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第15話

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 カチャン。
 ごくんごくん。
 アーバンさんが、紅茶を飲み干す。
 カチャン。
 ティーカップをソーサラーに置くと同時に口を開いた。

 「イマールさん。そろそろ本当の事を話して頂けませんか? 自ら語れば情状酌量の余地もある。それぐらいご存じでしょう。逃げ切れるとも?」
 「何から逃げるとおっしゃっているのやら」

 もちろんそれは、毒殺未遂事件のでっち上げではなく、横流しなどの事からだ。
 たぶん、三人の令嬢家はポールアード伯爵にいつの間にか協力させられていた。気が付いたら共犯だったのだろう。力の差もあり言いなりになるしかない。
 それと同じようにいや、強制的にクレット家も貶めようとした。

 「では、問いたい。三人の令嬢は医療室に運んだのにリサ嬢だけそうではなかった。なぜです?」

 それは、父さんに書類にサインをさせる為だ。その為に別に隔離した。

 「申し訳ありません。三人のご令嬢が倒れ、あたふたしている時でしたので彼女は別室になってしまいました。別に他の意味はございません」
 「では、姉さんは令嬢達が倒れ、医療室に運んでいる最中に倒れたと?」
 「はい。左様でございます」
 「それはおかしいですね、令嬢の一人が自分達と一緒に倒れたと証言されたのですが?」

 アーバンさんが、ぎろりとイマールを睨んだ。

 「それは勘違いではありませんか?」
 「いいえ。その令嬢は毒を口にしておりません。おっと、毒は入っておりませんでしたね。二杯目のお茶は口にせず倒れた真似をした。なので、リサ嬢も毒で倒れたと思っておりましたよ」

 アーバンさんが言うと、イマールの顔から笑みが消えた。無表情だ。

 「そうですか。それは、混乱なさった事でしょう」

 何が混乱なさっただ。

 「リサ様を別室に運んだのは、だんな様の指示です」
 「それはなぜ?」

 ポールアード伯爵の指示なのは間違いないだろう。でもその理由は、意地悪の為ではない。

 「たぶんですが……」
 「元々、そう決まっていたから。ですよね?」
 「決まっていたなど……」
 「覚えていないのですか? あなたが証言したではありませんか。姉さんに眠り薬を飲ませたと」

 僕らは、見つめ合う。いや睨み合うと言った方がいいかもしれない。
 同時に倒れたのならお茶に仕込むしかないのだから。

 「ここに来る前にクレアさんにももう一度話を聞いて来たのですが、お茶の用意をしたのはあなただそうですね。それに、彼女がいる間ポールアード伯爵はお茶会に現れなかったそうですよ。もちろんあなたも交代するまで現れなかった」

 クレアの話によれば、姉さんが来たのは三人の令嬢が集まってから十分程経ってから。話そうと思えば話す時間はあった。イマールは、彼女達に毒など入っていないと告げる気などなかったのだ。

 「………」
 「これでもまだ、話さないおつもりですか? もうこちらは真相を掴んでいるのですが?」
 「そうですか。では、お聞かせ願いますか?」

 真相それは――。
 最初から毒など使う予定などなかった。そして、姉さんを眠らせ父さんを屋敷におびき寄せ書類にサインさせること!

 予め三人の令嬢には、一杯目には解毒剤、二杯目に毒を入れると言ってそう思い込ませた。クレアには、一つだけ違うティーセットは姉さん用だと伝え、睡眠薬を塗ってあったティーカップを用意しておく。そうとは知らず、姉さんはお茶を口にした。一杯ぐらいは飲まないと思っていたはずだ。
 二杯目をイマールが入れたのにも意味があった。
 目くばせなどをして、令嬢達に毒入りだと思わせていた二杯目を飲ませる為だ。もちろんそのお茶には毒など入ってはいない。ただ、ちょっとピリッとする様なお茶だった。
 毒が入っていると思っている令嬢は、それは毒のせいだと思いパニックになり倒れたのだ。そうこれこそが、イマールの思惑。毒などを使わずとも彼女達の気分を悪くする手だ。
 普段毒などとは無縁な令嬢達は、いとも簡単にイマールの作戦通り倒れてくれた。そして、姉さんもまた眠気が襲ってきた所に彼女達が倒れ、意識を保てなくなり倒れた。
 すべて作戦通り。ここまでは。

 失敗したのは、僕が戻って来た事だ。しかも警察を引き連れて。
 僕が警察に駆け込む事はないと踏んでいたはずだ。だからこそ冒険者を使って僕を閉じ込める作戦を練った。ギルドマスターがいない日を狙い、お茶会を開催したのもそのためだ。
 予測通り、警察ではなく冒険者ギルドへ助けを求めに行ってしまった。
 そして、警察に子爵家達が言いに行く事はないとも踏んでいたに違いない。言いに行けば、自分たちがした事を告白しなくてはいけないからだ。
 それぐらいなら令嬢をお茶会によこさなければいい。
 カデシナ嬢の父親がそうしようとした。だが、カデシナ嬢はお茶会へ行ってしまったので、姉さんの婚約者カードン様に泣きついた。
 レドソン侯爵家も独自に色々調べていたに違いない。だが、ポールアード伯爵家から毒殺未遂があったと被害届が出る事はないだろうと、姉さんが嫌疑を掛けられ囚われていると警察に届け出を出した。
 しかし、クレット家からも届け出がない以上、その時はどうする事もできなかった。
 そこに、僕が嵌められそれにポールアード伯爵家が絡んでいると知り、保安部冒険室と一緒に乗り込んで来たのだ。僕も彼らは、リダルさんの部下だと思ったように、ポールアード伯爵もそう思った。何せリダルさんは室長だったのだから。

 運がいいのか悪いのか、ポールアード伯爵が僕を罠に嵌めた事をマコトのオーブで確証を得た。それは、この場ではそれ以外の事件を彼に問えない事を意味する。イマールは、それを知っていた。だからマコトのオーブを使って毒殺未遂のでっち上げを調べる僕らを誘導したのだ。自分たちがシロになるように。
 二十四時間断てばマコトのオーブを使っての調書はできない。出来るだけ時間を稼ぎ、ポールアード伯爵が僕の件でだけで済むようにしようとした。
 だが僕らが、マコトのオーブを使って調べる事をやめた事により、明確にお茶会の事を知ってしまい、シロがグレーに変わってしまう。
 なら話を長引かせ、色んなことを曖昧にしようとした。それで、僕らともう一度話す事にしたのだろう。

 「今回は、色々勉強になりましたよ。マコトのオーブを使って確証を得たとしても、それが真実とは限らない。言われていた事でしたが、目の当たりにして納得しました。マコトのオーブは、あくまでも調書を取る為の道具の一つだと」
 「そうですか」

 アーバンさんの言葉にイマールは静かに頷いた。
 彼は、それを上手く活用していたのだから。
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