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触れてはいけないもの
しおりを挟む貴族御用達の店が並ぶこの辺りは、パーティでお馴染みのよく知った顔からあまり見たことのない貴族までもが行き交う。
兄達と買い物に来たのか数分前で、協調性のない私達兄妹は見たいものがバラバラだと言う事で少しの間別行動となった。
こんな狭いエリアで多少何か起こってもお互い直ぐに魔法で駆けつけられるし、そう軟弱ではない。
兄といえど、下着の店に着いてきてもらうのは気が引ける為今のうちにとせっせと入って採寸してもらうと、目ぼしいものをいくつか注文しておく。
(下着は兄さん達の所為でよく駄目になるから、多めに買わなきゃ)
ドレスはどうやらいつも兄達が見立てているようで、買わずとも時々採寸に来ては大量のドレスが送られてくるので必要ないかと宝石店へと足をすすめていたら、新興貴族だろうか見た事もない顔のいかにも成金っぽい男が率いる、友人らしき人達とその付添人達がニヤニヤと近づいてくる。
(あんなに沢山引き連れて、いかにも成金ね)
数が多い割には使えそうな人材は居ないなとぼーっと眺めていると、あろう事かこの街のほぼ真ん中でディザスター家の令嬢もといフリアに声をかけた。
「初めましてレディ、お一人ですか?」
(誰も連れて居ない所をみると弱小または貧乏貴族か?)
相手の考えなどすぐにわかる、けれどディザスターは良くも悪くもいつも三人で行動するのだ。それ以上はかえって足手纏いだから。
街の入り口で馬車を守る精鋭護衛が三人と、護衛兼馬丁が待機しているがあくまで 馬車の護衛なのだ。
フリア曰く「馬も家族なのよ」を兄達が忠実に叶えているのだ。
「そちらはえらく大勢ですね」
「うちは新興貴族ですが金だけは有り余っていて、人が多いんです。まぁこれも経済を回しているってことですよ、ははっ」
「あ、そう」
「そちらは家来を連れて歩く余裕もないみたいだし……まだ何も購入して居ないようですが……良ければ私が好きな物を買って差し上げましょう」
(馬鹿な男達ね)
「ナンパならもっと上手くやりなさいな、惹かれないわ」
「なッ!?せっかく声をかけてやってるのに!」
「礼儀を知らない男ね」
「黙ってついて来い!!貧乏人が……ッ!!」
男が怒鳴ると同時に取り巻きの男達がフリアの両側を挟む。
この男達、自分達では直接合うことも叶わないディザスター公爵家の人間だとは夢にも思わないのだろう。
下品に笑って、まるで自分が神にでもなったかのように横柄な振る舞いをする。
「黙ってればイイ女だなぁ」なんて下から上までを舐めるように見て言うもんだからもう殺してしまおうかとフリアが考えていると、
「は……?」
気の抜けたような男の声と、ピタリと動きを止める男達。
フリアの背後から歩いてくる余りにも整った容姿の男二人の異次元の美麗さに目をぱちくりとさせている。
フリアのツバの広い帽子が風でふわりと浮いて、「あ」と言いながら帽子を取ったフリアの顔をみてまた固まる男達は一体どう言う心境なのだろうかとフリアは首を傾げたが、男達としてはフリアもまた帽子で影になっていた所為で隠されていた美しさが露見されて驚いていたのだ。
「「フリア、ソレは?」」
「なんか、新興貴族らしいわ」
「ふーん」
「に、しても品がないな」
フリアの肩に手を置いて隣に立つ二人と、先程から全く何の感情も表さない彼女はどうでも良さそうに答えた。
「な、何だお前達は!!!」
「お、おい……白髪と薄紫、美しい双子と言えば……まさか…っ」
「なんだぁ、今気付いたんだ?」
「兄さん、どうする?殺る?」
「いいよ、ちょっと絡まれただけだし……」
「うーん……」
「ファル兄さん、ベリアル兄さん行こ?」
「「んーやっぱ無理」」
あっという間に男達の真ん中に移動した二人は次々に男達を素手で倒すともう意識のない新興貴族だと言う男を殴り続けるファルズフ。
そんなファルズフを笑ってみるベリアルはもうフリアを後ろから抱きしめて彼女の頭に顎を置いている。
「ベリアル兄さん、ファル兄さん殺しちゃうよ?」
「ぶは、見てよあの白目!汚ねぇ……」
通行人である他の貴族達は怖い物見たさに立ち止まり、ギャラリーとなっている。
怯えたような声でヒソヒソと話す声は色んなところから聞こえてフリアはため息をつく。
「お、おい……馬鹿だろアイツら……」
「ディザスターに手を出すなんて」
「ディザスターを呼び起こした……っ!」
「コイツの家の事業、買おう」
男の襟を引きずりながら、爽やかな笑顔を浮かべながら近づいてくるファルズフと可愛らしく「なんで?」って首を傾げるベリアルはどう見ても地獄のようなこの絵面でも女性達の黄色い声を湧かせている。
「俺たちの方が上手くやれるよー、それにコイツの所為で家族全員貧乏人に逆戻りだよ。ベリアル、頼んだよ」
「えーまた俺なの?」
(あぁ……ファル兄さんったらまた悪い癖だわ)
「次、フリアに触れたら殺すよ?」
「ふは、聞こえてないよ兄さん」
「ねぇ二人とも帰ろ?」
そう言って二人ともまとめてぎゅっと抱きしめたフリアが気絶する男を踏んで行ったのをギャラリー達は見逃さなかった。
"やっぱり、ディザスターだ……"
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