此れ以上、甘やかさないで!

abang

文字の大きさ
33 / 33

お礼、しなきゃね

しおりを挟む

近頃、時代に似合わず物騒なことが多い。


やけに身辺が騒がしいと警戒を強めていた時だった。
まだ組で世話をして日が浅い、若い青年、慎二が亡くなったーー

とある施設で虐待を受けていた慎二が、身体の成長ともに反発し問題を起こしたことで留置所に居るところを別件で訪れていた仲間が見つけ、愛慈が保護したのだ。

まだ十六歳の慎二は施設に残して来た妹が心配だと、我儘はそれひとつだけしか言わなかった。

学校へも行き、庭の掃除だって真面目にしているような子だった。なのに……慎二は薬物の中毒で死亡した。


見つかった時にはもう助からなかったらしく、死因は妹の雪には伏せた。


「愛慈、しんちゃんはこんな事しないよ」

「お嬢……、分かってます。俺を信じて」


一つ下の妹と慎二には家の裏手にある所有するアパートの部屋を貸しているが勿論、薬物を使用した形跡も組員しか住まないそのアパート内で疑うべき目撃情報すら無かった。

何かある。

そう思っているのは天音だけじゃなかったようで、まだ知り合って浅いとはいえ、家族に手を出された組の者たちの目は底がみえぬほど真っ黒だった。

それほどに慎二はひどい状態だった。


「雪ちゃんのことは私に任せて」

「お嬢、悪いけど一人で行動させらんねぇわ。それに親父からも理人さんからも常にそばに居るように言われてるんで」

「わかってる、けど……」

「何もすんなとは言いません、でも離れないで」


「おい、プロポーズか?俺妬けちゃう」

「「玲」」

「ふざけてる訳じゃないよ、心配しなくてももう動いてる」


玲が天音の方にスマホを向けて、愛慈もそれを覗き込む。
現場周辺の防犯カメラに映るのは慎二らしき青年で、それはどうみても誰かを探している様子だった。


「探してる、というよりは警戒しているわね」

「いや……これは、追われてんだよ」

「さすが愛慈、俺もそう思った」


ほんの一瞬、何かに反応して走り去った慎二が防犯カメラから見切れたのを確認して動画を閉じた玲は「臆測だけど」と付け加えた。

「こないだから大森組の動きが活発になってる。けど別にあそこが黒幕じゃねえと俺は踏んでる」


愛慈がそう言ったのに頷いた玲と天音。

今まで均衡を保ち、時代の流れに沿うように静かに過ごしてきた各組が急激に活発に動き出す背景には何か理由がある。

そう考えるのが自然だと天音も愛慈も思っている。
追われているのが慎二だったことに理由なんて無いかもしれないとも考えていた。

これはまるで、古典的なーー

「火種……」

天音の呟きを拾った愛慈が天音を引き寄せる。
そして玲と天音に言い聞かせるように言った。

「可能性はある、だから暫くはお嬢を一人にはできねぇ」

「じゃあ親父もそう考えてんだね」

「ああ。俺もお前もだよ。なるべく誰かと、それか俺らと行動しろとこれは勅令だかんな」


頷いた玲も、天音も、愛慈がここまで言えば気付いてしまう。

慎二が狙われたのはあくまで偶然だった、と言うわけではない。
けれど慎二じゃなくてもよかったのだ。



「周囲は何故かウチの組を動かすことに執着してる。だからこそ確実な火種を狙ってる。慎二はあくまでその一歩だ」



愛慈の言葉に天音はハッとして両手で口元を覆う。
自分を責めるように眉間を寄せて静かに涙を溢した。



「確実な火種?」


「お嬢だよ。即ち俺達と言う意味でもある」


仲の良い組員や、歳の近い新人組員、次々と嫌がらせや目的の分からない襲撃が続く。

なるべく三人以上での行動を常に守り、人目につく場所で行動した。

不満を口にする者は居たが、全員が家族を守る為の行動を優先し相手の我慢が切れるのを待った。


「必ず焦って尻尾を出す」

「おとりは私達よ」

「心配しないで俺たち三人は大丈夫」


そう言った三人に組の者たちは不安げな表情を見せたが、愛慈の言葉でその表情はガラリと変わった。



「お嬢だけは、死んでも守る」



天音の父や祖父、彼女自身に恩義あってこの組に来た者がほとんどで、最近では愛慈に惚れ込んだり恩義を持って入る者も居た。

勿論、誰かに憧れて来た者だって居たが、ここには中途半端な気持ちで居る奴は居ない。それがこの組の強みだ。


雰囲気ががらりと変わり、玲はビリビリと身体が痺れるような感覚がした。


自分だって、天音の父や祖父に救われた一人だから。


「愛慈のだけで足りんの?俺の命も一緒に懸けてよ」

「! ……あぁ、そうだな玲」


天音は何か言いたそうな顔をしていたが、それは飲み込んだ様子だった。けれど一言だけ、よく通る声で言った。



「うちは誰も欠けない。家族にはこれ以上手を出させない」


















しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

ちゃんみんママ

最後の更新から一年以上です。
すごく大好きなストーリーなので待ちきれません。そろそろ更新お願い致します😅

解除
TOHO
2021.09.29 TOHO

とてもおもしろく、一気に読ませていただきました。更新楽しみにしています❗

解除

あなたにおすすめの小説

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

ヤクザは喋れない彼女に愛される

九竜ツバサ
恋愛
ヤクザが喋れない女と出会い、胃袋を掴まれ、恋に落ちる。

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

旦那様の愛が重い

おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。 毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。 他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。 甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。 本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

虚弱なヤクザの駆け込み寺

菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。 「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」 「脅してる場合ですか?」 ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。 ※なろう、カクヨムでも投稿

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。