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本章

107話:説得

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それからグレイスさんから俺が元の世界に戻る為の説明を受ける。

とりあえず、今使用している転移魔道具を改良して転移する座標の設定などを俺の遺伝子情報と結びつけて…どうにかこうにかして…うんたらかんたら…

と、俺の頭では到底理解できない事を言っていた。もうチンプンカンプンなので、俺はグレイスさんの言われた通りに動く事にする。

「じゃあ、俺はこれからどうしたらいいんですか?」
「カオルくんには毎日身体面のデータを取らせてもらうのと、体液を採取させてもらいたいかな」
「分かりました。」

グレイスさんの説明を聞きながら頷いていく。
でも、毎日となると宿から通えるだろうか…?

「なぁクリス。俺の宿からここまで通うのってどれくらいかかるのかな?」
「そうだね…片道3時間くらいかな」

う~ん…往復6時間はなかなか…
検査する時間も含めると半日はかかるよなぁ…。

「ねぇカオル。この研究は極秘に行っているものなんだ。この件に関わっているのは国王と私とグレイスの研究チームだけだ。だから、この研究に参加するということは、カオルも秘密を守って貰わないといけない」

そうだよな…クリスの言う通りだ。
本当に違う次元へと行けるようになればとんでもないことが起こる。
これは国家機密って事だよな…

俺はクリスの言葉に真剣な顔をしてコクリと頷く。

「うん…。俺、秘密を守るよ」
「そうなると秘密を外部に漏らさないようにする事とカオルの身の安全を守る為にも、この場所で生活してもらうことになるけど…それでもいいかい?もう、あの宿には戻れないよ?」
「え…。でも…エルもいるから俺帰らないと…」

俺一人ならすぐにでも協力できるが、エルを置いてあの宿を離れるのは…

「エルくんには申し訳ないが彼までここに置くのは流石にできないかな…。その代わり私の方から金銭面や住む場所のサポートはさせてもらうよ。きっとエルくんもカオルの為だと説明すれば納得してくれるはずだよ…」
「うん…。だけど…」
「カオル。人のことを思い行動するのはいいことだが、今は自分のことを優先してみてはどうかな?」

クリスの言葉が胸に刺さる。

俺はこの世界で出会った人達のことは大好きだけど………やっぱり元の世界にも戻りたい。
自分のことを優先してもいいのかな…?

でも…俺がいなくなったエル泣かないかな…。
それに、毎日顔を合わせていた皆に何も言わずにいなくなってしまうと心配かけるんじゃ…

「分かった…。じゃあ、俺からエルに話をしてもいい?それに、いつも仲良くしてもらってた人達にも一言…」
「それはやめておいた方がいいよ。カオルのことだから、エルくんや仲のいい友達の顔を見ると決断が揺らぐと思うよ。エルくんや友達への説明は私の方からしておくから…。ね?」
「……うん。」

明らかに落ち込んだ顔をした俺をクリスは優しく抱きしめてくれる。

「大丈夫…。私がカオルのそばにいてあげるから」
「うん…」

本当にこれでよかったのかなぁ…
答えを出した後も、俺の心の中はなんだかモヤが晴れず、不安を埋めるようにクリスをギュッと抱きしめた。
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