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五章
03_龍果の魅力を伝えよう②
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坂下さんと一緒に料理をしていくうちに、最初こそ素材合成ガチャのクオリティを上げる為のアルバイトが、違う意味でも興味が湧き始める。
彼女は言った。未知の食材で作る、0から1つのものを作り上げることこそ料理人の本質だと。
俺は既存の食材を使うことだけで満足していたが、違うんだ。
その道も面白いと思った。
日本の食事はいつでも食べられる。
今度は異世界ならではの料理を作りたいと思った。
今回のアリエルの相談は渡りに船。
自分で料理をするようになって、違う道が見えたのだ。
「決めた、俺は異世界の食材を使ってオリジナル料理を作るぞ!」
決意表明をみんなに打ち明けると、全員は俺らしくないと言いたげに困惑した。しかしすぐに先ほどの調理の技術を理解して納得した。
現実ではたった一週間前。その間に仕込んできた技術で料理を一品仕上げたのも大きいだろう。
前までは何につけても他人頼りだったからな。
「実は私もこっちでやりたいことがあったのよね」
委員長が恥ずかしげに申告した。
「あら、聞いてませんわよ由乃」
「みゆりには一度伝えたと思うんだけど?」
「あー、学校の先生?」
「そこまで大袈裟じゃないけど、手と手を取り合う未来のお手伝いがしたいと思ったの。学校に行ったから偉いだなんて言わないけど、額のなさを免罪符にされるよりは良いかと思ってね?」
委員長がロギンに向けて言った。
先ほどから何度も繰り返した“無学”アピールが鼻についたのだろう。
「それでしたらわたくしも、試してみたいことがありますの」
「みゆりが? なになに?」
これには委員長のみならずアリエルも食いついた。
それ以外のメンバーも興味津々だ。
「美容師をね、したいなと」
「へぇ、意外ね。お家の方ではやらせて貰えないの?」
「家ではわたくしにふさわしくないと習い事以外のものは興味を持つのも禁止されていますから。高校を卒業したあとは婚約者との婚姻までストレートですわ。だからこの世界でなら、その夢が叶えられると思ったの」
「ふんふん、良いんじゃない? みゆりに髪解いてもらうのすごく気持ちよかったし、向いてると思うわ?」
「アリエルさんも髪が重くなったと感じたら頼ってくださいね? イメージを変えたりとかでも良いですよ?」
杜若さんは美容師かぁ。
「薫は?」
「そこで僕に聞く?」
「いや、なんか全員が語る場面じゃん?」
「一週間かそこいらで固まるわけないでしょ。でも強いて言うならみんなのお手伝いができれば良いと思ってる。みんな商売には疎そうだし、そこはいつでも頼ってくれて良いよ? その過程でやりたいことができれば良いなって思うかな?」
薫らしいっちゃらしい回答だ。
そして正直心の中でアテにしてた所もあるのでホッとしたのも事実だった。
ここでミュージシャンになるからお手伝いできないよって言われたら俺たちは本気で困るところだった。
お前はいつまでもそのままでいてくれよ?
「俺はグーラ氏の手伝いをする中で知識の開拓がメインだな」
夏目が胸を張って当たり前のように言う。
本当にこいつは変わったよな。
いや、異世界にきて全員変わったと言うべきか。
「僕はゴーレムの完全制御を優先かな?」
「不法投棄は程々にな?」
農園の外に放置された瓦礫を指し苦言を口にする。
「あれは失敗作だよ。だからこそ阿久津君にお願いがあるんだ」
「すこぶる嫌な予感がするが、なんだ?」
「設計図通りに加工して欲しいんだよね」
つまり俺の素材加工目当てってわけだな?
「良いけどタダじゃ引き受けられないな」
「仕方ないな、売り子で良ければ引き受けるよ」
「いや、売り子は薫がやってくれるから必要ない。その代わり……」
俺は節黒にとある提案をした。
それは屋台の設計図を引いてもらった。
タイヤなりなんなりの構造を知らないので、知ってる人にお願いする方がクオリティが上がるからな。
「おいおい、だったら俺を頼ってくれよ」
「お前の技術は俺が理解できない」
「あはは、言われちゃったね夏目君」
あくまで節黒の設計図はサイズ無視のプラモデルでしかない。
それを節黒の天性『人形使い』で無理やり動かすのだ。
動力を考えなくて良い分、用途は多いが本人が飽きたらその場でゴミが不法投棄される心配だけが懸念だった。
他人事のように言うが、夏目以上に問題児なのである。
あとその場所農園の敷地内だからな、あとで撤去しとけよ?
