それは私の仕事ではありません

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今更の話

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「お前が酷い奴なのは、今に始まったことじゃない。」
無言でペチンと肩を叩けば、昔より分厚くなった身体に気がつく。自分達もこうして歳を取っているのだから、フランクも同じように歳を取っているのだ。そんな単純なことに今更気づいてショックを受けるなんて。

「私、あの人の奥様を見に行ったことがあるの。」

結婚が信じられなくて、本当はしていないのに偽装したのではないか、と変な勘ぐりをした末に、見に行くと言う子どもじみたことをした。

あの時は、悔しくて悲しくて、すぐに亡くなってしまったと聞いて、自分に生じた感情を恥じた。同時に自分が全く蚊帳の外にいることを、思い知ることになった。私は先生について何も知らない、と。

先生は政略結婚だと言った。自分も貴族に生まれた以上、政略結婚は身近で、いつそう告げられ嫁がされても文句は言えないのだけど、何故か先生が結婚をしたことが苦しかった。

先生はアネットのものでも何でもないのに。

あれは、幼稚な独占欲みたいなものだと、大人になってから結論付けた。

再会してからは、ちゃんとただの良い教え子として、過ごしていた。自分の心の黒い部分は全て隠していたつもりで。

「とりあえず、今は試合に集中しよう。お互いに厄介な相手だ。」

グレイの相手に限らず、トーナメントはうまく考えられていて、あまりにも実力差がある者同士は当たらないようになっている。

トーナメントという形で皆が楽しめるようにはしたが、元は新人の訓練の為だ。後から強い人間に当たるのも良い勉強になるが、同じぐらいの実力の人間と切磋琢磨して少しずつ強くなっていくようになっている。

どうせ戦場では手加減なんてできないのだから心起きなく本気を出せる相手を用意しなくては、意味がない。

「どうなるかと思っていたけれど、案外楽しそうで良かったよ。」
北の地の新人もとても気が強そうな生意気そうな顔をしている。グリドとは相通じるものがあったようで、練習と称してやり合い、すっかり疲れ切っていた。

「あれだけ体力があるのは羨ましいわ。」
何度も何度も打ち込んで、倒されても食らいついて、ちゃんと楽しそうで安心する。

アネットは悩みが続かない。悩んでもどうにもならないことは悩まないようにしている。頭を使うのは苦手で、すぐに体を動かしたくなる。

グレイに相手になって貰おうとしたら、これから試合だから、無理だと断られた。

「グレイは私に言えないことってある?」
「うん。当たり前だろ、あるよ。」
「たとえば、何?」
「たとえば……いや、言わないから。」
「ダメか……」

グレイには簡単に聞けることを聞けないのは自分がとても臆病だからだ。先生に嫌われたくないと、自分が望んだからだ。

「私、先生がすごく好きだったのね。」

グレイは、何を今更、みたいな顔で呆れていた。
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