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37.マクシミリアンとの昼食(40日目)

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「いやだわ、そんな風に言われたら実際会った時にガッカリされたらどうするの? マックスったら意地悪ね」


「大丈夫さ、むしろ控えめにしか言ってないと思うんだが?」


 アレクシアがマクシミリアン達と食事するようになって1ヶ月以上経過し、すっかり一緒に食事する事にも会話する事にも慣れて冗談も言い合えるようになった。
 ただ、オーギュストの予想を超えてマクシミリアンがアレクシアに伝えたい事を全て言えたのは、初めて食事をしてから2週間経った頃だったが。


「じゃあ次の休みには私とアレク、行きたがった場合はエミールも連れてマックスの家に遊びに行くって事でいいんだね?」


「ああ、家族も楽しみにしているよ。むしろ弟達や使用人達はアレクの事を俺の想像の産物じゃないかと疑ってると思うんだ。これまで俺と談笑する女性なんて見た事も聞いた事も無かったからな」


「クスクス、なにそれ。私は幻なのかしら?」


 予想はしていたが、やはりマクシミリアンと親しくしている女性の影は無さそうなので、アレクシアは内心ほくそ笑む。


「ははは、実際にアレクを見たら幻を見てるのかと勘違いするかもしれないな、こんな美少女見た事無いだろうし」


「え……っ!?」


「あ……っ」


 いきなり褒められてボンッと音が鳴りそうなくらい、一気にアレクシアの顔が赤く染まる。
 マクシミリアンの方も、面と向かって美少女と言った事に気付いて赤くなった。


 向かいの席で頬を両手で挟んで目を伏せるアレクシアの姿に、褒められ慣れているはずなのに自分の言葉にこんなに照れてくれていると思うと、今すぐ抱きしめたい衝動に駆られた。
 しかし隣に座るオーギュストの存在がそれを押し留めてくれ、アレクシアが醜男の赤面という無様なモノを見て気分を害さないようにと腕で自分の顔を隠す。


「なんか……、私がここに居たらお邪魔かな~と思うのは気のせいかな?」


「おっ、お邪魔だなんて……! とんでもないわオーギュ兄様!」


(マックスと2人きりなんて嬉しいけど、絶対心臓がもたん!)


「そうだぞ、俺なんかと2人きりになって万が一にでも妙な噂が流れたらどうするんだ。アレクはまだ婚約もしていないんだろう? まぁ……、俺が相手では俺が一方的に付きまとっていると思われるのが関の山だろうけど」


「2人きりねぇ……、ここでは2人きりとは言わないんじゃないかな?」


 オーギュストは中庭に点在する他の四阿あずまやに視線を巡らせた。
 ここで学園で最も美しい令嬢と、最も醜い令息が共に食事をしているという事はすっかり噂で広まってしまい、アレクシアの姿をひと目見ようとする者たちによる四阿の争奪戦が毎日繰り広げられていたりする。


 特に元々食堂で食事を摂らない容姿に自信の無い者達が人目を避ける為に使われていた場所なので、様子を伺おうとする者には絶好の目隠しとなる植物が多く、覗き見し放題なのだ。
 事実、視界には入っていないが、周辺の低木ていぼくや木の裏側に人が隠れていいるのだ。


 アレクシアは気付いていないが、実践に近い剣術の授業や自主的な訓練のおかげでマクシミリアンとオーギュストは気配には敏感な為、いつからか覗かれ始めた事にはとっくに気付いている。
 ただ、マクシミリアンはアレクシアと向かい合うと意識がアレクシアに集中するので、あまり気にしていない。


「確かに……室内じゃないし、いつ誰に見られるかわからない中庭ですものね」


「そういう意味じゃないんだけど……、アレクは私達とは違う意味で視線に慣れてしまっているから鈍くなってしまうんだろうな」


 はは、とオーギュストが乾いた笑いを漏らすと同時に予鈴の鐘が鳴った。
 アレクシアにとっては、マクシミリアンを眺められる至福の時間の終わりを告げる残酷な音に他ならない。


「もうお昼休みが終わりなのね、楽しい時間はあっと言う間だわ。マックス、明日はご家族への手土産には何が良いか一緒に考えてね」


(ふふふ、これで明日の話題には困らへんな。会話が途切れてつまらん女やと思われへんようにせんと!)


「そんなのいいのに……、わかったよ」


 手土産を断ろうとしたらアレクシアに上目遣いで可愛く睨まれたので、慌てて素直に頷く。
 マクシミリアンが了承するとすぐに輝くような笑顔に変わり、オーギュストと共に食器を片付けに食堂へ向かった。


 美しい長い黒髪がサラサラと風に流される後ろ姿を眺めながら、マクシミリアンは熱っぽいため息を吐いた。


「はぁ……、どこまでアレクは可愛いんだ。美しくて性格が良くて気さくで気遣いも出来て前向きなのに初心だなんて……、これで惚れるなって方が無理だろう……会う度に好きになるじゃないか。俺なんてただ兄の友人というだけで相手をしてくれているんだろうけど、想うだけなら……許されるよな?」


 マクシミリアンはクタリとテーブルに突っ伏して軋む胸元を握り締めた。
 アレクシアがオーギュストが居る時には聞けないが、家に遊びに行ったら弟達からマクシミリアンの女性の好みを聞き出そうと画策しているとは思いもせずに。
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