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第一章 《最下層追放編》
第二十三話 ヒーラーの少女
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どういうことなんだ、これは。
ステータスが、ほぼ全て ― の表示になっている。即ち、何も所持していない。もしくは……“エラー”を示しているのだ。
「お前は、一体……」
僕は、クレアを凝視する。
それを不思議に思ったのか、クレアは首を傾げた。
やっぱり、ちょっと変人なだけの、普通の女の子にしか見えない。
でも……お前は一体、何者なんだ?
その言葉が口を突いて出ようとしたそのとき。
「ありがとう……なんとお礼を言ったらいいか」
ふと後ろから声をかけられて、振り返る。
ゆるりと伸びた黒髪と紫色の瞳が特徴的な男が、そこに立っていた。
確かこの人は、リーダーと呼ばれていた人だ。
全身ボロボロで、衣服が血と泥で汚れている。
そんな状態で、彼の瞳は心配そうに僕を覗き込んでいた。
きっと、今の状態の彼をして心配になるほど、僕は酷い形をしているのだろう。
「いえ、お礼なら今言ってくれたんで、いいです」
はにかみつつ答える。
「それより、お仲間はちゃんと全員無事ですか?」
「あァ、お前のお陰でな」
片足を引きずりながら歩いてきたバールが、そう答えた。
「まさかホントに、誰一人死なせずあのバケモノに勝ちやがるたァ……見直したぜ、小僧よォ」
そう言って灰色の瞳を細め、無精髭をさすりながら豪快に笑う。
「はぁ、どうも」
「なんだァ、その謙虚な対応は。もっと胸を張れよ!」
バン!
勢いよく背中を叩かれて、危うく意識が飛びかける。
胸を張って喜べるだけの体力がもう無いのに、追い打ちをかけないでくれ。
そんな僕の気持ちを察したのか、リーダーが「バール、そのへんにしておくんだ」と苦笑交じりに止めてくれた。
「っと、自己紹介が遅れた。俺の名前は、カルム。大規模パーティ《テンペスト》のリーダーだ。情けない姿を見せた手前、そんなに自慢もできないけど……個人ランクは一応Sだよ」
「ランクS……」
凄い、初めて出会った。
個人ランクSなんて、何十万人といるダンジョン攻略挑戦者の中で三桁いるかいないかというレベル。紛れもなく強者の証だ。
「まあ、単騎でSSランクモンスターを撃退できる君に比べたら、こんな称号なんてただの紙切れと変わらないけど。ユニークスキルも持っていないしね」
「いえ、そんなことは……」
「なァ、あんたのランクは幾つなんだ? ッと、その前にあんたの名前を教えてやくれねェか」
不意にバールが口を挟む。
「名前はエランです。ランクは、今のモンスターを倒すまではAでした。つい一時間くらい前まではEでしたけど」
「えっ!? E!?」
「最低ランクじャねェか。一体一時間で何が」
「それは……」
口を開いたとき、不意に視界がぐらついた。
「ぐっ……」
頭を押さえて俯く。
それを見たカルムとバールは顔を見合わせる。それから、後ろを振り返って「ナナミ!」と叫んだ。
「はぁい」
柔らかい声色で誰かが返事をする。
足早に近づいてきたその人が、「お呼びですかなの?」とカルムに問いかける。
「ああ。彼を治してやってくれ、ナナミ」
「彼を……?」
ナナミと呼ばれた少女は、しゃがんで僕の顔を覗き込む。
同い年くらいの女の子だった。
ボブカットの白髪とアイスブルーの瞳が特徴的な、ほんわかとした雰囲気を持つ美少女を前にして、心臓が高鳴る。
「じっとしていてほしいの」
「は、はい……」
真っ白ですべすべした手が、僕の頬に触れる。
ドギマギしながらされるがままにしていると、不意にナナミが呟いた。
「スキル《回復》なの」
柔らかい唇からまろび出る言葉と共に、青白い光の玉が僕の周りに出現する。
すると、傷口がゆっくりと閉じていき、心なしか身体の怠さも消えていく感じがした。
――。
「これでもう大丈夫なの」
しばらくすると、とろんとした目を優しげに細め、ナナミはそっと手を離す。
傷口は嘘のように塞がっており、体調もまるで闘う前の状態のように良くなっていた。
「あ、ありがとうございました」
「お互い様なの」
ナナミは後ろに下がりながら、にっこりと微笑んでみせる。
綺麗な人だ。そう思い、思わず見とれてしまった。
――と。
ギギギギ。
突如、耳が引っ張られるような痛みが走る。
「イテテ!」
反射的に振り返ると、クレアがジト目で睨んでいた。
「な、なに。どうしたの」
「別に」
ぷくっと頬を膨らましながら、そっぽを向く。
「?」
不思議に思う僕から視線を逸らし、「鼻の下伸ばしちゃって……」などとブツブツ呟いている。
「それよりも……話の続きをしようか」
カルムはわざとらしく咳払いをしながら、言ってくる。
「そ、そうですね」
僕は、とつとつと語り出した。
どうやって、ランクEからAまで駆け上がってきたのか。そもそもどうして、最下層にランクEのまま放り込まれたのかを。
まあ、クレアが聞いている前で「仲間に裏切られた」なんて話をするの、少し情けなくも思うけど、彼女なら知ったとしてもバカにしないだろう。
この性格なら、変に気を遣ってくることもあるまい。
ステータスが、ほぼ全て ― の表示になっている。即ち、何も所持していない。もしくは……“エラー”を示しているのだ。
「お前は、一体……」
僕は、クレアを凝視する。
それを不思議に思ったのか、クレアは首を傾げた。
やっぱり、ちょっと変人なだけの、普通の女の子にしか見えない。
でも……お前は一体、何者なんだ?
