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しおりを挟む「セレン嬢のお母様ですね」
「ど、しても……話したくて。エレノアさん」
想像していたよりも遥かに弱々しい、エスコートというより従者に支えられていると言った方が正しいだろう彼女は見る限りセレンよりもまともそうではあった。
「一緒に聞いても?」
心配しているのか、シドがそう尋ねると頷いて返事をしたその人の代わりに従者が彼女があまり多く話せないことを説明してくれた。
「では少し場所を変えましょう」
シドにも確認するように視線を送ると彼は了承の意を目で送ってくれた。
それからセレンの母から聞く話はどれも衝撃的だった。
セレンが彼女の真似をして身体が弱いふりをしていたこと、アッシュとセレンの事故について、そして何より
「あの子を、恨むつもりじゃありませんでした……」
セレンの母がセレンをひどく憎んでいたことだった。
「あの子、は……アッシュと自分以外愛しませ、ん」
「実の、父の死……すらも、必要だったと言いましたもの」
「けれど……殺すことは、できませんでした」
「あのひとに、そっくりだったから……はっ、はぁっ」
息を切らせながらそう訴えた彼女の母は従者に「連れて来なさい」と伝えると床に膝をついた。
「ごめんなさい、ほんとうにっ……!」
「あの、マルシュ様。私は大丈夫ですので顔を上げて下さい」
「エレノアもそう言っていますので、さぁソファに座って」
「いえ、せめて……」
セレンの母、マルシュがそう言いかけたとき扉が不躾に開いて「何よ!!いちいち呼びつけちゃって!!!」なんて性格もだが、見た目も変わったセレンが入って来た。
「あなた……セレン、なの?」
「なッ!エレノア……っ」
「セレン、心から謝罪……っしなさい……」
「奥様!!大丈夫ですか!!」
そのまま意識を失ったマルシュに駆け寄った従者達はセレンを憎々しげに見上げて「私共は皆、奥様と旦那様を慕っております」と言ったので何の話かと思えば、
「けれど、セレンお嬢様は違います」と付け加えた。
「どうやら、凄く慕われてるようだね……って」
シドは睨みつけるように見上げて立ち上がったその姿を見て驚く、何故か昔エレノアを突き飛ばして溺れさせた少女と雰囲気が被るのだ。
顔こそ見えてはいないが、見れば、会えば自分とぶつかったのはこの者だとピンと来ると思っていたのだ。
それが目の前のセレンかもしれないと思ったからだ。
そんなシドの様子に違和感を感じて思わず覗き込む、
「シド、どうしたの?」
「いや……ちょっと聞きたい事が出来た」
「聞きたいこと……?」
セレンは暴れながら「何、余裕そうな顔してるのよ!」なんて声を荒げているがシドの質問に目を泳がせた。
「君があの時エレノアを池に落とした子だね?」
「ち、違うわ!!そんな訳ないじゃない」
「そうか」
あからさまにホッとしたような表情のセレンと、驚くほどに冷ややかな表情のシドを見て理解した。
(そっか、もうあの時からセレンは私を……)
「とりあえず、監視しておけ」
「ふざけないでよ!私はアッシュを探さなきゃならないの!」
「ああ!はは……そうか、なら探してみるといい」
「え……」
「シド……」
「大丈夫だよ、エレノア」
少し考えて頷く、監視付きで会場内での行動を許可されたセレンだったがそれがまさか、そう簡単に行く筈は無かった。
「な、何よ!アンタ……っ!!」
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