王太子様、丁寧にお断りします!

abang

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仕返しの代わりに悪戯

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「あら…貴女がフレイヤ嬢ね?」


この明らかにたわわなお姉様、他国からの貴賓である。

少し離れた国の第一王女で世界会議や公務でルディウスとは幼い頃からの仲だというその人は明らかな敵意をフレイヤに向けていた。


「……初めてお目にかかります、リリエン王女殿下」

「へぇ噂どおりとても美しいのね」

「ありがとう御座います、運良く恵まれてしまいまして」

「は?」

(容姿がってこと?……嫌味に気付いて居ないのかしら)


ヒソヒソと明らかに無礼な態度で話し出すリリエンの側近や侍女達。

チラリと見てから特に気にした様子もなくニコリと微笑んだフレイヤにリリエンはやはり唯の変わり者で鈍感な令嬢だろうと内心鼻で笑った。



「ふふ、可愛らしい方ね」

「それほどでもありませんわ」

勿論その言葉の意は「馬鹿で可愛いわね」ということだがフレイヤはそれすらも飄々と躱してただ微笑むだけで寧ろどこか違う事を考えてさえいそうな雰囲気だった。

その時、リリエンの側近である人物が静かな王宮の廊下で突然背後から聞こえたよく通る声に飛び跳ねて隣に飾ってあったおおきな花瓶を倒してしまう。


「フレイヤ、ここにいたの!」



フレイヤならば受け止める事も出来ただろうそれを、ただ眺めたフレイヤは「キャア!!」と声をあげて床に落ちて跳ねたほんの小さな破片で小指をほんの少しだけ切ったリリエンの悲鳴に軽く目を見開いた。


「……ルディ様、リリエン王女殿下を驚かせてしまったようです」


「っあ、すまない!怪我はないだろうか?」

「ルディウス……指を少し切りましたが平気です」


申し訳なさそうに眉尻を下げたルディウスにしなだれかかり、フレイヤに見せつけるように少し口角を上げたリリエンの顔が少し青い。



それもその筈で、ケガをした自分の血など一ミリも見たことがないのだ。

本来ならば側近を怒鳴りつけてクビにしてやりたい所をルディウスの手前こうしてか弱いリリエンを演じただけ、垂れるほどもない血がプツリと滲む切り傷が怖くて、不安だった。

その不安をまるで煽るように悲しげに「まぁ大変だわ……」と小さくつぶやくフレイヤの声に皆がリリエンを見てからフレイヤを見る。



「ど、どうしたのフレイヤ嬢?」

「なんでもありませんわ」

「言いなさいっ!」

「いえ……昔に指を怪我した際に細菌が入って壊死し、腕ごと切り落とした騎士を思い出して不安になっただけです」


「え"」


「ほんとに、全身に菌が回っていれば死に至る事もあったと医師が言っていたので、腕だけで済んだだけでも幸いでした」


「!?」


「全く関係ない話をすみませ……」





「ゔゔゔあぁぁぁ!エリ!セイク!どうに"かしてよぉ~~!死んじゃう~~っ!!」


「リリエン王女!?」

「号泣!?」

(いや、まさかそんな訳ないがまさかあの程度の傷で死ぬと思っているのか?)


「安心して下さい、ただの切り傷ですわ王女殿下」

「だって!壊死するって~っ!!ルディウス、だすげてぇ」

「えっ、いやだから……」


ルディウスは「それでは」と何事も無かったように立ち去ろうとするフレイヤの腕をガシリと掴んで引き止めると取り乱すリリエンに聞こえないように一人で逃げるなと訴えかける。


「フレイヤ、せめて収拾をつけてからっ……!」

「え?勘違いなので直ぐに気付くでしょう」

「可愛い人達の監督は管轄外ですわ……頭が」

「他国にも不敬!?」

取り乱すリリエンの一行を感情の読み取れない表情で見つめてから、ため息をついて「憐れだ」と言わんばかりに顔を左右に振る。




 「フレイヤ頼む……」

「無理です」

「何であんな紛らわしい話を」

「腹いせかな?」

「えー……っとやっぱり逃げんな?」

「だってこんなに可愛い頭だと思ってなかった」


「「「おい」」」


「う"あぁああ!死んじゃう~~っ!お父様、おがあさま~っ!!」

「あの……リリエン王女……その」

「うええ"ええん」



「何か……言葉が違うみたい。通じ合えないわ」

「フレイヤ、もうやめて!」


後日無事に誤解は解け、勘違いして取り乱した姿を見られた恥ずかしさでリリエンはフレイヤに強気でいびるのをやめたそう……


「あら、フレイヤ嬢……」

「ご機嫌よう、王女殿下」

「相変わらず気楽そうで羨ましいわ」

「へ?指が壊死しないかですか?」

「ーっ!もういいわ!!本当嫌い」

「私は好きですよ」


(絶対面白がってるわこれ)



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