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マズイ状況だって言うのは理解できた
しおりを挟むバックミラーに映るのは何の変哲もない軽自動車でその他にも特におかしな車があるようには見えない、一見。
けれどその軽自動車の一台後ろと、隣の車線の車の二台後ろとその後ろには明らかに怪しいセダンがずっと付けてきている。
「天音、愛慈と親父に連絡して」
「したよ。右の二台後ろ多分横付してくるね」
「あダッシュボードの中に予備ある」
それとなく天音に道具の場所を伝えると躊躇うことなくアタッシュボードを開けて弾の確認と安全装置の解除をした天音にやっぱりおっとりしていても親父の孫なんだなと関心した。
「もう一丁あるから準備しとくね、あと弾余分に貰うね」
まるでチョコレートの事でも言うかのような気軽さで申し訳無さそうに弾を余分にちっさいバックに入れて余計な荷物をアタッシュケースに入れ変えた天音にふと気になって尋ねた。
「慣れてるね」
「幼い頃から良くあるから、愛慈に教わったのよ」
ふふ、と笑みを溢した天音にシートの下に念の為に置いてると愛慈に言われたキャップ型のヘルメットを被せた。
「あ、また……」
「愛慈がうるさいから被ってて」
予想通り前の車を追い越してくる背後の車に並ばれるのを少しでも遅らせる為に少しだけ強めにアクセルを踏む。
気付いている事を気付かせない為にミラーを見過ぎ無いようにしながらもしっかりと前の車を何台が追い越した。
もうすぐ着く倉庫は予めさっき愛慈と待ち合わせした場所だ。
近くに居た何人かが先回りすると連絡があったみたいだが念の為に天音には完璧に準備させておいた。
「愛慈、場所分かるかな」
「大丈夫だよ」
(GPSついてるからね)
「玲、隣っ!」
追いついて来た奴を見れば写真でだけだが見覚えのある別組織の幹部で、何らかの事情で天音の身柄か命を狙っている事だけは確実だった。
「捕まってて」
「気を付けてね」
こう言う時は本当に天音は肝が座っていると思う。
反対車線の左側を確認する天音は愛慈からの着信にスピーカーをオンにした。
「お嬢!」
「愛慈、先に着くと思うわ」
「玲なら大丈夫な筈だけど、すぐに着く頼むから耐えて下さい」
「ん、愛慈も無茶しないで」
携帯をバッグに仕舞った天音は銃に律儀にサイレンサーを着けている。
「飛ばすよ!……天音はちゃんと守るから」
「ありがとう。ちゃんと今日も生きて帰ろうね」
本来ならば自分も仲間もこんな目に遭って欲しくないだろう。
天音は組のモンが時代に合わせて生きていけるように、あくまでグレーに近い黒にしようとしている。
(愛慈は完璧に黒が似合うけどな)
「こう言う事してくる奴らは必要悪とは言えねーな」
「そうだね」
目的地はすぐそこ、なるべく一般人を巻き込まないように港に誘導する。
遠目に見える車数台にどきりとするが、見覚えのあるものらしく天音は「エイジさんと門ちゃんだ」と呟いたのに安心する。
安心したのも束の間、更に数を増やして追ってきていたのだろう背後から聞こえるエンジン音に心拍数が上がる。
エイジさんがひっそりと開けた倉庫に滑り込むようにして車を入れると、マシンガンを背負った門ちゃんが「二階!」と叫んだ。
「天音、靴大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ早く上がろう」
「お嬢、玲、少ないけど若いモンが上に居る」
扉を破られるのも時間の問題だろう。
窓から応戦する他無いが相手の数が多すぎる。
「くそっ、当たんねぇ!!!」
「エイジさん、大丈夫すか?」
「玲お前、上手いモンだな」
「向こうは練習するとこ多いからっ……と」
「門ちゃん!」
「天音さん、大丈夫っすよ!」
耳先を掠ったのかマシンガンをぶっ放していた門ちゃんの手が止まる。
「……貸して」
怒ったような声色でマシンガンを奪うと窓から構えた天音は、躊躇なくぶっ放した。
的確とは言えないがエイジさんよりは上手く当たっている。
なかなかの腕前でこれも多分念の為愛慈が教えていたんだろうと思うと少し嫉妬するが今は兎に角天音の安全が第一、前線に立たせ続ける訳にはいかない。
多いと言ってもまぁそこそこ数も落ち着いて来たが、見張りの若いモンが階段から叫ぶ。
「扉、開けられそうっす!!!」
「くそっ……玲」
「分かってます」
落ち着いた様子で、据わった目でリロードする天音をチラリと見て雪崩れ込んでくるだろう敵組織の足音に構える。
「愛慈……」
「えっ」
叫び声が聞こえて愛慈の車が凄いスピードで向かってくる。
そのまま躊躇う所かスピードを上げて何人もを下敷きにしながら倉庫に車で突っ込んだ。
断末魔と、驚きで一瞬の隙が出来た空気を読み取ったのか天音が構えたのと同時にヤケクソで走り出した俺。
「全員で愛慈の援護!!!!」
「玲!私も!!!」
「天音は待機!」
若いモンとエイジさんで急いで降りると二丁もサブマシンガン抱えた愛慈の表情は無表情で轢き殺した奴を踏んで降りてくるその姿に味方までもが「ひぃ」と声を上げた。
「やべぇ」
「玲、俺もびびるわアレは」
援護しに来たつもりが、よく考えたは援護に来たのは愛慈なんだからそりゃ勝算あって突っ込んでくるよなと納得した。
わずか十数分で片付いたものの、愛慈の姿はもう人間とは思えないほど恐ろしい。
「皆!……愛慈っ!!!」
階段を降りるどころか飛んで来た天音を受け止めた愛慈の表情はもう別人、と言うか元通りだった。
「お嬢、俺きたねえから」
「いーの、何でそんな無茶するの」
「同じでしょ。お嬢、手ぇ切れてる」
「みんなの方が血だらけじゃない……っ」
あーやっぱ敵わねぇな、なんて愛慈を前には何度も思ったことを再確認するように考える。
エイジさんも、門ちゃんも若いもんも一応ボロボロだけどみんな無事で迎えの車が来るまで待つ間、愛慈は俺に「お疲れさん」なんて気軽に言うからちょっと驚いた。
「職人の仕事終わりみたいに、そんな気軽によく言うよね」
「あ?アメリカって日常茶飯事じゃねぇの?」
「違うよ!」
「ある意味職人みたいだけどな」
「何の?」
「屍、職人?」
「ほんと!天音に変なことばっか教えんなよな!」
「あー……護身の為に説明はしたけど……」
"あれは殆ど才能だよ"
そう言って困った顔をした愛慈は意外にも振り回しているんじゃなくて、振り回されているかも……なんてね。
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