56 / 105
56話 地位と力
しおりを挟む
婚姻の儀式を終え、アスカルとグランデはレガロ伯爵邸に戻ると…
グランデは光沢のある漆黒の生地に、金糸と銀糸で刺繍がほどこされた、地味なのに派手な黒騎士団の礼装から、普段着ている上から下まで漆黒の騎士服に大急ぎで着替えた。
「悪いなアスカル!」
「いいえグランデ様、僕は騎士団長の妻になったのですから、これぐらいは覚悟していました」
「新妻を置いて、魔獣討伐に行くのは本当に、オレとしては不本意なんだ! 可愛い妻を、今すぐベッドに連れ込みたくてたまらないのに!! ああ、本当に腹が立つ!!」
「ふふふっ… それは僕も同じですよ、グランデ様」
手首に装着した、真新しい銀色のブレスレット型の抑制リングに触れ、アスカルは苦笑した。
番のグランデが多忙なため、発情期のアスカルを抱くことができず…
その間、オメガの発情期にともなう苦痛を和らげ、体調を整えるため、アスカルは抑制リングを使うことにしたのだ。
ちなみに…
結婚後も抑制リングを装着していると、社交界では… “夫に相手にしてもらえない惨めな妻” と、陰口をたたかれ嘲笑の的となるため、貴族階級に属するオメガたちは、人前では使わないらしい。
抑制リングを用意しアスカル用に調整してくれた、魔道具の技師が『袖で隠すように』 とそっと忠告してくれた。
「アスカル、婚姻の儀式にはオレの部下しか呼べなかったが… 魔獣の勢いが治まったら、盛大にお前の披露宴をやろうな?」
「僕も平民あがりですから、そういうことにはあまり興味が無いので、気にしないで下さいグランデ様」
「だが… 本当はお前の故郷で、神官カスカダ殿に儀式を頼んで、養父のペスカドやクエジョに結婚を祝ってもらいたかっただろう?」
顔は怖いが心は紳士の夫が、新妻の頬をなでる。
「大丈夫ですよ! グランデ様が伝言用の幻鳥を、飛ばす魔道具を下さったから… 神官様と簡単にやり取りが出来るようになったおかげで、領地にいるみんなからはすでに、祝福の言葉をいっぱいもらいましたから!」
「…そうか?」
申し訳なさそうな顔をするグランデに抱き付き、アスカルは背伸びをしてアゴにチュッ…! とキスをした。
グランデの求婚をアスカルが受け入れ、その翌日には急いで結婚してしまった2人だが…
婚約期間をまるっと省略したのには、気持ちの問題以外にも、それなりの理由があった。
レガロ伯爵家の領地で、アスカルと共に魔獣化したイノシシを退治したその日のうちに… グランデは黒騎士団の信頼する部下バハルに、青騎士団(王国の治安維持が専門)と連携し、魔獣化した家畜や野生動物についての情報を集める命令を出した。
王都の伯爵邸でアスカルが眠っている間に、グランデは部下バハルと青騎士団が収集した情報を報告書にまとめ、王太子アニマシオンに見せ…
同時にグランデは、『魔王復活の報を、国民に知らせるべき時が来たのでは?』 と進言した。
王太子アニマシオンはグランデの進言を受け入れ、大賢者の未来視の魔法であきらかになった、近い未来に訪れる魔王復活の日について… 国王から正式に国民に対して、発表することを決めた。
魔王討伐の指揮をとる最高責任者を、王太子アニマシオンがつとめ…
その実戦部隊の騎士たちを指揮するのが、魔獣討伐が専門の黒騎士団の騎士団長グランデである。
王太子アニマシオンがレガロ伯爵家の継承問題に口を出し、グランデを伯爵にしたのも… すべては魔王討伐戦を見越し、グランデが自由に力を発揮できる地位を、確保したかったからだ。
インテルメディオ王国の命運がかかる、魔王討伐を前にして… グランデは領民に対してレガロ伯爵の義務を果たすことよりも、王国に対して黒騎士の義務を果たすことを優先することとなる。
そこでグランデは、田舎の広大な領地を執事という制限のある立場から、伯爵の代行で管理し運営に関わって来たアスカルの能力を信頼し… 結婚でアスカルを伯爵夫人の地位につけ、伯爵家の全権を任せることにした。
「本当にすまないアスカル! オレはこの調子で、お前にたくさん苦労を掛けることになるが… オレを見捨てないでくれアスカル!」
「グランデ様のためにすることは、けして苦労ではありませんよ! むしろグランデ様のお役に立てて、僕の喜びとなりますから! 家のことは僕にお任せ下さい!」
背が高い愛する夫を見あげ、アスカルは心から微笑んだ。