「それはともかく、俺は転送装置に頼らず現地を歩いてその土地の人に話を聞きながら料理を振る舞いたいんだよ。だから節黒に頼んだんだ。夏目には既にいろいろ貰っちゃってるしな」
「むぅ、そう言う事なら仕方ないか。今回は節黒に譲るがいつでも俺を頼ってくれて良いからな?」
そう言って夏目は一人転送装置でどこかへ飛んだ。
最初っからその装置で来いや、とは言えなかった。
突然来られても困るからだ。
「私は阿久津君と同じでオリジナル料理の制作とそれを広めることね!」
ふんす、と興奮する坂下さん。その中でも不味いとされた龍果は未知の素材だと興味を謗られている。
これは“大豆”以上に余す事なく絞られそうだと心の中で合唱した。
「そう言うわけで、アリエル。私と提携しない?」
「あたしが恵と?」
「そうよ、私が二次産業を賄う事で一次産業が賑わうの。これ、生産の方はどれくらい増やせるの?」
「まぁな、どんな天候でも育つし逃走させなきゃ数は確保できると思うぞ?」
言いあぐねてるアリエルに変わり、実際に肉体労働を実行してるロギンが答えた。
龍果、逃走もするんだ。
意思を持つ植物なんだってのは調理してて気づいたが。
「じゃあまずは1000個用意できる?」
「こりゃまた随分な要求数だ。必要な部位はあるかい?」
「食べられるのは実以外もあるの?」
「実をもぐとそれ以外が枯れるんだよ。使えるんならそれ以外も使ってくれたら俺たちはゴミが減って嬉しい」
「でもそのゴミは次の龍果の肥料になるんじゃないの?」
「いや、あいつら実を地面に植えると勝手に増えるから」
「なんてお手軽な食材なのかしら……」
「一般人が扱わないのはこいつがドラゴンの系譜だからだな。実質ドラゴンロードのアリエルが従えてるから従順なだけでそれ以外の野生種は反撃してくるからな?」
「割と自由な食材なのね。でもだからこそ……」
「ああ、うち以外の取引先はないと思って良いぜ? 普通は飼い慣らそうと思わないもんを飼い慣らしてるからな」
「交渉成立ね。こっちの報酬は龍果の知名度でどうかしら」
「知名度? そんなもんで俺たちの腹が膨れると思ってんのか?」
坂下さんの提案にロギンが不服そうに反論する。
「まぁ、普通はどう思うわよね。冴島君、ヘルプお願いして良い?」
「了解」
ここで商人の薫の出番だ。
最初はこのまま売れない植物を育て続けることのデメリットをこれでもかと列挙させてロギンを黙らせ、次に坂下さんが方々で加工品の売り込みをする事で農園の名前とその食材があの味かと想起させる事で周囲からチヤホヤされる。
知名度というのは良い点もあるが悪い点もあるもんだが、薫は良い点だけを述べた。
褒めて褒めて褒めちぎったのである。
「知名度、やばいな。そんなにウチが優遇されるってんならまぁ、受けても良いと思うがどうだボス?」
「それだけじゃ弱いわね。恵の加工品をうちでもいくつか受け持てる権利ももらうわ!」
アリエルはそれくらい当然の権利よね? と延べる。
薫はアリエルが従うならそれで良し、こうくることも見据えてか嬉しそうな顔をする。
「成長したね、アリエル。そうだ、生産者はそれくらい主張して良い」
「な、騙したのかよ!」
「騙してなんかないわよ、こいつはこういう奴なの。こいつに泣かされた商人が今まで何人居ると思う? 両手で数え切れないくらいの商人がこいつの舌先三寸に潰されてるわ」
「人聞きの悪いことを言わないでくれる? あれが商売のやり方が悪質だったから正義の心で教えを示したんじゃないか」
「それで何店出入り禁止にされた事か……」
「絶対ブラックリスト作られてるわよね……」
「まぁまぁ、冴島さんですから……」
擁護してるようでしてない、そんな空気が俺たちの間に流れた。それでも坂下さんとアリエルの農園は上手い事手を組むことができた。
以降薫はアリエルの農園では手を出しちゃいけないやべー奴として扱われることになった。
彼女は言った。未知の食材で作る、0から1つのものを作り上げることこそ料理人の本質だと。
俺は既存の食材を使うことだけで満足していたが、違うんだ。
