなければ、会長は失神くらいはしてたかもしれない。
 威圧に気付いた護衛騎士が青い顔をして立っている会長の補佐的な人に「同じ様な椅子をもうひとつ用意して下さい」とお願いして持ってこさせなければもっと面倒な事になっていた。

 ガーデンテーブルに額を付けて商会長がシュヴァリエに深く謝罪する。
「誰に謝罪している。相手が違うだろう」と氷点下の声色で言われ、ガクガク震えなからクラウディアに謝罪し直す。

「わざとではなかったのでしょう? 謝罪は不要です!」と伝えるも、いつまでもシュヴァリエの氷点下モードが消えないので「赦します。」と言わなければならなくなった。

 その初っ端の時点でクラウディアは生牡蠣を食べるのを諦めようかと悩んだ。
 商会長の隣に座っている孫娘のマリーナさんが、この一連の流れを見て自分も失神しかけたというのに、そこで懲りる事なくシュヴァリエにキラキラした視線を送っていたからだ。

 シュヴァリエに対するその恋する乙女的な表情を見て年の近い女の子とキャッキャウフフは諦めた。
 マリーナさん、貴女が恋する瞳で見つめてる相手、怒らせたらヤバイ人ですよ、やめておきなさい! と言いたかったが、クラウディアが視線を合わせようとしても一切合わせてくれないので諦めた。

 この街の特産物や特産品の説明を訊きつつ、いよいよ生牡蠣試食へと移る。
 少し焼いて半生にするらしい。
 庭で焼いてくれるそうなので「いよいよ七輪が!?」と期待したけれど、
 バーベキューグリル器みたいな物が運ばれてきて焼き始めたので、七輪はこの街にはないのかもしれない。
 それとも沢山焼いてるから、この大きさの物にしたのかな。
 ふつふつと焼かれている牡蛎を眺めながら色々考えていた時、冒頭のシーンである。


 シュヴァリエも距離を縮められた事に気付いたのだろう、ジワリと魔力が漏れ出し始めた。

 隣に座るクラウディアも、護衛兼使用人として護衛騎士たちと共に並び立っていたアンナもその事に気付いた。

(ち、近づいちゃダメ! エマージェンシーエマージェンシーよ!)

 内心ギャンギャン叫んでいるが、どう言葉に出せばいいのか分からない。
 来ないで! と言うのも、近づかないで! というのも何か違う。
 止まって! が正解か!? と言葉を発しようとした所で、アンナが素早い動きでスッとマリーナさんから皿を取り上げる。

「申し訳ございません。皇帝陛下も皇女殿下も尊き御身。目の前で調理していた物であろうとも毒見を済ませた物しか召し上がる事は出来ませんので。」
 とアンナさんが説明する。

「まぁ!? そうなのですのね、存じませんで申し訳ありません。」
 マリーナさんは素直に謝罪した。

「陛下、問題ありませんでした。どうぞお召し上がり下さい。」
 毒見チェックを済ませ、シュヴァリエの前にアンナが皿をそっと置く。

 牡蛎の身はアンナさんがスルリと殻から外していた。

(何かコレジャナイ感がするのよね……)

 シュヴァリエは、その牡蛎の身をフォークで器用に持ち上げ、そのままクラウディアの口元に持って行く。

「さぁ、クラウディア。お前が食べたかった生牡蛎だ。口を開けろ。」

 と、仰いました。

 ………道中の食事、何度かアーンをされたりさせられたりを経験済みのクラウディア。
 恥ずかしいので止めて下さいと拒否しても許されず、食べるまで食べさせるまでずーっとこの羞恥プレイは続く。
 しかし、今まで行われきた羞恥プレイは、全て滞在先の宿泊施設でだったり、
 食事を取る場所でも豪華な個室の中での事だったので、そのこっぱずかしいアレソレを見られる相手はアンナか護衛騎士の数人かであった。

 今回この羞恥プレイを見られてしまうのは、初対面の人達。
 何この地獄、である。

「お兄様、冗談が過ぎますよ。私はもう赤ちゃんではありません。」
 キッとした視線をシュヴァリエに送り「ここでは止めてくれ」と言葉にはしない思いをアピールする。

「ディア、いつもしてる事ではないか。今更であろう?」
 まるで熱愛中の恋人のように甘い視線と言葉。
 そして蕩けるような微笑み付き。


 ぐふっ……助けて誰か。
 私のヒットポイントはゼロよ……。


「陛下、お戯れはお辞めください。クラウディア様が熱が出たかのように真っ赤になっております。そういう事は別な場所でお願いします。」

 アンナがフォローのつもりでフォローになってない言葉で諫めるのが聴こえた。

(こういう場じゃなきゃいつもしてて、使用人公認風だから止めて欲しい……いや嘘じゃないけど……ここでいうの!? って話なのよアンナ)

「そうか。クラウディアを困らせるのは良くないな。また今度にしよう。」
 シュヴァリエは残念そうに話すと、パクリと生牡蠣を食べた。

(最初からそうしてください)

 心中で文句をぶうぶう言いながら、熱を放つ頬を無視して自分もフォークを持つ。

「なかなか美味いぞ、クラウディア」

 パクリと口に含むと半生だからかクリーミーな味が口に広がった。
 懐かしい磯の香りが鼻を抜ける。

「お兄様、とっても美味しいですね!」
「ああ、お前が気に入ってくれるなら、定期的に買ってもいいな」

 クラウディアの頭を撫でてシュヴァリエは満足そうに笑う。


 皇帝陛下と皇女殿下の仲睦まじい兄妹の触れ合いを静かに見守っていた商会の人達。
 会長も「陛下と殿下は仲が宜しいのだなぁ」と微笑まし気に見守っていた。
 ただ会長の横に座る孫娘だけが、剣呑な眼差しでクラウディアを見つめたのだった。
 アンナや護衛騎士達にその様子を見られているとも気付かずに。

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