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しおりを挟む退屈だ。
とても退屈で仕方が無かった、エレノアが手に入らないならばエレノアの愛したものを集めよう。
そう考えたものの、この男はあまりに下らなかった。
今もベッドで夢中になっているのはこの男だけで、クスリ無しでは精神的に参っている所為で仕事もこっちの方も使い者にならない。
自分で手がけた媚薬に避妊薬、男にいいようにされる貴族女性や身分の低くて見目の良い力無い者達が「立場を逆転する商品」それがアイリーンの作った、裏稼業の商品だった。
「全部自分でも試してるし、全部使ってみてるけど」
「っ、ふーっ、ふーっ」
「こんなに馬鹿になる人間は初めて見るわね」
煩い口には愛らしいデザインの猿轡、明らかに効能を超えて正気ではないアッシュの惨めな姿を見て気分は萎えるばかりだった。
「あら、アイリーン」
「お母様、勝手に入ってこないで頂戴」
「それは夫になった人?」
気にした様子のない母親に溜息をついてガウンを羽織ると、獣のように目を血走らせるアッシュを足蹴にして、
「ひとりで遊んでなさい」と命じる。
(ああ、ほんとつまらない人)
「エレノアさんの好きな人だったから拾っただけよ」
「それだけ?」
「エレノアさんの邪魔になるでしょ、丁度なにか欲しかったし、しつこそうだから繋いどこうと思って」
「ねぇ、貴女を慕う有能な男なら沢山居るでしょ?」
「そうね……」
「捨てろとは言わないわ、ほら私だって旦那様のシャツを着て寝ているでしょう?」
「……エレノアさんのシャツは無いもの」
「じゃあ、こうするのはどう?」
アイリーンの母は間抜けにも一人遊びに耽るアッシュを冷ややかに見た後、鞭を手に取ってアッシュを叩いた。
「この子は夫じゃくて、ちゃんと躾けて犬にしましょう」
そして、その猟奇的な瞳からは想像も出来ないほどに優しい提案を娘にした。
「エレノアさんとはお友達になるの」
「友達?そんなの居た事ないわ」
「だから、初めての深ぁーい友達よ」
「初めての、深い……」
アイリーンは頬を染めた後に、母を抱きしめて「ありがとう」と微笑むとアッシュを窓際に繋いで急いで荷造りを命じ始めた。
「犬の待遇と、関係の修正はお母様に任せて」
「ええ……お願い。私、行ってくるわ」
「ちゃんと戻ってくるのよ?貴女って盲目的だから……」
そう言った母にアイリーンは「安心して」と少しだけ笑った。
「先ずは手紙よね、訪ねる事を伝えなきゃ」
それを微笑ましげに見つめる母と、考え込むアイリーンに少しクスリの抜け始めたアッシュが呆然と問いかける。
「ねぇ……エレノア?エレノアに会いに行くの?」
「貴方には関係のない事よ」
「僕も会いたい!君の夫だろ!連れてってよ!」
「貴方は今日から犬よ、能無しに用は無いの」
「そ、そんな……ッ、僕はエレノアの元夫だぞ!」
「だから犬にしておいてあげる」
そう冷たく吐き捨てるアイリーンに絶望感を纏わせるアッシュ、やれやれと頭を振った彼女の母だったが、エレノアへの手紙を考えるアイリーンの顔つきにはほっとしたのだった。
(まるで恋する少女だけど、まぁいいわ)
「いくら完璧な娘にも、友達くらいは居ないとね」
「お母様、何かいったかしら」
「いいえ、アイリーン。とりあえず服を着て頂戴」
「こんなに完璧なのに、隠す必要が?」
「……勿体ないからよ」
納得したように服を侍女に着せてもらいに行くアイリーンを見て、母親はさらにホッとした。
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