22 / 84
第一章 《最下層追放編》
第二十二話 クレアの力と謎
しおりを挟む
「エランくん!」
鈴なりのような声がした。
死を目前にして張り詰めた空気の中で、その声はまるで静かな水面に広がる波紋のように研ぎ澄まされていて――
刹那、硬い何かが別の何かに当たって砕けるような音が、断続的に響いた。
意識を瞬時に刈り取る痛みと衝撃を覚悟していたのに、一向にそれがやって来ない。
不思議に思い、おそるおそる目を開く。
「こ、これは……?」
思わず目を白黒させる。
僕も含めた地面に倒れている人達を丸ごと覆う薄黄色の光のドームが、直上に張り巡らされているではないか。
降ってきたジャイアント・ゴーレムの残骸は、そのことごとくが光のドームによって防がれ、ドームの傾斜によって端の方まで滑り落ちていた。
「助かった……のか?」
でも、一体誰の仕業なんだ……
頭の上に「?」マークが浮かんだそのとき。
「おーい、大丈夫? エランくん!」
『ももきゅ!』
パタパタと足音を立てて、クレアととーめちゃんが駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫……ちょっと血を吐いて意識がもうろうとしてるだけ」
「それ大丈夫とは言わないと思うけど!?」
目を見開いてツッコミを入れてくるクレアに、軽く微笑み返す。
「誰かが助けてくれたみたいで、助かっ――」
僕は、言いかけていた言葉を飲み込んだ。
僕の目が、信じられないものを捉えていたからだ。
「どうしたの?」
「いや……お前」
きょとんと首を傾げるクレアの手を見る。
細い指先から、まるで煙が立ち上るように薄黄色の靄が出ており、その靄は上に張られたドームへと続いている。
まるで、クレアが光のドームを生み出したかのような構図だ。
「もしかして、このドームを出したのって、クレア?」
「ん? たぶんそう」
「たぶんて……何その曖昧な答えは」
「だって、私もよくわかんないんだもん。皆がピンチで、「助けなきゃ」って思ったら、普通に出た」
クレアは、とくに不思議がる様子もなく平然と答える。
「えぇ……そんなんアリ?」
「まあ、結果オーライってことで」
クレアは片目を閉じてサムズアップしてみせる。
それに呼応するかのようにして、指先から立ち上る黄色い靄が消え、光のドームも消滅した。
後にはただ、戦闘の余韻と静けさだけが残る。
(今の、何のスキルだ……?)
たった今目の前で起きた現象が頭から離れない。
膝をついた体勢のまま、疲労と貧血でふわふわする頭で思案する。
(《空気障壁》? ……いや、違う。あんな広範囲に展開できるほど、優れたスキルじゃない。じゃあ、光魔法の《光膜壁》か? あれなら、広範囲の防御も可能だ……でも、《空気障壁》よりも脆かったはず。あんなに大量の残骸を、受け止められる強度はない)
僕の知っている防御系スキルには、さっきの光のドームは当てはまらない。
自分の知らない、別のスキルなのだろうか?
