勇者に恋した魔王の配下

ヒムネ

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幻想

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　残り4分切ってる。早く倒さないとって正直焦ってるけど相手は魔王だし、どう攻めていいか。

「いくぞシャンイレールっ、でやっ！」

　考えてるうちにアヴエロが女神の剣を構えて突撃。きっと同じく時間を気にしてるんだ。

「消えたっ」
「後ろだ」

　強烈な魔王の薙ぎ払いでアヴエロが吹き飛んだ。

「アヴエロッ！」
「人の心配をしている余裕は、あるかな？」

　背後から言葉を発してゾクッとするまもなく蹴り飛ばれる。

「ネモネアッ、くっそーっ！」
「モントッ！」

　続くソレイルとモント姉妹も、魔王に遊ばれているかのように蹴られ、掴まれて吹き飛ぶ。

「3人の、プリンセスたち……」

「つ、強い……」

「前衛の4人を一瞬でじゃと……」

　後衛のエメール、スオーロ、アクアン老師は魔王シャンイレールの強さに驚き自然と開いた口がふさがらなかった。

「フフッ、さっさと回復してやれっ」

「な、なんだと！」
「スオーロ、言う通りにするんじゃ」

「余裕のつもり、でしょうか……」

　アクアン老師が冷静になってスオーロに回復を促す。例え魔王が油断していようと情けだろうと前衛がやられてはどうしようもない。

「う……ぐふっ、スオーロの回復ね……」

　回復を感じてなんとか起きるも魔王の速さ、力、共に桁外れで、右の脇腹を後ろから直で蹴られるなんて初めてだ。

　このあとも起きては攻撃、避けられては吹き飛ばされるを繰り返す。まるで魔王シャンイレールは遊ぶように。

「そら、どうした……あと3分切ったぞ、一緒に観るか？」

「さ、させ、ない」

　またフッと消えてアヴエロの目の前に。

「なら、私を倒してみせろ勇者……」
「ガハッ！」

「そらそらそらそらっ！」

　アヴエロの頬を胸を、腹をひたすら殴り続けていく。

「どうした、勇者なのだろ？」

「やめろっ！」

「魔族の女……」

「グルゥ……」

「獣の眼、なるほどルモールが貴様に目を付けたのはそれか……フフッ」

「あんたを、許さないっ！」

「フンッ」
「グウッ」

　素早く走ってあたいの左頬に魔王の右手が見えて、とっさに左腕で守った。だが、

「よく守った、さぁどんどんいくぞ」
「グウッ……あぁっ」

　面白がる魔王が拳や蹴りを連打していくと守りきれなくなって吹き飛ばされる。

「魔獣程度と一緒と思うな」

「ハァ……ハァ……ハァ……」

　メチャクチャ強い、魔獣や邪恐竜なんかの比じゃない。竜魔法ドラゴン・マジックで身体の一部を竜化してなかったら耐えられない。物理も魔法も効かないと魔王に苦戦していたら、ついに時がたつ。

「０分、時間だ……」

　5カ国に配置された魔界へ繋がる穴ワームホールから、邪恐竜と邪恐獣が現れてしまった。

「そ、そんなっ！」

「さてさて……」

　腕を組み浮いていく魔王シャンイレールは目を閉じそれぞれの城下町を心眼で観ていく。

　グランジウム、
「トリカッ、家を出て避難するんだっ！」

「お父さん、でもネモネアさんと約束したから……」

　ラナロース、
「キャアッ、スノーッ！」

「ロップッ、たとえ世界が滅んでも君は離さないよ……」

　ラングネス、
「シスター・ヴィゴーレは力を使って起き上がれないの、ですから匿うのよ」

「……う……ネモネア」

　キングロビウ、
「カーゼ先生、この事態は……」

「ああ恐らく……世界はどうなるんじゃ」

　そしてクリスロッサ、
「シスター！」「こわいよー」

「落ち着きなさい……さっきの光はラングネスから、どうなってるの……ネモネア」

　各国に放たれた邪恐竜に邪恐獣、もはや逃げ場はない……。

「フフッ、これだ、この恐怖と悲鳴が私の身体をうずかせる」

「うおぉっ！」

　アヴエロの一振りを避ける。

「さて、勇者」

「ハァ、ハァ、うおぉ！」

「もう、終わらせようか……」

　あたいは背筋が凍る。同時にみんなが、みんなが殺されてしまう気がしたから。仲間を失う恐怖に包まれる中、魔王シャンイレールは動く。

「くっ……」

「まずは、女騎士だ……」

「なに……ぐはぁぁ……は、はやい……」

　鎧の隙間から魔王の爪で脇腹を切り裂かれ、血が飛び散る。

「ソ、ソレイルッ！」

「次……」

「よくも姉さんを……がはっ」

　あたいが声を出すと同時に、魔王はモントの目の前に来ると、とっさの2刀も間に合わず拳の連打で胸を守る鎧は砕け倒れた。

「2人とも離れてっ！」
「遅い……」

　エメールは顔に魔王の蹴りとともに吹き飛び地面に引きずられた。

「クソっ、ぐはっ!」
「ガハッ！」

「2人同時だ……」

　スオーロとアクアン老師はラリアットをくらい転がり倒れる。

「うっ、よくもあたいの仲間を、うあぁああぁぁぁっ！」

「フフッ、黙れ」

　腹部に魔王の拳を入れられたあたいは全ての力を失うほどのダメージで、ついにその場で倒れてしまう。

「フッフッフッ、勇者だけは遊ばせてもらうぞ」

「なにっ……がふっ」

　またアヴエロの頬を腹部や腕を殴り続けていく。

「死ぬまで殴り続けるぞ、ハハハハハッ」

「あ……あっ……やめてよ……ううっ……ア、アヴエロが……死んじゃう……」

　ダメだ、立てない。

　せっかく再開したばかりなのに、まだ話したい事もたくさんあるのに……こんなのって……こんなのって、ないよ……。悔しくて、辛くて、涙も出る。けど身体が痛みを通り越して痺れて動けない。

　そんな戦闘不能な状態の中でもソレイル、モント、エメール、スオーロ、アクアン老師、立ち上がれる者は誰もいなかった……。

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