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お食事中はお静かに
しおりを挟む「フレイヤ、どうぞ座って」
「ええ……ありがとうございます」
食堂の椅子を引いてフレイヤをエスコートするルディウスは彼女のどこか上の空な返答に緊張しているのかと心配になった。
「フレイヤ、緊張しなくても父上は穏やかな人だよ」
「緊張ですか?」
「違うのか。なら、どうしたの?」
「……テーブルが長すぎると思って」
「は?テーブル……」
「きっと大きな声で話さないと聞こえないのだと思うと……」
フレイヤは不安気な表情だか……
「不安になる所、そこ?」
「うちは、家族仲が良くて声が聞こえる程度のテーブルを囲んでいますので……」
「うちも家族仲いいからね!?」
キョトンとした顔で「そうですか、すみません」と言ったフレイヤの声に被さるように扉の開く音が鳴って、聞き慣れた重みのある足音に二人で立ち上がるとルディウスに似ているが彼より少し低めの声がフレイヤに降ってきた。
「フレイヤ、久しぶりだなぁ……美しくなった。うわさ通りだ」
少し遅れて入ってきた王妃は軽く目を見開き、少しだけ頬を膨らませる。
「まぁ!意地悪だわ……知っているのなら教えて下さってもよかったのに」
美しいカーテシーを崩さぬフレイヤの隣でルディウスもまた驚いた表情だ。
「お久しぶりです、陛下。身に余る光栄です」
((あ……ちゃんとしてる))
てっきり「どちら様?」なんて言い出したらどうしようかと身構えていたルディウスは少しだけホッとしながら父である国王に尋ねた。
「父上は、フレイヤを元々知っていたのですか?」
「ああ。アメノーズ公爵家だぞ知らぬ訳がないだろう」
「「確かに」」
「一度だけ幼い頃に、公爵が連れてきてな。あの時はよく笑ったなぁ」
「陛下、その話は……」
「まぁ皆座りなさい」
どおりで緊張していないのだとルディウスが納得していると、赤くなって眉を顰めるフレイヤに笑いながら当時の話をする国王。
(こ、子供の頃のフレイヤ……知りたい!)
当時五歳だったフレイヤは侯爵とはぐれて王宮で迷子になっていた。
丁度、侯爵と話す予定だった国王が偶々見つけたのだという。
「おや、小さなレディ。迷ってしまったのか?」
「いいえ!まよってしまいました!」
(いや迷ったんかい)
「お名前を聞いてもいいかな?」
「フレイヤ・アメノーズです、あなたは……ハッ!」
「??」
「きっとユウカイハンね。わたしはだまされないわよ」
「ぶっ!私が誘拐犯に見えるか?」
「みえますわ!」
「ははは!これはすまんかったな……!」
すっかりと国王を怪しんだフレイヤをアメノーズ公爵の元へと連れて行くのに手間取った国王がすっかりと公爵との約束の時間を遅れてしまうと、
「ちこくはダメよ、おとうさま!」
と、国王を見上げて言ったそうだ。
「あははっ本当に面白い子ね、何でお父様だったの?」
「フレイヤは父上が国王だと知っていたのか?」
「ははは!いや、知らなかった。その理由をフレイヤに聞くとな……」
「陛下、忘れてください……ご無礼を申し訳ありません」
「いや、無礼ではない。子供らしくて可愛かったぞ」
幼いながらも飄々とした雰囲気で見上げて来たフレイヤ。
「な、どどういう事だ……フレイヤ」と顔を青くさせたり、落ち込んでみたりする表情の忙しい公爵など気にした様子もなかった。
ただ、さも当たり前かのように国王に言ったのだ。
「だって、あなたおとうさまよりカッコいいしお金もちそうだったから」
「「ぶっ!!!不敬すぎるけど逆に無罪だわっ」」
王族である事を忘れたかのように大笑いするルディウスと王妃はどこか似ていると思った。
「子供でしたので……」
恥ずかしさで顔を俯かせると、唐突に手を重ねられて「は?」とルディウスの方を見る。
「でも、俺と結婚したら本当にお父様になるね」
「あ、お断りします」
「「ぶっ!!!」」
「ち、父上母上っ……」
「ふふっ」
「わ、笑った顔が可愛い」
(スン)
「無表情やめよっか」
「まぁ……フレイヤ、どうか愚息を頼むよ」
「う"っ」
「もれなくお金持ちの父と母がつくぞ、それに顔がいい」
「えっ」
「いや、それに釣られちゃだめでしょ」
「ルディ様うるさい、食事中は静かにして下さい」
「えっ……」
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