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第二章 《最凶の天空迷宮編》

第四十八話 カエラナイ戦、決着

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 目と鼻の先に迫ったカエラナイを見ながら、僕はぼそりと呟いた。



「……《反発バックラッシュ》」



 反発する対象“A・B”を“自分自身・カエラナイ”に設定。

 

 カエラナイの身体が僕の肩に触れたその瞬間、同極同士の磁石が反発を起こすように、カエラナイの身体が後方へ吹き飛ばされた。



 水の張った地面の上をバシャバシャと何度もバウンドしながら、転がっていくカエラナイ。



『ガハッ! クソ……一体どうなっている!?』



 無様に腹を空に向けて寝転がりながら、カエラナイは忌々しげに吐き捨てた。



「す、凄い。エランくん……」



 エナが、目を丸くしながら感心したように呟いた。

 

「言語を話せるだけの知能を持ってるから、どんな大物かと思えば……喋るだけの両生類で失望したよ」



 挑発するように言い捨てると、カエラナイは怒りと屈辱に打ち震えながら身を起こした。



『お、おのれ……! お前は絶対に許さんッ! 覚悟しろ!』

「その言葉、そっくりそのまま返させてもらうよ。僕の目の前で、大切な人に手を出したんだ。命乞いされても容赦はしないから」

『抜かせこのガキッ!!』



 カエラナイは再び《超跳躍ハイ・ジャンプ》を起動し、一直線に迫ってきた。

 同時に口を開いて、スキル《猛毒噴射ポイズン・ジェット》の猛毒を放つ。



『俺の毒に触れられるものなら触れてみろ! 毒で溶かして、突進で全身の骨を折ってやる!』



 毒と体当たりの二段構え。

 けれど、こんな馬鹿の一つ覚えのような攻撃など、ブル・ドラゴンに比べればなんの威圧感も恐怖も感じない。



 ガントレットを装備した左手の掌をゆっくりと正面に構え、腰を低く落とす。

 それから、飛んで来る毒を見すえながらスキル《衝撃波ソニック・ウェーブ》を左手に起動した。



 瞬間。左手を中心に、衝撃波が波紋のように広がり、勢いよく噴射された毒の威力を相殺。

 一滴も身体に触れることなく、四方八方に吹き飛ばした。



『おのれ、またしてもぉおおお!』



 憎々しげに声を荒らげ、突進してくるカエラナイ。

 身を突きさすような憎悪の声を上げる敵を見ながら、僕は左手を指先までピンと伸ばして、横に構えた。



「《衝撃拳フル・インパクト》―手刀裂スプリット!」



 左手が淡く光り輝き、熱を帯びる。

 全身全霊の力を込めて横薙ぎに腕を振るうと、衝撃波が三日月型に弧を描いて飛翔する。

 衝撃の刃は空を切ってカエラナイに肉薄し――



 ドパッ!

 肉を断つ鋭い音と共に、カエラナイの首を切り飛ばした。



 頭はクルクルと回転しながら宙を舞ったあと、ボチャンと音を立てて水面に落ちた。



『ば、ばかな……!』



 切り落とされた先からボロボロと崩壊していくカエラナイ。

 驚愕と憎しみに満ちた色が、こちらを睨む四つの瞳の中で揺れていた。



『納得できるか。こんなヤツに、俺が負けるなど……!』

「別に納得しなくていいんじゃない? ただ、事実は事実だ。地獄で永遠に悔やめばいい」

『くっ……!』



 押し黙るカエラナイ。

 が、不意に『ククク……』と声を殺して笑い出した。



「何が可笑しい?」

『いや、勝利の余韻に浸りきっているようだから教えてやる。どのみちお前に明日はない』

「どういう意味?」

『さっきも言ったぞ。ここは影の世界。お前は、どう足搔いてもこの世界から出ることはで来ない。残念だったな』

「ふーん、ここからは出られない、ね」



 僕は試しに、スキル《紅炎極砲フレア・カノン》を起動した。

 そこまで自信満々に言うのなら、この程度では虚像世界に亀裂すら入らないだろう。



「《紅炎極砲フレア・カノン》」



 地面と水平に掲げた右手に、炎の塊が出現し、瞬く間に肥大化してゆく。

 そのまま腕を軽く振るうと、炎の塊は一直線に飛んでいった。

 

 数百メートル飛んでいった先で、何か透明な壁にぶつかったように、炎が弾けて霧散した。



『ふっ……はははっ! 何をしたって、この世界から出ることはできん! お前の負けだ!』



 勝ち誇ったように笑いながら、崩れていくカエラナイの身体。

 だが、そのとき。



 ビキビキと音を立てて、さっき《紅炎極砲フレア・カノン》が衝突した空間に、亀裂が走った。



「あ、割れた」

『なっ!? ば、ばかなっ!!』



 信じられないとばかりに、カエラナイは目を見開く。



『攻撃力特化のSSクラスモンスターですら、傷一つ付けられないというのに……おのれぇえええええええ!!』



 それが、カエラナイが放った最後の言葉だった。

 カエラナイの身体は崩れ、光の粒子となって消えたのだった。



「終わった……」



 僕は、小さく安堵の息を吐いて。

 次の瞬間。予想だにしなかった異変が起きた。
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