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それぞれの誓い

それぞれの誓い

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 ーー結婚前夜。優子は久しぶりに父親と夕食をとっていた。母の律子、姉の良子は不在。教育係の徳増も席を外している。

「寂しいな」

 食卓の品数を揶揄する家長の強がりに優子は穏やかな笑みを浮かべ答えた。

「わたしはお父様とご一緒できるだけで充分ですから」

「……そうか」

 力なく頷く父親の顔色は冴えない。体調は回復しきらず、明日の参列は辞退することとなる。

「良いお医者様を紹介してくださいますよう、暁月様にお願いしてみますね」

「あぁ、秀人君が欲しいものをの用立てると言ってくれてるそうだな。徳増から聞いている」

「えぇ、ただ、わたしにはこれといって欲しい品はなくて。徳増が何も望まないのも失礼だと……」

 あれから暁月秀人が使用人を介し、優子に欲しいものを用立てると伝えてきたのは思いやりからではない。優子を金で買っているようなもの、花でも衣装でも宝石だって望めば難なく手に入れられる財力の見せつけだった。

「徳増は忙しいのか?」

「丸井家とお仕事の話をしているみたいです。最近は遅くまで働いていて、身体を壊さなければいいのだけれど」

「お前が結婚してしまうから、がむしゃらに動きたいんだろうーーというか、共通の話題は彼の事しかないな」

 父と娘の関係は悪くはないものの、結婚前夜に振り返る思い出があまりにも少ない。家業が軌道に乗っている頃、父が家に寄り付かなかったからである。

 たまに帰ってきても妻はおろか、娘達との時間を積極的に作ろうとしなかった。今から考えれば、すれ違う父が甘い香りを纏った意味も察せられる。

 優子は父の振る舞いを寂しく思わない訳ではないが、これまで不自由なく暮らせたのはやはり家長のお陰だと思う。だから秀人が金だけ送り付けてくる件に表立って非難をしない。

「お父様は徳増が丸井家と面識があるのをご存知でしたか? 徳増はわたしの教育係になる前、何をしていたのですか?」

 質問に一瞬、父親の顔が強張る。

「……人の過去を詮索するなど、はしたない真似をするな」

「も、申し訳ありません。以前、徳増に聞いてもはぐらかされてしまって」

 優子は謝罪し、疑問を慌てて引っ込めようとしたが、父の言葉は続く。

「徳増はお前に仕えているのだ、私や秀人君には従わない。忠誠を誓うと言えば聞こえがいいけれど、お前に魅入られていると表現した方がしっくりくるか」

「魅入られているって……徳増がわたしを女性として見ているという意味ですか?」

「はは、徳増との間を邪推されるのが嫌か?怒りを覚えるか?」

「当たり前です! 他でもないお父様に仰られるのが辛いです」
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