(仕方ない。これ以上スキルを使うのは、体力的な面でキツいんだけど……)
スキル《サーチ》を起動する。
とたん、咳き込んで血を吐き出すが、今だけ我慢だ。
防御力も高く、防御範囲も広いスキルだった。今後見つけたら獲っておきたい。
スキル反動臨界症のことを無視してでも、このスキルの詳細を知っておきたかった。
(さっきのスキルは……)
《サーチ》でクレアのステータスを確認する。
と、その瞬間。
思わず「は?」と声を上げてしまった。
僕の瞼の裏には、とんでもないものが映し出されていた。
◆◆◆◆◆◆
クレア(仮称)
Lv 0
HP ―
MP ―
STR ―
DEF ―
DEX ―
AGI ―
LUK ―
スキル(通常) ―
スキル(魔法) ―
ユニークスキル ―
アイテム 《衣装(女の子用)》×1
個人ランク ―
所属 ―
◆◆◆◆◆◆
「は……? なに、これ……」
鈴なりのような声がした。
死を目前にして張り詰めた空気の中で、その声はまるで静かな水面に広がる波紋のように研ぎ澄まされていて――
刹那、硬い何かが別の何かに当たって砕けるような音が、断続的に響いた。
意識を瞬時に刈り取る痛みと衝撃を覚悟していたのに、一向にそれがやって来ない。
不思議に思い、おそるおそる目を開く。
「こ、これは……?」
思わず目を白黒させる。
僕も含めた地面に倒れている人達を丸ごと覆う薄黄色の光のドームが、直上に張り巡らされているではないか。
降ってきたジャイアント・ゴーレムの残骸は、そのことごとくが光のドームによって防がれ、ドームの傾斜によって端の方まで滑り落ちていた。
「助かった……のか?」
でも、一体誰の仕業なんだ……
頭の上に「?」マークが浮かんだそのとき。
「おーい、大丈夫? エランくん!」
『ももきゅ!』
パタパタと足音を立てて、クレアととーめちゃんが駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫……ちょっと血を吐いて意識がもうろうとしてるだけ」
「それ大丈夫とは言わないと思うけど!?」
目を見開いてツッコミを入れてくるクレアに、軽く微笑み返す。
「誰かが助けてくれたみたいで、助かっ――」
僕は、言いかけていた言葉を飲み込んだ。
僕の目が、信じられないものを捉えていたからだ。
「どうしたの?」
「いや……お前」
きょとんと首を傾げるクレアの手を見る。
細い指先から、まるで煙が立ち上るように薄黄色の靄が出ており、その靄は上に張られたドームへと続いている。
まるで、クレアが光のドームを生み出したかのような構図だ。
「もしかして、このドームを出したのって、クレア?」
「ん? たぶんそう」
「たぶんて……何その曖昧な答えは」
「だって、私もよくわかんないんだもん。皆がピンチで、「助けなきゃ」って思ったら、普通に出た」
クレアは、とくに不思議がる様子もなく平然と答える。
「えぇ……そんなんアリ?」
「まあ、結果オーライってことで」
クレアは片目を閉じてサムズアップしてみせる。
それに呼応するかのようにして、指先から立ち上る黄色い靄が消え、光のドームも消滅した。
後にはただ、戦闘の余韻と静けさだけが残る。
(今の、何のスキルだ……?)
たった今目の前で起きた現象が頭から離れない。
膝をついた体勢のまま、疲労と貧血でふわふわする頭で思案する。
(《空気障壁》? ……いや、違う。あんな広範囲に展開できるほど、優れたスキルじゃない。じゃあ、光魔法の《光膜壁》か? あれなら、広範囲の防御も可能だ……でも、《空気障壁》よりも脆かったはず。あんなに大量の残骸を、受け止められる強度はない)
僕の知っている防御系スキルには、さっきの光のドームは当てはまらない。
自分の知らない、別のスキルなのだろうか?
(仕方ない。これ以上スキルを使うのは、体力的な面でキツいんだけど……)
スキル《サーチ》を起動する。
とたん、咳き込んで血を吐き出すが、今だけ我慢だ。
防御力も高く、防御範囲も広いスキルだった。今後見つけたら獲っておきたい。
スキル反動臨界症のことを無視してでも、このスキルの詳細を知っておきたかった。
(さっきのスキルは……)
《サーチ》でクレアのステータスを確認する。
と、その瞬間。
思わず「は?」と声を上げてしまった。
僕の瞼の裏には、とんでもないものが映し出されていた。
◆◆◆◆◆◆
クレア(仮称)
Lv 0
HP ―
MP ―
STR ―
DEF ―
DEX ―
AGI ―
LUK ―
スキル(通常) ―
スキル(魔法) ―
ユニークスキル ―
アイテム 《衣装(女の子用)》×1
個人ランク ―
所属 ―
◆◆◆◆◆◆
「は……? なに、これ……」
31
あなたにおすすめの小説
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる