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見えないライバル
しおりを挟む「フレイヤ、今日の予定は……」
「申し訳ありません殿下。今日はディアゴと大切な約束があるんです」
(ディアゴ……名前からして男性だな)
「それは、君にとって大切な人なのか……?」
「ええとっても!」
見たこともないようなフレイヤの満面の笑みに放心状態のルディウス。
「陛下……、陛下!」
侍従に声をかけられている事に気付いた時には既にフレイヤは居らず、「ディアゴ」と呼ばれた男が誰で、どんな関係なのか気になって落ち着かない。
かと言って、勝手に調べ上げた所でもし彼女と恋仲だったら?
そう思うと勇気を持てずにいた。
それからというもの、誘っても、誘っても「ディアゴ」「ディアゴと……」と断られるばかり、悶々とした日々を過ごしていると偶然見つけたのはフレイヤの親友であるティリア・グレイモン令嬢だった。
「失礼、レディ……宜しければ俺を助けてはくれませんか?」
「殿下!……勿論ですわ、私に出来る事であれば」
「フレイヤの事なんだけど……」
(フレイヤ……?何かあったのかしら……)
「事あればディアゴ、ディアゴと全く相手にされないんだ……」
「ああ!ディアゴですね!それは……ふふっ可愛い子ですよ。きっと殿下も仲良くなれる筈ですわ、会ってみたいと言ってみては如何でしょう?」
「あ、会ってみたい!?そんな事をしたら……」
(好きな人の男に宣戦布告しろと!?)
「フレイヤも喜ぶと思いますが……?」
(何を真っ青な顔で慌てているのかしら)
「だが……」
「では、今度一緒に行きますか?」
「え……」
「けれど、嫉妬してはいけませんよ?ふふっ」
「……行く、ディアゴを見てやろう」
「では、ご都合の良い日にお迎えにあがりますわ」
見たこともない恋敵にメラメラと闘志を燃やすルディウスはその日の為に、装飾を新調し肌を整えた。
「ディアゴ」に会ったら何て言ってやろうか?
(そもそも俺よりもいい男だというのか?)
鏡を見て首を傾げる自分はどう見てもどの男より可愛い。
「なのに、何故ディアゴなんだ。絶対にどんな奴か見てやる」
強気でいようと強く誓ったはずなのに、当日になればドキドキと胸が嫌な音を立てて不規則にうるさい。
「では、参りましょう殿下」
グレイモン令嬢に案内されて初めて来た公爵邸、出迎えてくれた彼女の母はどことなく似ていておっとりとした雰囲気に少し安心する。
「殿下、お越し頂き光栄です。夫は登城しており不在で私だけの出迎えとなってしまい……どうかご無礼をお許し下さいませ」
ティリアは目を疑った。
(いや、おば様一人……フレイヤは?)
「いや、いい。急に押しかけてすまない公爵にも宜しくお伝え願うよ」
「まぁ!寛大なお心遣いに感謝致しますわ」
(いや、だからフレイヤは?)
「おば様……フレイヤは……」
「あら……失礼しました。あの子ったら一向に部屋から出て来なくて……」
「……では、私が行ってみます」
「ごめんなさいねぇ」
何かあったのだろうか?それともルディウスを避けているのか?
どちらにせよティリアはルディウスを連れて彼女の部屋に向かう。
彼女の部屋のバルコニーが見える辺りに来て、後は中庭から中に入って階段を上るだけという所でバルコニーからひょっこりと顔を覗かせたのは、相変わらずの美貌をキラキラと輝かせるフレイヤだ。
「あら、やっぱり居たのね」
「フレイヤ!」
「ティリー!!!………と、ルディ様」
(何その反応の違い、あからさま過ぎて不敬!)
一瞬部屋に戻ったかと思うと、ルディウスに何かを投げて渡した。
(え……犬用のホネ……)
「??」
「ルディ様!それを差し上げるので帰って下さいませ」
((うそー……!!もう何か怖い通り越して凄い))
「フレイヤ、俺はコレよりもディアゴに会ってみたい」
「え……ディアゴ?」
「ああ」
「仕方ないですね、上がって来て下さい」
そう言って緩んだ顔は可愛い。
けれどその顔は自分ではなくディアゴがさせていると思うと悔しかった。
初めて上がるフレイヤの部屋に感動する余裕は無い。
「ディアゴ!久しぶりね!」
そう言ったティリアの声に反応してルディウスがフレイヤを見ると……
「殿下、こちらが私の大切な愛犬のディアゴですわ」
「「いや、どう見ても猫だわ」」
(あーでも良かった……良かった!)
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