錬金先輩のバズレシピ!

双葉 鳴

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錬金先輩のバズレシピXX(異物混入√)

呪い(槍込聖/アキカゼ)

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 皆が起き上がったのを確認して、僕は手を叩く。


「みんなおはよー。とりあえず状況報告も兼ねて発表もあるからみんな腰掛けて」

「さっきのお酒はなんだったんですか? イタタタ、まだ頭痛が」


 ハゲタカ爺さんが、頭痛程度で収めてることに驚きを隠せいない。


「俺は知ってるぜ、あの酒、実はルリーエさんの呪いを弱めるための劇薬だったらしいんだ」

「つまり?」

「一般人向けじゃない」

「なるほどな。俺は酒に強い方だが、飲んだ後の記憶がなくなったのは初めてだ」


 飯句君がエルフの磯貝くんに呼びかけている。
 なんだかんだ、君ら仲良いよね。

 すぐに仲間を見捨てるけど、わりと年の近さが不信感の垣根を取り払ってるのかもしれない。友情だねぇ。

 問題は並行世界の秋生の方か。
 自分が生きてることを酷く不満そうにしている。
 この死にたがりめ。僕、そういう子、嫌いだな。


「アキカゼさん、不調は頭痛だけ?」

「そうだねぇ、あとはそうだな。少しだけ昔のことを思い出せた気がする。私は確か、ああそうだった。私はジョブについていたことを思い出した。ライダーテイマーというジョブだ。聞き覚えはあるかな?」


 ライダーでテイマー?
 そんなのは聞いたことがない。


「俺の世界はスキルで職業決める人多いけど、そういう人は聞いたことないな」

「俺も知らないな。俺の行き来できる世界は全部で8つくらいあるけど、その全てと照らし合わせても聞いたこともないや。つって、全てのジョブに精通してるわけでもねーけど」

「ちなみにどんなモンスターをテイムしてるんですか?」

「そうだね、ボール。ヘビー。ピョン吉。山田家。九ちゃん……どうしよう、名前だけで生態系が見えてこない。これは過去の私のネーミングセンスの問題だな」


 壊滅的なネーミングセンスってことだけはよくわかった。
 しかしそれに反応する男が一人。


「ピョン吉!? 俺のペットもピョン吉っていうんですよ。奇遇ですねぇ」


 幸運男、飯句くんがアキカゼさんへ詰め寄った。
 アキカゼさんに気に入られて、間接的にルリーエに取り入ろうという算段だろう。

 今はもう魚の姿に戻ってしまったので、本来の姿を知ってるのはアキカゼさんと飯句くんだけとなっている。

 そういう意味では同好の士というやつかな?
 意味は違ってくるけど、まぁ変わり者という意味では同じだろう。


「そういえば、侍らせてたうさぎさん達は?」

「あの酒の力でロストしたな。あの子達はほら、霊獣で実態ないから。餌は宝箱だしな。俺にかかる即死攻撃クラスの状態異常を肩代わりしてくれる効果もある」

「へぇ、ただ可愛いだけじゃないんですね」

「可愛くて強い相棒! それがピョン吉、ピョン次、ピョン美、ピョン子、ピョン奈、ピョン太だぜ! あとステータスを一匹単位で20%アップしてくれる!」

「つまり今の君は……」

「弱体化してるってことか」

『6匹で20%ってことは120%ってことですから……半減ですね』

「くそ、あんな劇薬だって知ってたら飲まなかったのに!」

『あの、元気出してください』

「ありがとう、ルリーエちゃん! きっと君も元の姿に戻して見せるから!」


 早速目標が入れ替わってるじゃん。
 まぁ、オリハルコン入手よりは長く居てくれそうだからいいけど。


「さて、今回みんなは張らなくてもいい場所で命を張ったわけだけど。ここで僕から種明かし。あれは確かに飯句くんがいうように劇薬だが、それなりの最高到達点である薬品でもある。エリクサー、その名前に聞き覚えは?」

「伝説上の秘薬ですよね、飲めば死者すら復活するとか」

「そうだね、今回じゃそれを状態異常に特化した薬、劣化エリクサーとして名乗るけど、これは僕の世界でモンスターに取り込まれた人類、半分モンスター溶かした人類を元の人類に戻すために投与された秘薬である」

『僕、ほんの一瞬ですけど元の姿に戻れたんですよ』


 アキカゼさんが改めてん僕の薬品に興味を抱く。
 この世界からの脱却の前に、彼の優先すべき順位はこのルリーエ絡み。

 この姿のままでの移動は困難。
 彼は彼女を庇うだろうが、その他大勢は化け物として石を投げるだろう。
 だったら解決する順位は元の肉体に戻すことを優先するはずだ。


「俺もその時ルリーエちゃんの姿見てさ。スッゲー可愛くて、速攻告った」

「おやおや」

『あの、僕なんて恐れ多いというか、何にもできないですし』


 その態度からごめんなさいされたことは明らか。
 それでも諦めが悪く付き纏ってるのは見ていて滑稽だな。


「とはいえ、この薬品を作り出すためにはモンスターの素体が必要だ。僕の世界でのモンスターの侵食と、このアビスでの呪いはベクトルが違うようだ。僕が君たちに述べたいことは、戦力。この地域に生息するモンスターを提供すれば、ここで僕が錬金術を駆使して彼女のための特効薬を作る、そんな提案だ。ひとまずはこんな方策でまとまってみてはどうだろう? いまだにここがどこで、帰るための手段を持ち合わせることのない僕たちだ。それぞれの事情もわかる。けど、今は少しでも情報が欲しいところじゃないかな?」


 僕の提案に、アキカゼ&ルリーエタッグが願ってもないことだと名乗り出す。


「私としてはそうしていただけるとありがたい。今回思い出したテイマーの記憶で、なんとかしてモンスターの素体を提供するよ」

『が、頑張ります!』


 続いて、並行世界の秋生は。


「僕も、オリハルコンを入手するまでは帰れませんから。そのついでだったらいくらでも情報を出しますよ。ここで実際死にかけてたので、戦力ではあまりお役に立てないかもです」


 なんとも消極的だ。まぁ、殺されかけたことを加味しても強く出れないのは仕方ないか。


「俺はもちろん協力するぜ! 章も協力するよな?」

「俺を巻き込むんじゃねぇよ。ま、この転移先を売り込むためにもちょい差は必要だから手は貸すがな、蛮勇は一番嫌いな言葉だ。あとリコさん、モンスターは死体である必要はあるか?」

「死んでた方が都合はいいが、生捕りなんてできるのかい?」

「忘れたかよ、俺は転移使いだぜ? 指定した座標への転移は得意分野なんだわ!」


 そりゃ心強い。


「いやぁ、研究対象が増えるのはいつだってワクワクするねぇ」

『先輩嬉しそうですね』

「そりゃ嬉しいよ。僕が現物を取りに行かなくていいってことはだよ? その分を研究に打ち込めるってことなんだから。何が面倒って素材を自給自足しに行くことだからね。あ、ついでに珍しい鉱石とかあったら持ってきて。僕こう見えて鍛治も齧ってるからね!」


 親父ギャグを披露するが、悲しいことに誰もツッコミを入れてくれない。

 ちょっとだけ悲しくなりながら、モンスターハンター達を見送った。


 ────────────────────────


 <side:アキカゼ・ハヤテ>


「じゃあ俺たちこっちだから」


 そう言って、飯句くんと磯貝くんのタッグと別れる。
 彼らは仲悪そうにしながらも、何かと息が合うので即席チームであっても問題ないようだった。

 私たちのチームは私、ルリーエに秋生くんが参加している。
 ここ、アビスの生態系を学びながら新しく思い出したジョブ『テイマー/ライダー』の威力調査も行うのだ。


「アキカゼさん、くれぐれも無理はしないように」

「心得ているよ。それに、私は空を飛べる。隠密行動は得意だ」

「話聞いてました? 下に降りる分には呪いは起きませんが、上に登ろうとする者に呪いは降りかかると」


 そうだったっけ?


『ハヤテさんは魔導書の使い手ですから、大丈夫ですよ!』


 ルリーエにニコッと微笑まれて、なんの根拠もないが元気をもらう。


「ですが、それでも呪いは得体が知れません。今はルリーエさん以外が呪いにかかるのは得策ではありません。空中浮遊は厳禁でお願いします」

「それもそうだね。リコ君の秘薬とやらも研究段階だ。それを行うのはそれが完成してからか」

「完成してもダメですよ? ルリーエさんが悲しみます」


 強く突っ込まれて、思いとどまる。
 私の強みが封印された形だ。
 なんてこった。


『その分、僕がサポートしますから! シュッシュッシューッ!』


 中腰で槍を構えるルリーエはなんとも勇ましい。
 彼女ですらそんなふうに憤るのだ。
 私ばかりが落ち込んでもいられないか。
 接近戦は切り捨て、仲間を頼るとしよう。


「接敵反応・赤……あぁ、あいつは!」


 現れたのは大口を開けた巨大な魚。
 ルリーエに随分と似てる。あれが呪いの大元か?

 秋生君の反応から察するに、あれが仲間の仇か。


「逃げましょう。あれは無理です」

「だけどいつまでも逃げてばかりもいられない。あれほどの巨体だ。一度目をつけられたら、どこまでも追いかけてくるぞ?」

「だからやり過ごそうというんです」


 消極的、というよりはすっかり震え上がってしまった彼の前に立ち、後ろに隠す。


「私がやろう」

「そんな! これ以上僕に仲間を失う場面を見せつけるというんですか?」

「負けはしないさ」

「でも!」

「不思議と、あの図体を前にしても勝算浮かぶ程度に、私の記憶は大物とやり合ったような過去があるらしい」


 だから、その不安を取り除くように、名を呼んだ。


「召喚、山田家!」


 空に突如として表れた召喚陣。
 この地域一帯を覆い隠すほどの巨大さは、巨大魚といい勝負をしている。
 見上げるほどの巨体。


「ははは、これはこれは……」


 乾いた喉に唾を送り込み、乾いた笑いを浮かべる。
 私の召喚に馳せ参じたのは、化け物以上の化け物、ヤマタノオロチだったのだ。

 なんで、過去の私はこれに山田家なんてお茶目な名前をつけたんだか。
 だが、これは勝てるぞ。
 そう予感した。
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