その言葉が口を突いて出ようとしたそのとき。
「ありがとう……なんとお礼を言ったらいいか」
ふと後ろから声をかけられて、振り返る。
ゆるりと伸びた黒髪と紫色の瞳が特徴的な男が、そこに立っていた。
確かこの人は、リーダーと呼ばれていた人だ。
全身ボロボロで、衣服が血と泥で汚れている。
そんな状態で、彼の瞳は心配そうに僕を覗き込んでいた。
きっと、今の状態の彼をして心配になるほど、僕は酷い形をしているのだろう。
「いえ、お礼なら今言ってくれたんで、いいです」
はにかみつつ答える。
「それより、お仲間はちゃんと全員無事ですか?」
「あァ、お前のお陰でな」
片足を引きずりながら歩いてきたバールが、そう答えた。
「まさかホントに、誰一人死なせずあのバケモノに勝ちやがるたァ……見直したぜ、小僧よォ」
そう言って灰色の瞳を細め、無精髭をさすりながら豪快に笑う。
「はぁ、どうも」
「なんだァ、その謙虚な対応は。もっと胸を張れよ!」
バン!
勢いよく背中を叩かれて、危うく意識が飛びかける。
胸を張って喜べるだけの体力がもう無いのに、追い打ちをかけないでくれ。
そんな僕の気持ちを察したのか、リーダーが「バール、そのへんにしておくんだ」と苦笑交じりに止めてくれた。
「っと、自己紹介が遅れた。俺の名前は、カルム。大規模パーティ《テンペスト》のリーダーだ。情けない姿を見せた手前、そんなに自慢もできないけど……個人ランクは一応Sだよ」
「ランクS……」
凄い、初めて出会った。
個人ランクSなんて、何十万人といるダンジョン攻略挑戦者の中で三桁いるかいないかというレベル。紛れもなく強者の証だ。
「まあ、単騎でSSランクモンスターを撃退できる君に比べたら、こんな称号なんてただの紙切れと変わらないけど。ユニークスキルも持っていないしね」
「いえ、そんなことは……」
「なァ、あんたのランクは幾つなんだ? ッと、その前にあんたの名前を教えてやくれねェか」
不意にバールが口を挟む。
「名前はエランです。ランクは、今のモンスターを倒すまではAでした。つい一時間くらい前まではEでしたけど」
「えっ!? E!?」
「最低ランクじャねェか。一体一時間で何が」
「それは……」
口を開いたとき、不意に視界がぐらついた。
「ぐっ……」
頭を押さえて俯く。
それを見たカルムとバールは顔を見合わせる。それから、後ろを振り返って「ナナミ!」と叫んだ。
「はぁい」
柔らかい声色で誰かが返事をする。
足早に近づいてきたその人が、「お呼びですかなの?」とカルムに問いかける。
「ああ。彼を治してやってくれ、ナナミ」
「彼を……?」
ナナミと呼ばれた少女は、しゃがんで僕の顔を覗き込む。
同い年くらいの女の子だった。
ボブカットの白髪とアイスブルーの瞳が特徴的な、ほんわかとした雰囲気を持つ美少女を前にして、心臓が高鳴る。
「じっとしていてほしいの」
「は、はい……」
真っ白ですべすべした手が、僕の頬に触れる。
ドギマギしながらされるがままにしていると、不意にナナミが呟いた。
「スキル《回復》なの」
柔らかい唇からまろび出る言葉と共に、青白い光の玉が僕の周りに出現する。
すると、傷口がゆっくりと閉じていき、心なしか身体の怠さも消えていく感じがした。
――。
「これでもう大丈夫なの」
しばらくすると、とろんとした目を優しげに細め、ナナミはそっと手を離す。
傷口は嘘のように塞がっており、体調もまるで闘う前の状態のように良くなっていた。
「あ、ありがとうございました」
「お互い様なの」
ナナミは後ろに下がりながら、にっこりと微笑んでみせる。
綺麗な人だ。そう思い、思わず見とれてしまった。
――と。
ギギギギ。
突如、耳が引っ張られるような痛みが走る。
「イテテ!」
反射的に振り返ると、クレアがジト目で睨んでいた。
「な、なに。どうしたの」
「別に」
ぷくっと頬を膨らましながら、そっぽを向く。
「?」
不思議に思う僕から視線を逸らし、「鼻の下伸ばしちゃって……」などとブツブツ呟いている。
「それよりも……話の続きをしようか」
カルムはわざとらしく咳払いをしながら、言ってくる。
「そ、そうですね」
僕は、とつとつと語り出した。
どうやって、ランクEからAまで駆け上がってきたのか。そもそもどうして、最下層にランクEのまま放り込まれたのかを。
まあ、クレアが聞いている前で「仲間に裏切られた」なんて話をするの、少し情けなくも思うけど、彼女なら知ったとしてもバカにしないだろう。
この性格なら、変に気を遣ってくることもあるまい。
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