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王太子妃教育は大変
しおりを挟むルディウスとの婚約の承認と共に、義務となった王太子妃教育。
いくら公爵令嬢として教養があるとはいえ、妃として今から学ぶのは些か遅いので無理をしていないか心配になったルディウスはフレイヤの様子を見に行くことにしたが……
「講師のあの者は確か……」
マナーの講師であるフレイヤより一つ歳上のキャロレイ・ヒドラ伯爵令嬢は王太子妃候補となる為、幼い頃より家門から厳しい教育を受けてきたらしく、その者には見覚えがあってヒヤリとした。
(彼女は確かパーティーの度によく見る顔だ)
よく見るとは、控えめに言った方で近頃見ないと思っていたもののキャロレイはパーティーや外出の度にあからさまに言い寄ってきていた。
まさかフレイヤの気を損ねるような事や、嫌がらせをしなければいいがと一応声をかけずに見守ることにしたものの明らかに悪意のある嫌味と態度、段階をすっ飛ばした難易度の高い授業に驚く。
「このくらいは出来て当然ですわ、フレイヤ様」
「そう、あ……このお茶とても好きだわ」
「……フレイヤ様、運良く、偶然みそめられたからと言って油断していては、もっと有能な者に殿下が心変わりされるかもしれませんよ」
「運良く殿下に見初められたのが私で良かったわ……でないとあの人ストーカーで捕まっている所よ」
「……は?」
(なんの話をしてるのこの人)
控えてるいる王宮の使用人たちの所々から「ぶは!」と思わず吹き出したような声が聞こえて振り返るも、いつも通りの無表情。
キャロレイは不思議そうに見渡してから、溜息を吐いた。
「貴女が変人だという噂は本当のようですね」
「まぁ!そんなに褒めないで頂戴キャロル」
「褒めていません!」
「キャロルったら意外と気さくなのね」
「ーっ、先程から名前が違うのですが……」
「えっ!あら御免なさい……ゴンザレスだったかな?」
「いや誰?なんでそう思った?」
「えっと…‥顔かな?」
「ほんと、この人殺意しか湧かない」
最早もう誰も隠しきれていない、クスクスと肩を震わせる使用人や護衛達。
初めからずっと嫌味ばかり言われて、難しいことばかりを教わっているとたった今近況報告を受けていたルディウスはポカンとした顔でフレイヤ達を見つめる。
「ねぇゴンザ、授業の時は香水を控えめにして欲しいのだけど……」
「だからゴンザレス違うし、略さないで下さる?」
「キャロレス?」
「混ぜんな」
「もう、なんだっていいや」
「忘れたわね?名前」
「……先生、今日はどうもありがとう」
「勝手に帰ろうとしないで下さい」
するともう限界だと言わんばかりにキャロレイの背後の護衛騎士が声を荒げた。
「先ほどからお嬢様を揶揄ってばかり……っ!いくら公爵令嬢とは言え我慢なりません……っ!?」
一歩、勢いよくフレイヤの方へと進んだ所でその者の顔面はテーブルへとめり込んで、二つに割れたテーブルを通過して地面に伏せ込んだ。
「「「「え"っ」」」」
後頭部にはしっかりとフレイヤの手が上品に添えられていて、
恐ろしいほど可愛く、ついうっかりの表情を浮かべるフレイヤ。
(フレイヤーーー!?!?)
ルディウスの心の叫びなど聞こえないフレイヤと、
顔を青ざめさせて、口をパクパクさせるキャロレイ。
フレイヤの背後から護衛騎士の怒りを含んだ声がかけられる。
「フレイヤお嬢様……?」
「えっと……ハエが飛んでいたから潰そうと思って」
「顔が潰れていますが」
「元々こうだったわ」
「そうですか」
「いや、この人ら失礼すぎるわね」
「って!フレイヤ様!こんな事が許されると……!」
我に返ったキャロレイが金切り声で怒りを露わにすると、落ち着いたルディウスの声がそれを遮る。
「待て、俺が代わりに謝罪しよう」
「ルディ様」
「ルディウス殿下!」
「すまなかったなキャロレイ嬢、婚約者の無礼をどうか許してくれ」
「ですが!講師として彼女はあまりにも殿下に相応しくないと……」
「君の態度と工程を無視した授業は棚に上げるんだな、キャロレイ嬢」
「そ……それは、」
「知らないと思ったのか?」
「ねぇ、ルディ様」
「フレイヤ、すまないが君のためにもこの件を放っておく訳には……」
「この授業工程だけれど、暇だったからもうかなり前に全て済んであるのだけれど……確か十二歳の頃に終わったわ」
「「え?」」
「お母様が教育熱心で、他にやる事が無くなったの」
「そんな理由?」
「何かさせておかないと、おかしな事をするからって」
(うわぁ……否めない)
「お母様って可笑しい人でしょ?ふふっ」
「君には負けるけどな」
「なに?」
「急に真顔」
「あ、あの殿下……」
「ルディ様、帰して差し上げて?また遊びましょうね!……ゴンザ」
「フレイヤに免じて不問とするが、次はないぞ……ゴンザ」
「……だから、ゴンザ違うんだわ」
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