その道も面白いと思った。
日本の食事はいつでも食べられる。
今度は異世界ならではの料理を作りたいと思った。
今回のアリエルの相談は渡りに船。
自分で料理をするようになって、違う道が見えたのだ。
「決めた、俺は異世界の食材を使ってオリジナル料理を作るぞ!」
決意表明をみんなに打ち明けると、全員は俺らしくないと言いたげに困惑した。しかしすぐに先ほどの調理の技術を理解して納得した。
現実ではたった一週間前。その間に仕込んできた技術で料理を一品仕上げたのも大きいだろう。
前までは何につけても他人頼りだったからな。
「実は私もこっちでやりたいことがあったのよね」
委員長が恥ずかしげに申告した。
「あら、聞いてませんわよ由乃」
「みゆりには一度伝えたと思うんだけど?」
「あー、学校の先生?」
「そこまで大袈裟じゃないけど、手と手を取り合う未来のお手伝いがしたいと思ったの。学校に行ったから偉いだなんて言わないけど、額のなさを免罪符にされるよりは良いかと思ってね?」
委員長がロギンに向けて言った。
先ほどから何度も繰り返した“無学”アピールが鼻についたのだろう。
「それでしたらわたくしも、試してみたいことがありますの」
「みゆりが? なになに?」
これには委員長のみならずアリエルも食いついた。
それ以外のメンバーも興味津々だ。
「美容師をね、したいなと」
「へぇ、意外ね。お家の方ではやらせて貰えないの?」
「家ではわたくしにふさわしくないと習い事以外のものは興味を持つのも禁止されていますから。高校を卒業したあとは婚約者との婚姻までストレートですわ。だからこの世界でなら、その夢が叶えられると思ったの」
「ふんふん、良いんじゃない? みゆりに髪解いてもらうのすごく気持ちよかったし、向いてると思うわ?」
「アリエルさんも髪が重くなったと感じたら頼ってくださいね? イメージを変えたりとかでも良いですよ?」
杜若さんは美容師かぁ。
「薫は?」
「そこで僕に聞く?」
「いや、なんか全員が語る場面じゃん?」
「一週間かそこいらで固まるわけないでしょ。でも強いて言うならみんなのお手伝いができれば良いと思ってる。みんな商売には疎そうだし、そこはいつでも頼ってくれて良いよ? その過程でやりたいことができれば良いなって思うかな?」
薫らしいっちゃらしい回答だ。
そして正直心の中でアテにしてた所もあるのでホッとしたのも事実だった。
ここでミュージシャンになるからお手伝いできないよって言われたら俺たちは本気で困るところだった。
お前はいつまでもそのままでいてくれよ?
「俺はグーラ氏の手伝いをする中で知識の開拓がメインだな」
夏目が胸を張って当たり前のように言う。
本当にこいつは変わったよな。
いや、異世界にきて全員変わったと言うべきか。
「僕はゴーレムの完全制御を優先かな?」
「不法投棄は程々にな?」
農園の外に放置された瓦礫を指し苦言を口にする。
「あれは失敗作だよ。だからこそ阿久津君にお願いがあるんだ」
「すこぶる嫌な予感がするが、なんだ?」
「設計図通りに加工して欲しいんだよね」
つまり俺の素材加工目当てってわけだな?
「良いけどタダじゃ引き受けられないな」
「仕方ないな、売り子で良ければ引き受けるよ」
「いや、売り子は薫がやってくれるから必要ない。その代わり……」
俺は節黒にとある提案をした。
それは屋台の設計図を引いてもらった。
タイヤなりなんなりの構造を知らないので、知ってる人にお願いする方がクオリティが上がるからな。
「おいおい、だったら俺を頼ってくれよ」
「お前の技術は俺が理解できない」
「あはは、言われちゃったね夏目君」
あくまで節黒の設計図はサイズ無視のプラモデルでしかない。
それを節黒の天性『人形使い』で無理やり動かすのだ。
動力を考えなくて良い分、用途は多いが本人が飽きたらその場でゴミが不法投棄される心配だけが懸念だった。
他人事のように言うが、夏目以上に問題児なのである。
あとその場所農園の敷地内だからな、あとで撤去しとけよ?
