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なりすましではなく

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なりすましというよりは入れ替わりだと男は言った。エリック・バレットに弱みを握られ、伯爵として自分の代わりに仕事をしてくれ、と言われた子爵家の次男坊は、それが犯罪であることを理解してはいたが、平民になるのを遅らせられるのならば、と安易に引き継いだ。

エリックと入れ替わることは、実は随分と昔から幾度となく行ってきたのだと言い、エリック本人は、義母と義妹が自分の顔すらまともに覚えていないことを逆手に取り、彼に自分の役目を押し付けていたようだ。

「エリック本人は、どこにいるんだ?」
「彼は今義妹が入れられた修道院にいる。」
「何でまた。」

「エリックは、義妹を嘲笑いたいんだ。昔から自分には力など何もないのに、偉そうに振る舞う彼女を楽しんで眺めていた。滑稽すぎて、面白いと言いながら。多分復讐とかではなく、単なる趣味として。」

ランディは彼の話すエリックに、本人らしさを感じた為、その話を信じた。

ランディが聞いたエリックと記憶の中のエリックが一致しなかったのは、別人が演じていたせいだった。

「確かにあいつは、性格が悪いからな。」

エリックになりすましていた男は、フリードと言って、子爵家を継げなかった為に今の身分は平民だ。平民ならば貴族の命令には逆らえないと、なりすましの罪も、現状を考慮される筈である。


フリードによると、エリックとフリードの度々の入れ替わりに気づく者は居なかった。エリックがそもそも表に出る気もなかったし、伯爵家ではエリックはいない者とされていて、侍従や侍女なども最低限しかつけられていなかった。それは義母や義妹の嫌がらせでしかないが、エリックはそれを喜んで受け入れていた。

フリードは最初はエリックに取り入って卒業後、エリックの侍従となって雇って貰おうと企んでいたのだが。

「お前に、エリック・バレットを貸してやる。うまく使えよ?」

伯爵の侍従になる筈が、何故か伯爵になってしまったフリード。そこから先の苦労は同じような立場のランディは、目に浮かぶようである。

若くして当主になる貴族達は、凡人にはない才能を持っている為、当然ながら凡人の気持ちなどは、わからないし、興味もないらしい。

話の途中でふと同情しかけ、ユージーンの顔を思い出して正気を取り戻した。

「リラさんを、囲うのは、エリックの命令か。」
「いや、まあ、リラさんのことは、エリック様も気に入ってはいたみたいだが、違う。私の独断だ。」

リラはランディとフリードの会話を聞いて、きっと聞きたいことがたくさんあるだろうに、黙っていてくれた。

「リラさんは、私達の入れ替わりを目撃している唯一の人だから、口封じの意味も込めて、囲い込もうとしたんだよ。」

「「え?」」

今度はリラとランディの声が重なる。

リラの反応から、勘違いであるとわかったのかフリードはまた体を小さくして謝る体勢に入っている。

さっきの紹介の通り、リラはエリック本人に会ったことはないという。ずっとフリード版のエリックを本人だと思い込んでいた。

「この件は、独断では決められないから、
主人に判断を仰ぐことにする。」

ユージーンにはきっと厄介事を持って来たと叱責されるだろうが、少しは此方とて嫌がらせをしておかねば、ストレスが溜まってしまう。

ランディは力無く俯くフリードとリラを連れて、公爵家に向かった。
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