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第二章 孤高のヤンキー先輩はチョロすぎる
第28話 たぶんこうして自覚する恋心もある
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ウチは、一瞬息を飲んだ。
基本的にいつも、なんとなく優しげな顔をしている楓が、なんだかとても不機嫌そうにしていたからだ。
「お、怒っているって……なぜだ」
「さっきの人達、どさくさに紛れて先輩の胸を触ろうとしてました」
「え」
そうなのか?
全然気付かなかった。ということはつまり、アイツ等の手を払いのけてくれたのは、ウチを守ってくれた……ということなのか?
「というかそもそも、なんで断らなかったんです?」
「それは……だって、ああいう経験は初めてだったから」
ウチは、戸惑いながらも答える。
ナンパというのはつまり、相手がこちらに気があるから行うもので……ウチは、他人から向けられる好意というものに、慣れていない。
だからこれは、仕方がないことだ。
誰だって、好意を向けてくれた人のことは気になってしまうものだ。多少無茶なことを言われても、すぐには断れないものだ。
だから、これに関しては仕方ない。そう思っていたが……次に彼の口から出た言葉に、図らずも押し黙ってしまった。
「先輩は、好きだって概念を勘違いしていませんか?」
それは、今までのように怒気を孕んだ言葉ではない。
だけど、今までの楓の言葉よりも、強烈に胸の奥に突き刺さった。
「かくいう僕も、恋愛とかしたことないし、親友と呼べる人ができたこともないけど……でも、誰かのことを「好きだな」って思う瞬間は、今までたくさんありました。困っている誰かを助ける人を見たとき、人知れず努力をしている人を見たとき、陰口をたたいている人に真正面から注意できる人を見たとき。いろいろありますけど、決まっていつも、“誰かの幸せのために動ける人”が、僕は好きです」
これじゃあ、僕の持論でしかないのかもしれませんが。と、苦笑しつつ楓は付け足した。
「彼等にももちろん、上っ面の気持ちはあったんだと思いますが、基本的には邪な思いが先行していたと思うんです。誰からどう見られるのか、それに慣れていないのは僕も同じですけど、だからこそ……自分の思いを大切にしてあげてください」
ウチは、しばらく楓の放った言葉の意味を考えていた。
やがて、ぽつりと呟くように、ウチは言った。
「お前も、自分の気持ちを大切にしたから、さっき来てくれたのか?」
「そういうことになりますね。ああいうのには慣れてないし、僕には似合わないけど。でも、先輩に悪さするヤツがいると思ったら、いてもたってもいられなくて」
「っ!」
その言葉に、ウチは息を飲む。
屈託のない笑みを浮かべる楓。嘘を言っているようには見えない。
南嶋柚香という1人の人間が好きだから、そのために動いただけだと、彼はそう言った。
だから、彼女に対して本気で怒った。
……ああ。
そのとき、妙に腑に落ちるものがあった。
この生意気な後輩に、なにを求めていたのか。
それはきっと、ウチのことを見て欲しかったのだ。
まともに仲良くしてくれた人が今までいなかった中で、半ば脅しのような状況から始まった楓との関係は、いつしか当たり前のものになっていた気がする。
だから、寂しかった。
粕壁燐斗のために見繕った衣装だけど、楓の口から「可愛い、似合っている」と言ってくれないことが。
安心できた。
彼が私のことを、ちゃんと見てくれていたと知ったから。
ああ、つくづく思う。
「チョロいな、ウチは」
「ほんとですよ」
呆れたように、ウチの独り言に同意する楓。
思わず可笑しくなって、ウチはははっと小さく含み笑いをする。
本当にチョロい。
何も気付いていない鈍感で、生意気で、こんなにも優しいヤツを好きになってしまうなんて。
ウチは、本当にチョロい。
基本的にいつも、なんとなく優しげな顔をしている楓が、なんだかとても不機嫌そうにしていたからだ。
「お、怒っているって……なぜだ」
「さっきの人達、どさくさに紛れて先輩の胸を触ろうとしてました」
「え」
そうなのか?
全然気付かなかった。ということはつまり、アイツ等の手を払いのけてくれたのは、ウチを守ってくれた……ということなのか?
「というかそもそも、なんで断らなかったんです?」
「それは……だって、ああいう経験は初めてだったから」
ウチは、戸惑いながらも答える。
ナンパというのはつまり、相手がこちらに気があるから行うもので……ウチは、他人から向けられる好意というものに、慣れていない。
だからこれは、仕方がないことだ。
誰だって、好意を向けてくれた人のことは気になってしまうものだ。多少無茶なことを言われても、すぐには断れないものだ。
だから、これに関しては仕方ない。そう思っていたが……次に彼の口から出た言葉に、図らずも押し黙ってしまった。
「先輩は、好きだって概念を勘違いしていませんか?」
それは、今までのように怒気を孕んだ言葉ではない。
だけど、今までの楓の言葉よりも、強烈に胸の奥に突き刺さった。
「かくいう僕も、恋愛とかしたことないし、親友と呼べる人ができたこともないけど……でも、誰かのことを「好きだな」って思う瞬間は、今までたくさんありました。困っている誰かを助ける人を見たとき、人知れず努力をしている人を見たとき、陰口をたたいている人に真正面から注意できる人を見たとき。いろいろありますけど、決まっていつも、“誰かの幸せのために動ける人”が、僕は好きです」
これじゃあ、僕の持論でしかないのかもしれませんが。と、苦笑しつつ楓は付け足した。
「彼等にももちろん、上っ面の気持ちはあったんだと思いますが、基本的には邪な思いが先行していたと思うんです。誰からどう見られるのか、それに慣れていないのは僕も同じですけど、だからこそ……自分の思いを大切にしてあげてください」
ウチは、しばらく楓の放った言葉の意味を考えていた。
やがて、ぽつりと呟くように、ウチは言った。
「お前も、自分の気持ちを大切にしたから、さっき来てくれたのか?」
「そういうことになりますね。ああいうのには慣れてないし、僕には似合わないけど。でも、先輩に悪さするヤツがいると思ったら、いてもたってもいられなくて」
「っ!」
その言葉に、ウチは息を飲む。
屈託のない笑みを浮かべる楓。嘘を言っているようには見えない。
南嶋柚香という1人の人間が好きだから、そのために動いただけだと、彼はそう言った。
だから、彼女に対して本気で怒った。
……ああ。
そのとき、妙に腑に落ちるものがあった。
この生意気な後輩に、なにを求めていたのか。
それはきっと、ウチのことを見て欲しかったのだ。
まともに仲良くしてくれた人が今までいなかった中で、半ば脅しのような状況から始まった楓との関係は、いつしか当たり前のものになっていた気がする。
だから、寂しかった。
粕壁燐斗のために見繕った衣装だけど、楓の口から「可愛い、似合っている」と言ってくれないことが。
安心できた。
彼が私のことを、ちゃんと見てくれていたと知ったから。
ああ、つくづく思う。
「チョロいな、ウチは」
「ほんとですよ」
呆れたように、ウチの独り言に同意する楓。
思わず可笑しくなって、ウチはははっと小さく含み笑いをする。
本当にチョロい。
何も気付いていない鈍感で、生意気で、こんなにも優しいヤツを好きになってしまうなんて。
ウチは、本当にチョロい。
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