勇者に恋した魔王の配下

ヒムネ

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ネモネア 対 クレマ

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「――くっ やっぱり無理か」

「そんな爪じゃ魔王の鎌は防げないわよ、ホラホラホラァッ!」

 激しい魔王の鎌を振り回しあたいを追い詰めていくクレマ。爪を伸ばすも鎌でスパッと斬られ、前回のように避けては逃げるを繰り返すしかなかった。

「うふふ、あの時はあたしが斬った木々を投げ飛ばしてくれたけどもうそれも出来ないわよ」

「ちっ、やあっ」

「だから~、無駄だって~」

「このままじゃ……エメールとモントも心配なのに……炎っ?」

 洞窟の奥で戦っている場所は円形なため時計周りに逃げていたあたいの目の前に炎の壁が。

「さぁ鎌で殺されるか、それともあたしの炎で焼かれる? どっちよぉぉぉっ!」

 それなら、

「くっ……ああぁぁぁあっ!」

 炎の中に決まってる。熱く痛い、両腕から煙も出る。でも敵から目を離すわけにはいかないとクレマの方に顔をあげると、目の前に鎌。

 ガンッ、

 鎌は紙一重で顔横の岩に刺さった。

「ハァ、ハァ、死ぬとこだった……そうだ」

 とっさにこの魔王の鎌をクレマに持たせなければ良いと思い掴が、

「うわっ、触れない、か」

「アッハッハッハッハ、当たり前でしょ、触れるわけないじゃん、アッハッハッハ」

 魔王の鎌はクレマが右手を開けば意思があるかのように戻っていった。やっかいな魔王の力が宿る鎌、こんな絶望的なのにアヴエロ、スオーロ、ソレイル、ワニのアクアン老師は、かつてこの力を手を染めたあたいに勝ったんだった。


「どう? あたしの魔王様のち・か・ら、凄いでしょ」

「……ああ、強いよ」

「ウフッ」

「あたいも前に魔王ルモールの力を手にした時、あんたみたいに知らないうちに魔王の力に溺れていたのかもしれない」

「へぇ~、勇者に倒された魔王ルモールの力をね~……ならどう? また新しい魔王様の力をもらって一緒にツオーゴの生き物を、殺す?」

「新しい魔王の力……」

「ネモネアのためにお願いしてあげるわよ、優しいでしょ、あたし、キャッ」

「……その誘いなら、断らせてもらう」

「もう~、どうしてよ~」

「今あたいはその魔王の力よりも、もっと強く……この手に受けた炎よりも熱い力をもってるから」

「はぁあ? なによそれ」

 魔王ルモールの力は頭ん中がどんどん孤独になっていって寂しく真っ暗な力だった。でもこの力は、おへその上から流れていくように暖かく、赤からオレンジそして黄色から白い光へと身体の中を満たしていく。アヴエロがあたいを説得してから始まって、彼が気づかせてくれたもの。

 不幸なはずもなく幸せな気持ち……。

 だからこの力でクレマを倒してみせる、魔王の鎌を超えてみせる……。


「はぁぁっ」

「無駄な抵抗よっ!」

「うっ」

 壁に激突、鎌で爪を防がれてもう何回吹き飛ばされただろう。でも諦めるわけにはいかない。

「ハァ、ハァ」

 爪を再生させるには体力も使うため息が切れてきた。何か久しぶりだこの追い詰められた状況、ここ最近は色んな人と一緒だったから忘れてたけど。

「もういいかげん、しんじゃえ~っ!」

「まだまだ」

 親に捨てられてから、生き延びるために弱い魔物を食べて、強い魔獣を木に草に地面に隠れて弱点を観察して狩ってた。いまはあの時と同じ感じがする。

「ハァ、ハァ、フゥゥ……」

「なによ、怖い目をしちゃって、ウフッ」

 ふと思い出したら妙に自分が落ち着いてくる。そういえば魔王ルモールにも言われたっけ、魔獣性が失われてるって。

「うあぁぁぁああっ!」

「なによ急に、いい加減に終わらすわよっ!」

 あたいは右手の爪を伸ばすと、案の定クレマは鎌で爪を全て切り裂く。

「無駄なのよ、なにもかも……って、キャァッ!」

 ガンッと、斬られた爪を無視してそのまま右手でクレマの口を掴んだ。

「んっ、んーっ!」


 手で掴んでしまえばあとは左手の爪で突き刺せば終わる。


 涙目を浮かべ恐怖の顔があたいの眼に映る……。


 その姿から、今まで出会った人たちがフラッシュバックした。


 ザクッ、爪はクレマではなく隣の壁に刺さった。


「ぐはっ」

 その一瞬クレマはあたいを思いっきり腹部に蹴りを入れ吹き飛ばし、その隙に魔王の鎌を右手にがっしりと掴む。


「ハァ、ハァ、死ぬとおもった……やってくれたじゃない、ネモネアァッ!」

 なにやってんだろあたい、せっかくのチャンスを逃すなんて、でも後悔はしていない。あたいはもう1人孤独な獣じゃないもの。
 浮いたクレマが本気で殺りにくる、もう遊ぶのをやめたみたい。それでもあたいは飛び込んだ。

「死んじゃえぇぇぇーっ!」

「死ぬかぁぁぁーっ!」

 クレマは鎌を振り降下ろす。その鎌をあたいは両手で柄の部分を握る。

「うあぁぁぁーっ!」

「バカな女っ、言ったでしょあんたには掴めないって、激痛を味わうといいわっ……えっ!」

「はな……さないっ!」

「なっ、なんでっ、どうして……」

 バチンッ、クレマを頬を叩いた……。

 地面に腰を着いたクレマは急いで鎌を取ろうとするも。

「うあ……」目の前に見えるあたいの伸びた爪。

「ハァ、ハァ、動くなクレマ」

「ううっ、ネモネア……」

 綺麗な眼、でも今ここで殺しておかないときっとまたあたいらの前に現れて襲ってくるだろうことは、わかってる……。

「ううっ……」

「……えれ……」

「え……」

「……この爪で貫かれたくなかったら、とっとと帰れ」

「……なんで……どうして……意味わかんない」

 静かに立ち上がりあたいの方に目を離さず警戒しながら後退していく。

「……バカよネモネア、次は殺されるかもしれないのに……」

「そうかもね……でも覚えときな、あんたは

「なにを……ネモネア、この屈辱は必ず返してあげるから」
 そう言い残しクレマは水晶花を落として闇とともに消えていった。彼女はきっとまたあたいの前に現れるだろう、でも負けない……。


 キンッ、上空に舞い上がるモントの剣。

「……ハァ、ハァ……つ、強い」

「私に一度も勝ったことないだろ、モント」
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