「それはともかく、俺は転送装置に頼らず現地を歩いてその土地の人に話を聞きながら料理を振る舞いたいんだよ。だから節黒に頼んだんだ。夏目には既にいろいろ貰っちゃってるしな」
「むぅ、そう言う事なら仕方ないか。今回は節黒に譲るがいつでも俺を頼ってくれて良いからな?」
そう言って夏目は一人転送装置でどこかへ飛んだ。
最初っからその装置で来いや、とは言えなかった。
突然来られても困るからだ。
「私は阿久津君と同じでオリジナル料理の制作とそれを広めることね!」
ふんす、と興奮する坂下さん。その中でも不味いとされた龍果は未知の素材だと興味を謗られている。
これは“大豆”以上に余す事なく絞られそうだと心の中で合唱した。
「そう言うわけで、アリエル。私と提携しない?」
「あたしが恵と?」
「そうよ、私が二次産業を賄う事で一次産業が賑わうの。これ、生産の方はどれくらい増やせるの?」
「まぁな、どんな天候でも育つし逃走させなきゃ数は確保できると思うぞ?」
言いあぐねてるアリエルに変わり、実際に肉体労働を実行してるロギンが答えた。
龍果、逃走もするんだ。
意思を持つ植物なんだってのは調理してて気づいたが。
「じゃあまずは1000個用意できる?」
「こりゃまた随分な要求数だ。必要な部位はあるかい?」
「食べられるのは実以外もあるの?」
「実をもぐとそれ以外が枯れるんだよ。使えるんならそれ以外も使ってくれたら俺たちはゴミが減って嬉しい」
「でもそのゴミは次の龍果の肥料になるんじゃないの?」
「いや、あいつら実を地面に植えると勝手に増えるから」
「なんてお手軽な食材なのかしら……」
「一般人が扱わないのはこいつがドラゴンの系譜だからだな。実質ドラゴンロードのアリエルが従えてるから従順なだけでそれ以外の野生種は反撃してくるからな?」
「割と自由な食材なのね。でもだからこそ……」
「ああ、うち以外の取引先はないと思って良いぜ? 普通は飼い慣らそうと思わないもんを飼い慣らしてるからな」
「交渉成立ね。こっちの報酬は龍果の知名度でどうかしら」
「知名度? そんなもんで俺たちの腹が膨れると思ってんのか?」
坂下さんの提案にロギンが不服そうに反論する。
「まぁ、普通はどう思うわよね。冴島君、ヘルプお願いして良い?」
「了解」
ここで商人の薫の出番だ。
最初はこのまま売れない植物を育て続けることのデメリットをこれでもかと列挙させてロギンを黙らせ、次に坂下さんが方々で加工品の売り込みをする事で農園の名前とその食材があの味かと想起させる事で周囲からチヤホヤされる。
知名度というのは良い点もあるが悪い点もあるもんだが、薫は良い点だけを述べた。
褒めて褒めて褒めちぎったのである。
「知名度、やばいな。そんなにウチが優遇されるってんならまぁ、受けても良いと思うがどうだボス?」
「それだけじゃ弱いわね。恵の加工品をうちでもいくつか受け持てる権利ももらうわ!」
アリエルはそれくらい当然の権利よね? と延べる。
薫はアリエルが従うならそれで良し、こうくることも見据えてか嬉しそうな顔をする。
「成長したね、アリエル。そうだ、生産者はそれくらい主張して良い」
「な、騙したのかよ!」
「騙してなんかないわよ、こいつはこういう奴なの。こいつに泣かされた商人が今まで何人居ると思う? 両手で数え切れないくらいの商人がこいつの舌先三寸に潰されてるわ」
「人聞きの悪いことを言わないでくれる? あれが商売のやり方が悪質だったから正義の心で教えを示したんじゃないか」
「それで何店出入り禁止にされた事か……」
「絶対ブラックリスト作られてるわよね……」
「まぁまぁ、冴島さんですから……」
擁護してるようでしてない、そんな空気が俺たちの間に流れた。それでも坂下さんとアリエルの農園は上手い事手を組むことができた。
以降薫はアリエルの農園では手を出しちゃいけないやべー奴として扱われることになった。
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