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令嬢に贈り物は通用しない

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「ティリー、それでね……」


淑やかに、けれどもキラキラと明るい笑顔で話す目の前の絶世の美女は幼い頃からの親友で最近では国中の噂の渦中の人だ。



彼女は甘党で、その中でも特にマカロンには目が無い。


とはいえ……




「この部屋を覆い尽くす勢いのお菓子は何?フレイヤ」

「ああ……」


(すっごく嫌そうな顔するんだ)


「ひょっとして王太子殿下?」

「そうなの、きっと頭がおかしいのよ……」

「……やめなさい!不敬!」




けれども確かに一人で食べ切れるほどの量ではない。


日持ちするものが多くある辺りそのへんはちゃんと考えて贈ったのだろうが、それにしても異常である。


顔を青ざめさせるフレイヤだが、本気で拒絶しないあたりルディウス殿下を心から嫌っているわけでは無さそうだと思った……多分。



「この間お茶会に贈って頂いた花と贈り物が、多すぎて……重いと言ったら今度はお菓子を贈って下さるの……」



「……」


「あの人……重量の問題だと思っているのかしら……怖いわ」



(いや、あんたも怖いわ)


相変わらず発想が斜め上な親友に心の中でツッコんでから、落ち着こうとお茶を啜る。



「王太子殿下……いいんじゃない?女好きではあるけれど身持ちは堅いようだし有能だし容姿も素晴らしいし……ってフレイヤ?」


「はっ!?ほへんなさひ、そふね、わはひもおはひのせんふはひひとおほうわ……」


「そのマカロン、わざと詰めたわね?」


「はんのこと?」


「いや、詰め込み過ぎてもはや何語かわかんないごめん」



「んん"っそうね……私もお菓子のセンスはいいと思ってるの」

「え。何の話してる?」

「え、なに?」


(何でそっちが正統派みたいなすました顔してんの!?)



「まぁ……無理にとは言わないけど、いつかは考えなきゃならないんだし少しは候補に入れてみても良いんじゃないかしら?」


「ん……分かったわ」


しゅんととした表情で素直に頷くフレイヤは可愛いし、殿下の事を考えているのか少し憂う表情は色っぽい。




「私にはティリーが居るもん……」


なんて呟く彼女をいつもつい甘やかせてしまうのは仕方がないのかもしれない……が、愛が重いのは殿下だけではなく彼女もまたそうなのだ。


まるで王族でも迎えるのかという程完璧なもてなしに、本人の崩した態度は気怠げに見えるが、まず彼女がこのように人に対して緩く接するのは両親とティリアくらいでかなり信頼されていると感じる。


「あ……もうこんな時間ね」

「ティリー、遅くまでごめんなさい。見送りをするわ」



見送りをすると言って、公爵家で一番の騎士を呼んで馬車に乗った彼女、


(馬車?)


「ティリー、また来てね……気を付けて帰ってね」

「フレイヤ、見送りとは言わないわ絶対これ」

「質素なお見送りで申し訳ないんだけれど……」

 
「そうじゃなくて……」


「??」





「此処もう私の邸なの」

「あっ、私ったら……」


見送りというよりは、わざわざ屈強な騎士を連れて盛大に送り届けてくれたフレイヤの愛はやっぱりかなりの重量だと思う。




けれども、素直な癖に素直じゃ無いという事も知ってる。


「私の馬車がこの前、強盗に囲まれたのを知っていたのね」


「えっ、な、何かしらそれ!」

「心配だから送るって言えばいいのに、何故そんなに変なやり方するの」

「何て言ったらいいのか分からなくって」

「ふふ、確かに。うちにも騎士がいるから大丈夫よと断ったかも」

「……」

「ありがとう、フレイヤ」





「あ……こんにちはおじ様」

(いや、それメイドのステラだわ)


「フレイヤお嬢様、人違いでございます」

「えぇおじ様こんな感じじゃなかった?」

「いや違う」



「じゃあ、帰るわ」といって馬車に乗り込むフレイヤの耳が赤いのは言わないでおいてあげよう。



人間離れした美しい容姿の所為と身分が合わさって初めは誰も彼女に近寄らなかった。


その所為で表面的な対応は上手く出来るものの、友達付き合いが苦手な上に照れ屋な彼女は不器用な優しさをいつもくれる。



「私も大好きよ、フレイヤ」



「あの……お嬢様。フレイヤ様が沢山のお菓子を置いていかれました」



「フレイヤ……?」







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