勇者に恋した魔王の配下

ヒムネ

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女盗賊と魔族女

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 目が覚めた。たしか流砂の中に入ってったんだっけ、つまりここは砂漠の地下、だけど見渡すと薄暗い。大事なブラック・オーブも無事で安堵したけど、あたいの足元には性格最悪の女盗賊ナニラが倒れている。

「おいっ、起きろ」

「ん、くうっ……魔族女っ、痛~」

「頭でも打ったんだろ」

 あたいとナニラは睨み合う、そもそもコイツがあたいのブラック・オーブを流砂に投げなければこんなことにはならなかったんだ。なのに反省の色一つない、盗賊だから当然か。

「ここで決着つけてやる」

「あんたが望むなら、殺ってやるよ」

 ナニラがナイフを構えるとあたいも爪を伸ばす、だけどすぐ事態は急変する。カサカサッと嫌な音が僅かにして振り向けば魔物アリの大群の姿が。

「ちっ、アリの大群か面倒だな」

「しかたない、一時休戦だ」

「ふざけるな魔族女」

「ここで死んだら、何にもならないんじゃないか? 女盗賊」

「……まあ、そうだね~」

 女盗賊もしぶしぶ納得したようで魔物アリを2人で蹴散らしながら進めそうな道へと向かっていく。

「ここが急所っ……何だよ、魔族女」

「……いや」

 ナニラの戦い方は魔物アリの弱い部位を見つけて狙っている。初めてちゃんと見る盗賊と魔物の戦い、そのやり方はあたいと何処か似てる部分がある気がした。

「なら行くぞ。このままじゃずっとアリの掃除だからな」

「そうだな」

「フフッ……」


 走れどはしれど左右は古びた壁、そこに模様が描かれている、壁画のようだ。何かありそうな感じがしていつの間にかあたいは壁画に目を奪われていた。

「……女神と……魔王が手から何か出してる、光か……戦ってるのかな……竜っぽい……それと虎、が睨み合ってるのか」

「……なに言ってる?」

「壁画を見てるだけださ」

「フーンッ、まぁあたしには関係ないね」

 そんな話しをしているうちに正面から壁が見えてきて立ち止まる。

「行き止まりか」

「いや、何かあるはずだ色々調べて……あんた盗賊だろ、何か分かるんじゃないか?」

「……いい感してるじゃないか」

「わかってたんなら初めから言えよ」

「フンッ」

 気づかれたか見たいな表情をして、古びた壁を隅々まで調べていくナニラ。だがその間に、あたいらが走ってきた方から魔物ありのカサカサ音が徐々に大きく近づいてきているのがわかる。

「おいまだかっ、魔物アリが来るぞ!」

「まだよ、何とかしてほしかったらあんたが止めててよ」

「……もう、わかったよ」

 アリは前に3匹、その後ろにそれぞれ2匹更に奥にと合計9匹。1人で戦ってはさすがに無傷とはいかないだろうが、やるしかない。

「うおぉっ!」

 とにかくナニラが調べているうちは魔物アリ1匹通すわけにはいかない。


 ドドンッ、何かの響く音。


「どうしたナニラッ……お前ぇっ!」

「じゃあね、お人好しの魔族女」


 扉が閉まる最後までふざけた笑顔で手を振っていたが、ついに閉まった。

「あいつっ、うわっ!」

 それよりも魔物アリを片付けなくちゃけない。ブラック・オーブの入った袋を片手に持っているため魔物アリが9匹はめんどい、怪我を覚悟で何とか倒していく……。

「ハァ、ハァ……痛つっ、あの女、許さない」


 ――やっぱりあたいにはどう開くか分からない。でも怪我を回復魔法で治癒しつつ扉に少しでもなにか聞こえればと耳を押し付けてみた。

「フフッ、お人好しのバカ女が……そういうやつが男に騙されるんだよ……壁には竜と、ボタンか」

 足音が止まった。壁でもあったのか、それとも奥へと進んでしまったのか。するとまた足音、それと他に別の音も。

「竜が火? ちっ、罠だったかっ」

 ナニラは仕方なく引き返し急いで扉が開く。


「うわっ」

 ナニラは転けた、というよりあたいが

「……くっ、魔族女」

「あたいは、ネモネアって言ったけど……」

 腕を組んで呆れたようにあたいはナニラを睨む。

「ネモネアッ……」

「フフッ、じっとしてると後ろのアリに食われるよ?」

「なにっ!」

 すぐに立ち上がりナイフを構えると7匹の魔物アリが容赦なくナニラを襲いに行く。あたいは仕返しにとただ見てるだけ。
 苦戦するナニラ、盗賊じゃあ複数を相手するのに慣れてないようで。それもそうか、盗んで逃げるのが盗賊だしね。

「くそっ、アリ共め……うわっ!」

「人を騙して、今はアリに殺られそうになるなんて無様だね」

「だまれっ、片想い中の赤頬女が、ぐあっ」

「誰が赤頬女だよ……ったく」


 ザクッ、アリの顔に爪が刺さる。

「今度は何のつもりだ」

「……勘違いすんな、これはあたいの気まぐれだ」

 このままほっといて魔物アリの餌になってもらうのもいいけど、仮にもあたいは勇者の仲間と共にした事がある以上は無視する訳にもいかないと判断したまで。だけどもう1つ、

「それと、さっ!」


 ボコッ、ナニラの腹を思いっきり蹴った。

「うっ、ガハッ……」

「散々嘘ついたお返しだよっ、女盗賊っ」

「ハァ、ハァ、フンッ」

 これをきっかけにあたいとナニラは黙って進む。あたいらは落ちた者同士の運命共同体、でもはっきり言ってあたいは大嫌いだしまた騙してくるかもしれない。だからとっととこの砂漠の地下を抜けて、エメールやモントに会いたいよ、ホントに……。

 だがそのおもいとは裏腹に、この砂漠の地下はあまくはなかった……。
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