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親友というポジション
しおりを挟む「フレイヤ、今度カシュタルに新しく出来たカフェに行かないか?」
「ごめんなさい、それはティリーとこの間……」
こんな事は初めてではない。
今度こそ自分が一番目だと思えば、必ずフレイヤの口からでる「ティリー」
彼女はどちらかと言えば協力的だしとてもいい子だと思う。
だが、どうしても嫉妬するのだ。
(ティリー、ティリー、ティリー何をやっても先回りされる)
彼女は長年の親友だと言う事もあって、流石フレイヤの事を熟知しているようだ。
好きそうな店、新作のお菓子、好きそうなブティック……何からなにまで。
ティリアは一見クールにも見えるがフレイヤをかなり甘やかしている。
また、フレイヤもティリアの事を熟知しており持てる力と金をふんだんに使っては彼女を喜ばせようと日々目論んでいる。
(時たま可笑しな事をするのにも理由があるのだろう……多分)
今日も「この間行きました」と言われてしまい手札のカードがなくなった俺はディエゴを抱いてソファに丸くなっている。
「いや、帰れ」
「不敬」
「帰りやがって下さい殿下」
「悪化!」
「何をいじけているのですか?」
「いま、小声で鬱陶しいと聞こえた」
「気のせいでは?殿下もお歳ですかね……どうぞお入り下さい」
「その棺桶どっから出した?」
相変わらず様子のおかしいフレイヤのこれは通常運転なのだと近頃慣れつつあるが、どう考えても「ティリー」に連敗している事だけはどうにかしなければならない。
「で、いつまで居座るつもりですか?」
そう言いながら、お茶を淹れてくれるようになったことは進歩と言ってもいいだろう。彼女の滑らかな手を見つめていると目の前にティーカップが差し出された。
(あ、好きな香りだ)
「フレイヤの初めてを手に入れるまで」
「え……っ」
「……誤解だ。そう言う意味じゃない」
「……」
「頼むから、その目はやめて」
「じゃあ、どういう意味ですか?」
軽蔑するようにかなり遠い壁際まで離れて言うフレイヤに、
「君の親友と行っていない場所はないのか?」と聞くと軽く目を見開いて、ふわりと微笑んだ。
「何だそんな事ですか?」と言ってくれるのかと期待の眼差しでフレイヤの言葉を待つと、彼女は弾んだ声で、可愛い笑顔で言った。
「今のところはありませんね」
「……」
「……?」
「男心がわかっていない!」
「必要がありますか?」
「俺の男心だけ分かって欲しい」
「頭を打ちましたか?」
「君には言われたくない」
すると、「うーん」と少し考える仕草をしたフレイヤは閃いたように
「ルディ様の部屋には行ったことがありませんね!」
と、笑った。
深い意味は無いのだとちゃんと分かっているが、それでも期待したい。
(あー俺、きっと顔が赤いな)
「あの……じゃ、来る?」
勇気を出して言った!
よくやった俺!と心の中でガッツポーズを決める。
「えっと……お断りします?」
「なんで、この流れで断る?」
「だって何だか……なんとなくです」
「それって意識されてると捉えても?」
「えっと、部屋はここでしたっけ?」
「それ君が用意した棺桶だわ、殺す気か」
もう興味を失ったように違う事をし始めるフレイヤの横顔を見つめながら、
「ま、いっか」と呟くと、フレイヤが
「今度近くに新しいケーキ屋さんが出来るらしいですよ」
と、どうでも良さそうに呟いた。
(これって……!)
数日後、まさにフレイヤの好きそうなケーキが並ぶ店頭で王太子自らケーキを選ぶ姿は少し騒ぎになったものの急いでフレイヤの部屋に行く。
「フレイヤ!今日が開店だったんだ、ケーキを……」
目の前には同じ箱を持った「ティリー」ことグレイモン令嬢と顔を緩ませたフレイヤ。
「あ、殿下……ご機嫌よう。私の用はすぐに済みますので」と空気を読むグレイモン令嬢だが違う。問題はその手に持つケーキなのだ。
(まるで、耳を垂らして落ち込む子犬のようね……何故かしら?)
ティリアが不思議そうにフレイヤを見ると、「はぁ」とため息を吐いてルディウスに近寄りケーキの箱を奪った。
「ルディ様のを先に受け取ったので、今日はこれが初めてですね」
「フレイヤ!やっぱり俺の事を……!」
「誤解」
「弄んだな!」
「帰って」
(いや、もうお似合いだわアンタら)
「私のいちばんはティリーだと決まっているので」
「……」
「えっ視線で殺されそうかな?」
「ルディ様、お菓子のセンスだけは最高」
「何で不敬で捕まんないの?」
「……?」
「……」
「フレイヤ、ディアゴにも食べさせてもいいかな?」
「やめてください」
(いや、なんでアンタは我が物顔で寛いでんの?)
結局、ケーキは三人で仲良く食べたもののドッと疲れたティリアであった。
「結局殿下って何にこだわってたの?」
「あの人はいつもおかしいから気にしないで!」
(うん、あんたもいつもおかしいからね)
「失礼な事考えた?」
「いや、全然」
「ふーん」
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