王太子様、丁寧にお断りします!

abang

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隠したいのは照れだけ

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いつも通りフレイヤの邸に行くと、珍しく部屋には居ないので探す。


「お嬢様なら、会議中ですよ」

と馴染みのメイドが場所を教えてくれるほどにこの公爵邸に馴染んでいる俺は指定された部屋をノックした。



「あ、どうぞ」


フレイヤからの軽い返信で扉を開けてから驚愕した。



(女性?いや……男か?)

フレイヤに寄り添うように机の前に立つ、短いサラサラの髪に男とも女ともとれる綺麗目の中世的な顔、男にしたら低いが女にしたら珍しい背丈。


剣を嗜む者なら分かる、騎士服で分かりにくい上にかなり細身だが鍛え上げられた肉体。


そんな二人が机の上に開いて見ているのは、最近王家から打診あった件だろう。


アメノーズ家の持つ領地の近くに陣を張った新国の彼らが攻め入る前に手を打つ事が任務だった筈だ。

けれど、王家にとってもアメノーズにとっても大した事ではない規模。

指揮をとっているのはまさか……


「君が今回の指揮を!?」

「ええ、暇なので」


(暇だから、防衛戦の指揮をする令嬢が居てたまるか

「ダメだ」

「私もアメノーズの者ですが」

「危険だろう!」

「領民は今も危険に晒されています」

「……っ」



返す言葉が見つからず、チラリとフレイヤの隣のさっきから気になる人物を見る。

目が合って会釈をする仕草は騎士そのものなのに、いつもの彼女の護衛騎士のシルマではない誰か。



(やはり華奢な男か?だとしたらどういう関係だ?)


これほど通っていて、初めて会うその顔に警戒するルディウスを不思議そうに見て「ルディ様は来ないで下さいね」って普通に言われた。



「……他に兵を率いる者は居ないのか」


「大丈夫よ、ベイリーが帰ったもの」


(ベイリー……名前を聞いても性別がわからないッ)


「殿下、お初にお目にかかります。アメノーズ公爵家の騎士ベイリーと申します。平民の出ですので苗字はありません」


(まさか、貴族の男にはない逞しさを求めて……いや、フレイヤに限ってそんな事はない。俺を恋人と言ったんだから)



「ルディ様、今日はやけに大人しくて気持ち悪い」

「え」

「お嬢、言葉使いがいつも通りダメです」


注意されて眉を顰めるフレイヤが開く地図をふと見下ろすと……


「フレイヤ、なにしてた?」

「え、作戦会議ですが」

「嘘つけ」


そこには敵の位置の記された場所に、自分達の軍の包囲する位置だけを決めて、そこから敵へと伸ばされる乱雑な矢印。

そして大きな字で書かれていたのは。


"私とベイリーに続いて、全員殲滅"


「今度は小規模なので、単純な策で行きます」

「これは策じゃなくて殺害予告だ」

「それか、殺戮命令ですね」

「君も変だな!?」

「あ、いつものルディ様だ」


もう、諦めたというように意を決して問う事にしたルディウスは、言い澱みながら不安気にベイリーを見てからフレイヤに尋ねる。



「フレイヤ、その人は?」

「この人は私の右肩」

「右腕かな?」

「そう、肩」

「どっちにしろ違うよフレイヤ」

「変なルディ様」



「えっと、失礼だがその、性別は……」

「ベイリーは女性ですが」


「よかったぁ……男なら少し、妬いた」


失礼だと怒り出す事もなく「よく聞かれます」と微笑ましげに笑ったベイリーに丁寧に謝罪してからフレイヤに向き合う。


「君が危険な目に遭うのも嫌だし、任務でも他の男と二人きりで居ると嫉妬する。けど君を尊重したいと思ってる、から……」



「呆れないで」


そう言ったルディウスにフレイヤの目は軽く見開かれ、頬は赤かった。

はずなのに……




「ストーカーが今更何を言ってるの」

「泣いていいかな?」




「ふふ、ご心配不用です。お嬢様が浮気したり、殿下に隠し事などありえませんよ」

(照れ隠し以外は)

 
ベイリーが留学していた彼女の右腕だという事を説明されたルディウスがホッとするのはこのすぐ後の話……
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