王太子様、丁寧にお断りします!

abang

文字の大きさ
29 / 42

王太子妃教育は大変

しおりを挟む

ルディウスとの婚約の承認と共に、義務となった王太子妃教育。


いくら公爵令嬢として教養があるとはいえ、妃として今から学ぶのは些か遅いので無理をしていないか心配になったルディウスはフレイヤの様子を見に行くことにしたが……


「講師のあの者は確か……」


マナーの講師であるフレイヤより一つ歳上のキャロレイ・ヒドラ伯爵令嬢は王太子妃候補となる為、幼い頃より家門から厳しい教育を受けてきたらしく、その者には見覚えがあってヒヤリとした。


(彼女は確かパーティーの度によく見る顔だ)


よく見るとは、控えめに言った方で近頃見ないと思っていたもののキャロレイはパーティーや外出の度にあからさまに言い寄ってきていた。



まさかフレイヤの気を損ねるような事や、嫌がらせをしなければいいがと一応声をかけずに見守ることにしたものの明らかに悪意のある嫌味と態度、段階をすっ飛ばした難易度の高い授業に驚く。



「このくらいは出来て当然ですわ、フレイヤ様」


「そう、あ……このお茶とても好きだわ」


「……フレイヤ様、みそめられたからと言って油断していては、もっと有能な者に殿下が心変わりされるかもしれませんよ」


「運良く殿下に見初められたのが私で良かったわ……でないとあの人ストーカーで捕まっている所よ」


「……は?」

(なんの話をしてるのこの人)


控えてるいる王宮の使用人たちの所々から「ぶは!」と思わず吹き出したような声が聞こえて振り返るも、いつも通りの無表情。


キャロレイは不思議そうに見渡してから、溜息を吐いた。



「貴女が変人だという噂は本当のようですね」

「まぁ!そんなに褒めないで頂戴キャロル」

「褒めていません!」

「キャロルったら意外と気さくなのね」



「ーっ、先程から名前が違うのですが……」


「えっ!あら御免なさい……ゴンザレスだったかな?」


「いや誰?なんでそう思った?」


「えっと…‥顔かな?」


「ほんと、この人殺意しか湧かない」



最早もう誰も隠しきれていない、クスクスと肩を震わせる使用人や護衛達。


初めからずっと嫌味ばかり言われて、難しいことばかりを教わっているとたった今近況報告を受けていたルディウスはポカンとした顔でフレイヤ達を見つめる。




「ねぇゴンザ、授業の時は香水を控えめにして欲しいのだけど……」

「だからゴンザレス違うし、略さないで下さる?」

「キャロレス?」

「混ぜんな」

「もう、なんだっていいや」

「忘れたわね?名前」

「……先生、今日はどうもありがとう」

「勝手に帰ろうとしないで下さい」




するともう限界だと言わんばかりにキャロレイの背後の護衛騎士が声を荒げた。



「先ほどからお嬢様を揶揄ってばかり……っ!いくら公爵令嬢とは言え我慢なりません……っ!?」


一歩、勢いよくフレイヤの方へと進んだ所でその者の顔面はテーブルへとめり込んで、二つに割れたテーブルを通過して地面に伏せ込んだ。


「「「「え"っ」」」」


後頭部にはしっかりとフレイヤの手が上品に添えられていて、

恐ろしいほど可愛く、の表情を浮かべるフレイヤ。


(フレイヤーーー!?!?)

ルディウスの心の叫びなど聞こえないフレイヤと、


顔を青ざめさせて、口をパクパクさせるキャロレイ。

フレイヤの背後から護衛騎士の怒りを含んだ声がかけられる。



「フレイヤお嬢様……?」

「えっと……ハエが飛んでいたから潰そうと思って」

「顔が潰れていますが」

「元々こうだったわ」

「そうですか」

「いや、この人ら失礼すぎるわね」



「って!フレイヤ様!こんな事が許されると……!」


我に返ったキャロレイが金切り声で怒りを露わにすると、落ち着いたルディウスの声がそれを遮る。


「待て、俺が代わりに謝罪しよう」

「ルディ様」

「ルディウス殿下!」


「すまなかったなキャロレイ嬢、無礼をどうか許してくれ」


「ですが!講師として彼女はあまりにも殿下に相応しくないと……」


「君の態度と工程を無視した授業は棚に上げるんだな、キャロレイ嬢」

「そ……それは、」

「知らないと思ったのか?」

「ねぇ、ルディ様」

「フレイヤ、すまないが君のためにもこの件を放っておく訳には……」

「この授業工程だけれど、暇だったからもうかなり前に全て済んであるのだけれど……確か十二歳の頃に終わったわ」


「「え?」」


「お母様が教育熱心で、他にやる事が無くなったの」

「そんな理由?」

「何かさせておかないと、おかしな事をするからって」

(うわぁ……否めない)

「お母様って可笑しい人でしょ?ふふっ」

「君には負けるけどな」

「なに?」

「急に真顔」


「あ、あの殿下……」

「ルディ様、帰して差し上げて?また遊びましょうね!……ゴンザ」

「フレイヤに免じて不問とするが、次はないぞ……ゴンザ」




「……だから、ゴンザ違うんだわ」










しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

憧れの騎士さまと、お見合いなんです

絹乃
恋愛
年の差で体格差の溺愛話。大好きな騎士、ヴィレムさまとお見合いが決まった令嬢フランカ。その前後の甘い日々のお話です。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

妾に恋をした

はなまる
恋愛
 ミーシャは22歳の子爵令嬢。でも結婚歴がある。夫との結婚生活は半年。おまけに相手は子持ちの再婚。  そして前妻を愛するあまり不能だった。実家に出戻って来たミーシャは再婚も考えたが何しろ子爵領は超貧乏、それに弟と妹の学費もかさむ。ある日妾の応募を目にしてこれだと思ってしまう。  早速面接に行って経験者だと思われて採用決定。  実際は純潔の乙女なのだがそこは何とかなるだろうと。  だが実際のお相手ネイトは妻とうまくいっておらずその日のうちに純潔を散らされる。ネイトはそれを知って狼狽える。そしてミーシャに好意を寄せてしまい話はおかしな方向に動き始める。  ミーシャは無事ミッションを成せるのか?  それとも玉砕されて追い出されるのか?  ネイトの恋心はどうなってしまうのか?  カオスなガストン侯爵家は一体どうなるのか?  

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...