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三人で災害
しおりを挟む貴族とは面倒なものだと、今日もパーティーの隅っこで適当にやり過ごす。
兄達に群がる令嬢達を遠巻きに見ながら、お酒を一口含んだ。
(兄さんたちは今日も格好いいわ)
特に結婚相手を探してるわけでも、ビジネス相手を模索しているでもないしある程度の情報収集さえ出来ればいいので兄達をわざわざ不機嫌にしなくてもいいように愛想は最低限に振る舞う。
思い出した記憶はどんどん薄れてって、出来る限りをメモしたものだけが私達を救う手がかりのまま。
聖女の容姿はまだちゃんと覚えてる。
「きゃっ、やめて下さい!」
「平民の癖に聖女だからってお高く止まりよって……」
「そんな事は関係ありませんっ……」
「聖女は俺たちを癒すのが仕事だろ?すぐ終わるから来い!」
見たことある中年男が聖女を口説くにしては強引に絡んでいる。
聖女になったというのに平民出だと言うだけであれ程までに、あの程度の者に無礼な扱いを受けなければならないのか?と同じ女性として腹が立つ。
フリアは近づくと、ワインのボトルを手に取って男に頭からぶっかけた。
「え……?」
(誰も助けてくれなかったのに、誰……?)
「な、何をするんだ!!!」
「あー思い出した。貴方、ナントカ大臣でしょう?」
「ディザスターの小娘が!兄が公爵であるだけでお前はただの令嬢だろう!私にこんな事をしてただで済むと思うのか!?」
(あ、この人……この子を舐めてるんじゃなくて)
「貴方、女性を舐めてんのね」
「いつも兄に守られてばかりの女ごとき何ができる!?」
「あ、あの……私の為に危険なことをしないで下さい」
「じゃ、貴女このおじさんと寝るの?」
「ひぃっ……い、いやっ!」
「それなら……大丈夫だから、そうね……」
フリアは周りを見渡して、ふと二人の兄が無表情でこちらを様子見しているのに「平気」だと込めて微笑んでから人を掻き分けて凄い剣幕で歩いてくるソルを見つけると、魔法で聖女をソルの元に飛ばした。
「きゃっ!」
「……っと、フリア!?」
「ソル、下がってて」
「君こそ危険だ」
「危険なのはどっちだと思う?」
そう言って振り返ったフリアが一瞬、彼女の兄達と重なった。
フリアの手を掴もうと一歩踏み出したが避けられた中年貴族は、
「女など何度か打てば従順なモノだ」と手を振り上げた所でフリアの魔法によって痺れてその場で動けなくなった。
まるでひどい痛みのする金縛りのような力が男を締め上げ、呻き声を上げる。
「「いいね」」
楽しそうに口元に笑みを浮かべる兄達とは対照的にディザスターをよく知る貴族達は顔色を失わせる。
「あの者は終わりだ!」
「ば、馬鹿だ……飛び火する前に離れろ」
「フリア様はディザスターの割にはお優しいけれど、怒らせたら……」
フリアは普段比較的温厚で兄達の陰に隠れてはいるが、グランツ国の災害は何も、ファルズフとベリアルだけの事を言っている訳では無いのだ。
「守られてるだけの女か、この国の、グランツの災害は……三人でだ」
「ソル殿下、あの方は……?」
「あぁ、彼女はフリア・ディザスター公爵令嬢だよ」
メキメキと骨が折れて、ブチンと筋が千切れる音が鳴ってフリアの隣にいつのまにかファルズフとベリアルが立つ。
もう正気ではない中年男性は声も封じられたようで、涙と鼻水を流して口をぱくぱくさせている。
「気持ち悪い……」
「うん、触れないでシたのはえらいね」
「フリアは優しいな」
「「俺達なら、もうコイツ死んでるよ」」
「兄さん達……」
「ねぇ、おじさん?次あの子に無礼を働いたら殺すわよ。あとあんまり……女性を舐めない方が良いんじゃない?」
コクコクと凄い勢いで頷く中年貴族はもう意識も頼りないのか黒目がバラバラの方向を見ている。
「何言ってるか分かんないわよ。じゃあ、さようなら」
男を会場の外に出すと、「失礼しました」と美しい所作で礼をしてから聖女にふわりと、微笑んだ。
「綺麗……っ」
「そう、なんだよなぁ……」
聖女の言葉に、ソルはそう言って困ったように髪をかき上げた。
「フリアは美しい毒だ」と誰かが言っていたのを思い出した。
ディザスターだとわかっていてもあの美しさに抗えない。
微笑みに頬を染めた子息達を見渡してため息をついた。
(触れたら最期の災害、それでも皆君達に魅かれるんだ)
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