グランデは光沢のある漆黒の生地に、金糸と銀糸で刺繍がほどこされた、地味なのに派手な黒騎士団の礼装から、普段着ている上から下まで漆黒の騎士服に大急ぎで着替えた。
「悪いなアスカル!」
「いいえグランデ様、僕は騎士団長の妻になったのですから、これぐらいは覚悟していました」
「新妻を置いて、魔獣討伐に行くのは本当に、オレとしては不本意なんだ! 可愛い妻を、今すぐベッドに連れ込みたくてたまらないのに!! ああ、本当に腹が立つ!!」
「ふふふっ… それは僕も同じですよ、グランデ様」
手首に装着した、真新しい銀色のブレスレット型の抑制リングに触れ、アスカルは苦笑した。
番のグランデが多忙なため、発情期のアスカルを抱くことができず…
その間、オメガの発情期にともなう苦痛を和らげ、体調を整えるため、アスカルは抑制リングを使うことにしたのだ。
ちなみに…
結婚後も抑制リングを装着していると、社交界では… “夫に相手にしてもらえない惨めな妻” と、陰口をたたかれ嘲笑の的となるため、貴族階級に属するオメガたちは、人前では使わないらしい。
抑制リングを用意しアスカル用に調整してくれた、魔道具の技師が『袖で隠すように』 とそっと忠告してくれた。
「アスカル、婚姻の儀式にはオレの部下しか呼べなかったが… 魔獣の勢いが治まったら、盛大にお前の披露宴をやろうな?」
「僕も平民あがりですから、そういうことにはあまり興味が無いので、気にしないで下さいグランデ様」
「だが… 本当はお前の故郷で、神官カスカダ殿に儀式を頼んで、養父のペスカドやクエジョに結婚を祝ってもらいたかっただろう?」
顔は怖いが心は紳士の夫が、新妻の頬をなでる。
「大丈夫ですよ! グランデ様が伝言用の幻鳥を、飛ばす魔道具を下さったから… 神官様と簡単にやり取りが出来るようになったおかげで、領地にいるみんなからはすでに、祝福の言葉をいっぱいもらいましたから!」
「…そうか?」
申し訳なさそうな顔をするグランデに抱き付き、アスカルは背伸びをしてアゴにチュッ…! とキスをした。
グランデの求婚をアスカルが受け入れ、その翌日には急いで結婚してしまった2人だが…
婚約期間をまるっと省略したのには、気持ちの問題以外にも、それなりの理由があった。
レガロ伯爵家の領地で、アスカルと共に魔獣化したイノシシを退治したその日のうちに… グランデは黒騎士団の信頼する部下バハルに、青騎士団(王国の治安維持が専門)と連携し、魔獣化した家畜や野生動物についての情報を集める命令を出した。
王都の伯爵邸でアスカルが眠っている間に、グランデは部下バハルと青騎士団が収集した情報を報告書にまとめ、王太子アニマシオンに見せ…
同時にグランデは、『魔王復活の報を、国民に知らせるべき時が来たのでは?』 と進言した。
王太子アニマシオンはグランデの進言を受け入れ、大賢者の未来視の魔法であきらかになった、近い未来に訪れる魔王復活の日について… 国王から正式に国民に対して、発表することを決めた。
魔王討伐の指揮をとる最高責任者を、王太子アニマシオンがつとめ…
その実戦部隊の騎士たちを指揮するのが、魔獣討伐が専門の黒騎士団の騎士団長グランデである。
王太子アニマシオンがレガロ伯爵家の継承問題に口を出し、グランデを伯爵にしたのも… すべては魔王討伐戦を見越し、グランデが自由に力を発揮できる地位を、確保したかったからだ。
インテルメディオ王国の命運がかかる、魔王討伐を前にして… グランデは領民に対してレガロ伯爵の義務を果たすことよりも、王国に対して黒騎士の義務を果たすことを優先することとなる。
そこでグランデは、田舎の広大な領地を執事という制限のある立場から、伯爵の代行で管理し運営に関わって来たアスカルの能力を信頼し… 結婚でアスカルを伯爵夫人の地位につけ、伯爵家の全権を任せることにした。
「本当にすまないアスカル! オレはこの調子で、お前にたくさん苦労を掛けることになるが… オレを見捨てないでくれアスカル!」
「グランデ様のためにすることは、けして苦労ではありませんよ! むしろグランデ様のお役に立てて、僕の喜びとなりますから! 家のことは僕にお任せ下さい!」
背が高い愛する夫を見あげ、アスカルは心から微笑んだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
660
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる