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二章

SS 駆け出し龍姫と臆病な龍

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 あたし、は力を与えられた。
 その代わり国の名に恥じない成果を上げろと言われる。

 なんであたしが誰とも分からないやつの言うことを聞かなきゃいけないわけ?
 見たことも聞いたこともない世界に拉致して、その上で武力を渡すなんて馬鹿のやることだわ。
 そう思ってるとバカの代表が現れた。

「おう、アリエルガキ。お前も力を貰ったんだって?」

 少し早く生まれて、力あるもの者にへりくだって生きてきた冴えない男。
 自分だってガキの癖にやたらあたしにつっかかってくる面倒臭いやつだ。

「だから何?」
「そうつれなくすんなよ。俺とお前の仲じゃねぇか」

 だからなぜそう上からの態度で来るのか訳がわからない。
 一年早く生まれただけで王様気取りだ。
 あたしがこの男に靡くことなんて絶対にないのに。
 ザッシュこいつは諦めが悪かった。

「何が言いたいのよ。要件があるなら早く言って」
「お前さ、ロギンさんと組まねぇか?」
「なんだってあんな奴に!」

 あたしは憤慨した。
 ロギンという男はザッシュと同様少し早く生まれて、年上のヤクザにうまく取り入る話術の上手いろくでなし。ヤクザが消えてそれこそ自分の天下が来たと思ってるような奴の下につくなんて正気じゃない。
 それで知り合いが何人廃人に追い込まれたか知らないわけでもあるまい。

「悪い話じゃねぇぜ? ガキばかり30人。大人もいねぇ、食い物もねぇ。ここは力を合わせてやってくとこだと思うんだよ。もちろん、力を授けてくれた奴には感謝こそすれ、一時凌ぎだ。どことも知らない場所に連れてきて、扱き使おうって魂胆が見え見え。話半分に聞いておさらばするのが自然だぜ?」
「そうね、そこは同意よ」
「じゃあ?」
「だからってロギンの下につく理由にはならないわ。あたしはあたしで勝手にやるから、あんたは他のやつと組めばいいじゃない」
「せっかく誘ってやったのに、最後までつれないやつだぜ。あ、そうだエラールの奴はうちに来たぜ?」
「だから?」
「知り合いだろ?」
「縄張り争いをした程度で仲が良いわけではないわね」

 それだけ言って私は踵を返した。
 これ以上時間を潰されるのは厄介だ。
 ザッシュの言う通り、この環境は人が生きていくのに非常に困難を極めた。

 ◇

「ここなら食べ物が手に入るかしら?」

 力を手に入れて3日後。
 飲まず食わずで彷徨い、意識を朦朧とさせながらたどり着いた場所は見たこともない見上げるほど巨大な植物が存在する世界。
 緑が豊富な場所なら、果実の一つくらいあると思った。

「チッ、ここじゃあたしの方が獲物ってわけ!?」

 舌を打ち、身を投げるように前方へ転がる。
 先程までいた場所に突き刺さったのは、植物の蔦だった。
 果実の香りに寄せられてた獲物をその鋭い蔦で貫いてきたのだろう。
 かなり大きな獲物の白骨死体が転がっている。

「ごめんなさいね、あたしって諦めは悪い方なの」

 闘争心に火がつく心地だった。
 追い詰められてようやくというあたり、この世界を舐め腐っていたのかもしれない。だからこそ与えられた力を認識し、それを行使する。

「ドラゴニックオーラLV.1」

 これは龍の下位種である竜特攻の弱体化スキル。
 あたしの職能ドラゴンロードは竜を使役する力を持つ。
 〈ドラゴニックオーラ〉で怯んだ相手なら、もう一つのスキル〈ドラゴンテイム〉が通用する筈!
 竜に与する植物だったのかそれは怯み、私のスキルが成功する。

<アリエルはレベルが上がった>

<アリエルは龍果をテイムした>

 ★1 龍果
 植物系モンスターで果実を食したものに龍が如き闘争心を植え付ける。
 果実を食すると空腹とは無縁になり7日7晩飲まず食わずでも生きていける肉体を得る。
 ドラグネス皇国において唯一食べられる食材。

 何か非常に気になることが書いてあったけど、これ以上の空腹は命に関わるわ。
 あたしは気にせずその実を口にした。
 シャリ、ジャリ、うえっ。なにこれ、まっず!
 今まで口に入れてきた何よりも不味くて食べる気も引っ込むわね!?
 え、これが唯一食べられるものとか嘘でしょう?
 それでも食べないと……背に腹は替えられないわ。

 最悪の気分になりながら完食。
 その日は寝た。

 翌日、起きてみたら最高の目覚め。
 何より寝起きと同時の空腹感がないのもいい。
 ただ、テイムした龍果は実を食したら消滅してしまって手元には残らなかった。
 これではまるで実の方が本体のような気さえする。
 まさかよね?

 ただ、問題なのがドラゴン種の存在こそ感じるものの、あたしの〈ドラゴニックオーラ〉が通用する相手が全く皆無だったということ。
 これ、もしかして後ろについてるLVというものを上げる必要がある?
 確かにLV1で通じたのは★1の龍果だった。
 ★が龍の強さなら、LVは私が使役できるドラゴンの強さになるのかしら?
 一体全体どうやってあげるか分からないけど、手当たり次第龍果を集めるほかないわね。
 実を千切るとそれ以外が死滅する謎の植物、龍果。
 あたしはその果実を集めて30個目にしてようやくLVの上昇を確認した。

 ようやくレベルが2になった。これでようやく★2のドラゴンがお迎えできると言うことよね? あたしは嬉しくなり、ドラゴンの如く闘争心でもってお目当てのドラゴンを目を皿のようにして探した。

 そうして見つけた相手が、グレイス。
 グレイトドラゴンという気高い名前に似付かわない気弱な個体だった。
 群れからは追い出され、龍果すら満足に食せない。
 死を待つだけの存在だったあの子に、数だけはある龍果を与えたらドラゴンテイム無しでも軍門に降ってくれた。

 最初は竜らしからぬ弱さに憤慨したりもした。
 けど、会話を通じていくうちに、この子はあたしと同じ境遇なんだって分かって変に意思疎通が強まった。

 あたしが龍果を食して気が強くなったのに対してグレイスがいつまでも気弱なのは単純になにも一人でやり遂げたことがなかったからだ。
 だからあたしとグレイスの最初の仕事は、格上を討伐することだった。
 殺して命を奪うことを覚えさせないと弱肉強食の世界を生き残れない。

 泥水を啜った方がまだマシな味がする龍果を分け合い、あたしとグレイスの特訓が始まった。

『む、無理ですご主人様! 私にそんな真似出来ません!』
「いいからやりなさい!」
『ひぇええええ』

 龍果の討伐。あたしの手を借りずに一人で討伐してみなさいと言ったら怪訝な顔をされ、喝を入れてようやく重い腰を上げる。根っからのダメ竜なのだ、この子は。
 その大きな巨体で踏み潰せばいいのに、足の裏をこちょこちょさせられてくすぐったかった、やら。爪と肉の間に突き刺してくるのはえげつないよ!、やら、
 言い訳がましいことばかり。
 この子にはがむしゃらさが足りないのだ。
 強者に立ち向かう事を知らない、怖いと思ってるうちは成長なんてしないもの。
 最終的には餌と見たら無意識に食らいつくぐらいでいてくれないと困るのよね。

『やったぁ! やってやりましたよご主人様!』
「あたしでもできる事を、なにをそんなに嬉しそうに」
『少しぐらい喜ばせてくださいよ。ようやく一人で乗り越えたのにぃ』
「そうね、偉いわグレイス」
『でへへ。なら今日は龍果5個食べてもいいですよね。ね?』
「いいけど、自分の分は自分で取るのよ?」
『そんなぁ、無理です! まだ一個取るので精一杯ですよぉ!』
「だったらそんな贅沢言わない! 3個で我慢なさい?」
『うえーん、ご主人様のいじわるー』

 もしこの子が小さな子供だったらまだわかるのだけど、図体だけは一丁前なくせに泣き虫だから困るのよね。
 やれやれと思いながらも、こうやって誰かとコミュニケーションを取るのは久しぶりだった。

 あの子は、泣き虫だったエラールはロギンの元で元気してるかしら?
 ま、別の道に行ったあの子のことまであたしが気にする事じゃないわね。
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