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優しいきみも好きだ
しおりを挟むあれ以来ミリムは俺の前にも姿を現すようになった。
どうやら腕には問題ないが年齢が幼い為、フレイヤは仕事よりも教育を受けさせてよく寝てよく食べさせるように命じているらしくミリムもまた「恩人」だというフレイヤの言うことはよく聞く。
「フレイヤ様!この方は旦那さまですか?」
「うーん、どうだったかしら」
「フレイヤ……っ!そんな!」
「ちがうの?」
「嘘よ、旦那様で合ってるわ。王族については習った?」
まるで姉弟のような光景に微笑ましく傍観しているものの「王族については習った?」と言う言葉が気になる。
察したようにまずミリムに「話しても?」と了承を得てから説明された話は衝撃的であまりにも悲しかった。
「私の影達の殆どが今は無い小さな村ハザックという所の出身でミリムもまたその村の出身です」
「ハザック……!本当に居たのか!」
「ご存知の通り、戦闘における天才的な才能と身体を持ったハザックの者達、特に純潔と呼ばれる者達を手に入れようと多くの者達が何度も侵略を試み比較的弱い女子供ばかりが囚われ売買されました」
「まさか、実話だったとは……」
「どの国もが架空として扱ったのは、自国で密かに囲い込み軍事力にしようとしたからです。ですがその村は私が滅ぼしました」
「ーーっ!!」
「嘘です」
「ふざけるな、息が止まった!一瞬」
「それを言うなら心臓では?」
「もうほんと嫌」
心臓を抑えてソファの肘掛けに倒れ込んだルディウスを特に気にする様子もなくチラリと見てから平然と話を続けるフレイヤにはもう触れないでおこう……
「とにかく、偶然その村を拾いました」
「全然分からない、いや、分からないよ?」
「暴漢だと思って全員ぶちのめ……制圧したら」
「今ぶちのめしたって言ったよね?」
「あっ……お兄様が」
「遅い、察しはついてるから安心してフレイヤ」
「私も、少し鍛えてますので……」
(なんでここで恥ずかしそうなんだろう……でも可愛い)
「意図せず争いに巻き込まれてしまって、事情を知ったので放って置けなくて……」
「それがね!フレイヤ様はすごいんですよ!!!」
ミリムが目を輝かせて言う。
ミリム曰く、フレイヤが来た時には既に村はほぼ全焼し八人の民が残って居ただけだったらしくいくら戦闘民族とはいえ数の力に屈する寸前だった。
何処からか来たフレイヤが敵軍を全滅させるまでは。
ハザックの者達がそれなりに片付けて居たとはいえ、ドレスのままの何処から見ても貴族令嬢があっけなくひと軍を制圧した姿に惚れ込み「燃えたしウチに来でも良いですよ?」なんて命の恩人の雑な誘いに全員でついて来たのだと言う。
後から追ってきたケールが「急に血相を変えてどうしたんだ!」って慌てていたことからきっとフレイヤは偶然暴漢だと勘違いしたのではなく、偶然攻め込まれた一般市民を見つけて駆けつけてくれたのだと思うとミリムはこっそり教えてくれた。
「あなた達がハザックだと知った時は驚いたわ」
「?」「ふ、フレイヤさまぁ……」
「ハザックは無敵だと聞いていたから」
「ぼくは今から強くなるんだもん~!!」
「ははっ……!俺の妻は優しい人だね」
「誤解です」
「台詞も表情も間違ってんだわ」
(でも可愛い。優しい妻最高)
まるで無実を訴えかけるような表情と声色にミリムまでもが「なんで!?」と驚くものの心底嬉しそうにルディウスの耳に近づいて「でもやっぱりフレイヤ様は優しいよ」とはにかんだ。
「僕たちに言ってくれたんだ」
「"戦わなくてもいいのよ"ってあとね……」
「ミリム、やめて下さい」
「気になる……ミリムも言いたいよね?」
「はい!!フレイヤ様は"これからは守ってあげるから"ってとって美しい笑顔で言ってくれたんだよ!!だから僕たちの女神なんだ!」
「フレイヤ、顔赤い……可愛いっ!!」
「そっちの目が赤いんですよ」
「そんな訳あるか」
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